03-09,月の女神
どうかな? 影裡ちゃん可愛い?
「最高です!!! 影裡さん!!!」
ふふ♪ ありがと♪
「う~ん……。もうちょい……」
心愛ちゃんはまだ納得いかないようだ。
「取り敢えずはここまでよ。完成は追々で構わないわ」
「りょ~」
心愛ちゃんは渋々ながらも手を止めた。
「早速試してみましょう」
今回はどんな感じで?
「村の上に結界を張ってもらうわ。影裡にはそこを歩いて渡ってもらうの」
下から見えちゃわない? ひらひら♪
「大丈夫よ。十分な高さを確保すれば」
それ怖くない?
「灯里さんを信じなさい」
なんてズルい答えだ。流石キスイ。こすい。
「はいはい。上手に出来たらいっぱいキスしてあげるわ」
言ったな? 今晩は寝かさないぜ♪
「あなたこそ。その言葉決して忘れるんじゃないわよ」
ねえ、提案なんだけど。
「今かしら?」
明日から毎日日替わりで一人ずつお仕事はお休みにしようよ。
「つまりその間は影裡の側にいろって?」
そゆこと♪ 影裡ちゃん専属係だぜ♪
「嫌よそんなの」
なんでさ。絶対賛成してくれると思ったのに。
「逆に言えば十日に一度しか当番の日が来ないのよ? そんなの耐えられると思うの?」
なるへそ……。下手に分けちゃうとかえって気を遣って側に居られなくなると。
「そういうことよ」
なら二人ずつ?
「嫌。私が賛成する筈ないでしょ。比較的頻繁に側に居られる立場なんだから」
ぶっちゃけるね。キスイも忙しい方だと思うけど。
「一番忙しいのは灯里さんやアリシアさんよ。その二人に一日休みなんてあげられる筈がないじゃない。人を増やした今は特によ。もう暫く辛抱なさい。何の心配も無くなったら全員で侍ってあげるわ。丸一日ベッドの上で代わる代わる抱きしめてあげる。楽しみに待っていなさい」
りょ♪
「作戦開始よ」
お~!
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月明かりの夜。私は空の上で不可視のベンチに腰掛けた。
眼下を見下ろすと、未だ焚き火の明かりがそこかしこに見えている。村、今はもう町か。人数は少しばかり足りないけれど、村と言うには随分多いもんね。ざっと千人くらいかしら? もう少しいる? ともかく人々の生活が間違いなくそこにあると見て取れる。
空を歩くのはもう少し後だ。先ずは皆に気付いて貰わねばならない。巫女の二人はもう指し示しているのだろうか。ここからではよく見えない。念話も届かない筈だ。どころか私の思念伝達ですら届かない。それほどの高所だ。さくちゃんはよくこんな場所にまで結界を伸ばせるものだ。最初はそれ程ではなかったのに。流石頑張りやのさくちゃんだ。
今は月明かりを背景に座って見守るだけだ。もう少し待てば結界の足場が伸びる筈だ。そうして私は緩やかに降りていく。スロープのようになった結界を歩いて町の上空を少しずつ高度を下げながら歩いていく。最後には夜の闇の中へと消えていく。そんな演出だ。
ふふ♪ まるで天女様だね♪ それともかぐや姫? 降りていくから逆かな? 天の羽衣みたいなひらひら衣装だし、そう大きく外れてはいないと思うけど♪
なんだか不思議な感じ♪ このまま本当の神様になっちゃったりなんかしたりして♪ ふふ♪ 流石に調子に乗りすぎかな? アルテミシア様に怒られちゃうかも♪
『叱られるべきはミーシャの方ね』
え?
『ありがとう。本宮 影裡』
えっと……どちら様?
『トリウィア』
もしかして、もう一柱の神様?
『そうよ。この世界の本当の守護者よ』
あ、えっと。はじめまして。
『一度会っているわ』
そうなの?
『ええ。この世界に転生した時にね』
あらま。
『あの状態のあなたが覚えていないのは無理もないわ』
どんな状態?
『それより影裡』
はい。
『あなたそのままだと本当に神になってしまうわよ』
え? マジすか?
『マジっす。ミーシャのことは叱っておいたわ。反省しているとは思えないけれど』
ミーシャってアルテミシア様?
『そうよ。あなたに神の種を植え付けた自分勝手な神よ』
種? それが前回の?
『そう。それだけで神に到れる程簡単な話ではないのだけど、あなたたちのやろうとしている事がまさにその為の道筋なのよ』
神様のふりをすることが?
『いいえ。あなたが神であると主張し、実際にあなたが崇められてしまうことがよ』
信仰を集めると神に近づいていくの?
『そうよ。精々半神止まりだけれどね』
マズいじゃん。
『そうよ。マズいのよ。あなただけ帰れなくなってしまうわよ』
最悪じゃん。
『そうよ。最悪なの。あのお調子者にはお灸を据えておいたけど、それでどうにかなる問題ではないのよ』
そもそも本当に帰れるの?
『ハッキリ言えば無理よ。少なくとも私は出来ると思っていないわ』
正直に答えてくれるんだね。
『これでも本当にあなたたちには申し訳なく思っているの。だから答えられることなら何でも答えてあげるわ』
今日はどうして話しかけてくれたの?
『月に近づいてくれたからよ。それに今日は満月だから。私は月に関する神なの』
なんで私たちは帰れないの?
『あなたたちがこの世界に転生したからよ』
転移じゃなくて?
『そう。転生。バスの事故で亡くなったあなたたちの魂を呼び寄せたの』
そっか……。向こうではお葬式とかも済んじゃったの?
『いいえ。まだ事故が置きてから殆ど時間が経過していないわ。この世界と向こうの世界では流れる時間の速さに差があるの』
今戻れば成り代われるんだね。
『決して許可は降りないわ。あなたたちは力を持ちすぎてしまったもの』
勝手に押し付けたんじゃん。
『ごめんなさい。影裡の言う通りよ』
そっか。トリウィア様は後悔しているんだね。
『いいえ。必要な事だから』
ならありがとう。私を求めてくれて。皆のついでだったとしても嬉しいよ。
『……ありがとう。影裡』
ふふ♪ トリウィア様は優しい神様なんだね♪
『そうでもないわ』
最後にもう一つだけいい?
『ええ』
私の体質について何か知ってる?
『いいえ。知らないわ』
そっか。
『けれど一つだけ。神に近づけば声は取り戻せるわ』
その代わり皆と一緒に帰る事は出来なくなる?
『ええ。万に一つの可能性が零になるわ。あなただけね』
わかった。覚えておくよ。
『そう。またね。影裡』
うん。また。




