01-12.危機感
思い出した。忍者ちゃんをどこかで見た事がある気がしていたんだけど、あれは本来通う筈だった高校の合格発表の帰り道だ。近所の公園で見かけて思わず興奮しちゃったんだ。
あの時見た彼女はまるで雪の妖精のようだった。それが綺麗だった事もあるけど、何よりアニメキャラにそっくりだったのだ。思わずマジマジと見つめてしまった記憶がある。それで向こうからも見られて慌てて視線を逸らしたっけ。我ながらあの時は挙動不審だったよね。
なんであの時出会った雪の妖精さんが私専属の護衛忍者になってるんだろう? 因果関係が意味不明だ。まさか一目惚れされた? 或いは他の誰かに命を狙われてたりして。もしかして私何かやばい現場に居合わせちゃった?
けどそんな理由でわざわざ進学先を変えて手厚く保護したりなんてするかな? むしろ忍者ちゃんの個人的な事情がありそうな気もするんだけど。先日照れて視線を逸らした忍者ちゃんは昼間の幼馴染ちゃんと似ていた気がする。そんな風に思うのは失礼かな? 自意識過剰かな? こっちの世界に来てからモテ期がきてるっぽいからついつい調子に乗っちゃったかも。そもそも幼馴染ちゃんを除けばモテ期なんてのも勘違いかもだし。単に私が小さくて弱っちいから皆気にかけてくれてるだけかもだし。いや絶対そうでしょ。だって私だもん。皆が本気で好きになるわけないじゃん。あはは♪ ……あかん。思考が逸れてる。よくないぞ。こういうの。
実はあの時初めて知っただけで、それ以前から私の側に居たのだろうか。
幼馴染ちゃんは知ってるのかな? 今は聞いても教えてくれないかな? また暗い顔されちゃうのも嫌だしまた今度かな。そもそもあんまり長い質問は面倒だし。私もメモ帳と書くもの欲しかったな。どこか町を見つけたら手に入るかな。この世界にだって筆記具くらいはある筈だよね。
あれ? そもそもこの世界の言語ってどうなってるの? 全然違う言葉なのかな? 覚えられるかなぁ。私勉強苦手なんだけどなぁ。転移の特典で翻訳とかついてないかな? 私の分のスキルを忘れちゃうおっちょこちょいな神様達じゃその辺りも期待薄かもしれない。
「今日はここをキャンプ地としましょう!」
もうそんな時間か。今日は結局村を見つける事は出来なかったなぁ。このまま進んで大丈夫かな? あの地底湖のある洞窟まで戻る事は出来るのかな? 一応武士道ちゃんが道中の木々に印を彫ってきてくれたからなんとかなるとは思いたいけど。最悪村に辿り着いてもまともに水や食料なんて無いかもしれないんだし。
荒野と森。それから洞窟。私達がこの世界に来てから見た景色はそれだけだ。最悪人なんて存在しない可能性もある。そもそも魔物だって目撃していない。最初に現れたっていう蛇女を除いて。
もしかしてルート間違ってる? 例えばここがロールプレイングゲームの世界だとしてだ。あの砂塵の向こう側って魔王城とかがあるエリアだったりしない? スタート地点から逆走する事でいきなりゴールを見ていたりしない?
メインストーリーを進めていくと砂塵が晴れるとか、或いは越える手段を手に入れられるとか。なにかそういうイベント事があるのかもしれない。もし真逆に進んでいれば然程苦労せずに最初の村に辿り着けていたのかもしれない。
得てしてその道中にはボス魔物が配置されているものだ。それを武士道ちゃんとリーダーちゃんが避けちゃった可能性もある。向こうにはボス魔物がいるから逆に進もう。そんな感じで。
道中に魔物達が一体も現れなかったのも、彼女達が避け続けていたからと考えれば説明がつく。未来予知があればあらゆる障害を避け続ける事だって出来るのかもしれない。
けどそれじゃあダメだ。もし仮にこの世界が経験値を積み上げていかねば強くなれない世界なのだとしたら、とてもマズい事になる。いきなり避けようのない馬鹿げたレベル差の化け物と遭遇して全滅してしまうかもしれない。
初戦闘が本来物語終盤で戦う筈の最強幹部だったりしたらシャレにならない。道中に積むはずだった経験を全てすっ飛ばして接敵してしまえばその時点で詰みなのだ。これは進言するべきだろうか。誰かリーダーちゃんの未来予知について詳しく話を聞いてみたのだろうか。そもそもリーダーちゃんはその手のRPGのセオリーを知っているのだろうか。
どう説明しよう。幼馴染ちゃんとなら喋れるだろうか。地面に書いて伝えるのでは手間がかかりすぎる。どうせやるならクールちゃんに伝えるべきだ。クールちゃんなら少ない言葉でも私の意図を察してくれる筈だ。
「あら? 影裡さん? 私に用かしら?」
「ううん! カゲリちゃんは私に用があるの!」
あかん。見つかった。
「(ふるふる)」
悪いけど後でね、幼馴染ちゃん。
「これはどっち?」
「行こ! カゲリちゃん!」
「(ふるふる)」
ダメだってば。大切な話があるんだから。
「私に用があるみたいよ?」
「そんな筈ないもん! 私にだもん!」
「(ふるふる)」
「アカリ。少し手伝ってくださるかしら。あなたの結界が必要ですわ」
ナイス! ノーブルちゃん!
「今はそれどころじゃ、あっ! ちょっと! わかった! 自分で歩くから!」
幼馴染ちゃんは影メイドさんに抱えられてドナドナされていった。ありがとう。ノーブルちゃん。後で相手してあげるからね。幼馴染ちゃん。
「それで?」
「(かきかき)」
地面に石のナイフで文字を書く。
「……流石は影裡さんね。盲点だったわ」
何が流石かはよくわからないけど、伝わったようで何よりだ。流石はクールちゃんだ。
「……ところで何故これを私に伝えてきたのかしら?」
なんでって。クールちゃんが一番造詣が深いと思ったからだよ? って、言ったら嫌がるかもだよね。
「(ぐっ!)」
取り敢えずサムズアップ。
「……ありがとう」
何のお礼だろう。
「未来さん! 今少しいいかしら?」
「はい! 綺透さん! お伺いします!」
クールちゃんは私の疑問を綺麗に纏めてリーダーちゃんに問いかけてくれた。
「はい。確かに私は脅威を避けるようにルートを選択しました。凜火さんも同様です。なるほど。レベル上げですか。その可能性は失念していました」
あら。そう言うって事はリーダーちゃんにも最低限のゲーム知識はあるんだね。にらめっこは知らなかったのに。流石は現代っ子。お嬢様業界でもその辺は変わらないようだ。
「出来る事なら戦闘行為は安定した拠点を見つけてからにしたいと考えていました」
冷静だ。流石リーダーちゃん。
「他にも最低限の常識を身に着けた上で挑みたいものです。何か初見殺しのようなギミックがあっても困りますし」
あれ? もしかして結構なゲーマーさんだったり?
「現状では治癒の範囲もわかりません。もし万が一、毒や病原菌の類に通用しなかった場合は問題になり得ます」
なるほど。その場合はこの世界の医師が必要になるよね。
「欲を言うならば、どなたか実戦経験が豊富な方に弟子入りした上で初戦闘に臨みたいものです。基礎教育と監督役を担って頂ければ安心出来るでしょう」
冒険者とか見つけられるといいんだけどね。
「それもそれで危険はあるわ。安易に見ず知らずの他人を信用するべきじゃない。ある程度の戦闘経験を得た上で接触するべきかもしれない。頼みの凜火さんだって、当然本気の殺し合いまではした事がないでしょうしね」
クールちゃんの言い分も尤もだ。こちらには非戦闘員も多い。皆を庇いながらでは武士道ちゃんがどれだけ強くても遅れを取るかもしれない。
「そもそも能力が一般的なものであるという可能性も捨てきれないわ。この世界の誰もが当たり前に持っていて、かつ私達より上位のものがそこかしこに存在するなら目も当てられないわね。これは決して低い可能性の話ではないと思うの」
荒野に存在する砂塵の壁はきっと元の世界には存在し得ない規模のものだ。過酷な世界で生きてきた人達が私達よりずっと強いなんて可能性は考えられる話だ。まだ私達は神様に呼ばれた特別な存在だと決まったわけでもないんだから。
「あの蛇女は私達が逆立ちしたって勝てるような相手じゃなかった。たぶんあれを追い払ってくれたのはリーリャさんよね。私にはどうやったのかまではわからなかったけど」
忍者ちゃんは色々特別みたいだ。メモ帳の件もあるし。
「綺透さんの懸念もわかります。日常的にあのレベルの魔物を相手にしているなら、この世界の強さの平均は私達の想像を遥かに凌ぐものとなるでしょう」
私達は所詮、高校入りたての幼い少女だ。中学を卒業してからたった四ヶ月程度しか経過していない。どうやったって素の力では大人に勝てる筈もない。そもそもこの世界が未発達な文明しかないと決まったわけじゃない。拳銃やミサイルなんてものも普通に存在しているのかもしれない。まともに応戦出来る可能性の方が遥かに少ないのかもしれない。
「それこそ人に出会ったが最後、奴隷ルートまっしぐらなんて可能性もあるわよね」
考え得る限り最悪なパターンだ。
「そこまでの致命的な問題は私の能力が検知出来る筈です」
「能力を封じる能力なんてものまであるかもしれない」
「……」
「ごめんなさい。不必要に脅かしたいわけじゃないの」
「はい。理解しています。この件は皆さんと共に話し合いましょう」
「そうね。そうしましょう」
段々大事になってきた。けどこれで一安心だ。何より大切なのは自覚する事だ。想像すれば備えられる。皆でならきっと乗り越えられる。そう信じよう。




