03-05.疑念
「リーリャさん。どうかお答えください」
「……なに?」
「影裡さんのことです。あれはなんですか?」
「質問の意味がわからない」
「惚けないでください。なんなんですか。あの影は」
「……何を視た?」
「聞いているのはこちらです!!」
「ミク。落ち着きなさい」
「……すみません」
「リーリャちゃん。私たちはまだ信じられない?」
「……違う」
「なら話せない?」
「……そうじゃない。ボクにも知らない事はある」
「そっか。ならもう聞かないよ。未来さんもそれでいい?」
「いい筈がありません。知っている事だけでも構いません。どうか教えて下さい。影裡さんは何者なのですか?」
「……影裡様は……何も無い。ある筈がない。ただの人間。それ以外の何かである筈がない」
「その根拠は? 何か確信があるのですよね?」
「……影裡様が何も持たぬ事には意味がある」
「影裡さんからお母様を奪ったのはあなた方なのですか?」
「……」
「未来ちゃん。わかってる筈だよ。そんな聞き方ダメだよ」
「……すみません。言い過ぎました」
「リーリャちゃん。話してくれるよね?」
「……」
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「様子を見に来たわね」
「戻らぬ仲間を案じたか」
意外だね。捨て置くかと思ったのに。
「そうね。よっぽど私たちの秘密を探りたいのかしら」
「或いは我らを舐めておるのかだな」
この期に及んで?
「皆がってことはないでしょうけどね。いつ何処にだって調子に乗る人はいるものよ」
酒の席でみたいな?
「お酒は無いけどそんな感じでしょうね。心配して来たと言うより、バカな行動を咎めに来たのかも。遅れて彼らがいないことに気付いた可能性もあるものね」
けどそれって、組織ぐるみの犯行って話とは違っちゃわない?
「そうね。まあこれも一つの可能性程度の話よ。確実と言える程の根拠はどこにも無いわ」
それもそっか。念話では覗けないの?
「普通は無理よ。影裡がおかしいのよ」
え?
「心の防壁が全く無いの。そんなの影裡だけよ。普通は視る事に長けた未来さん以外、他人の心は覗けないものなのよ」
えぇ~……。
「ここまでくると才能がどうとかって話ではないわね。きっと何か理由がある筈よ」
理由かぁ……。
「安心なさい。私たちが必ず守り通してみせるわ」
ありがと♪ キスイ♪
「どういたしまして♪」
キスイはお礼を頂くと言わんばかりに口付けてきた。
凜火♪
「うむ」
「ちょっと。なんで凜火さんには自分からキスするのよ」
したかったからだよ? 公平にってのもあるけど。
「そうじゃなくて」
しゃあないなぁ♪
今度はキスイに口付けた。
「影裡殿」
かもん♪
今度は凜火が口付けてくれた。
「離れたわね」
おかわりの人たち? 土壁に恐れをなしたのかな?
「念の為目視で確認しておこう」
凜火が一人で出て行った。
そもそもキスイのそれはどうやってるの? 人数とか詳しい場所はわからなくても、近づいてきた人がいれば分かるんだよね?
「スキルの応用よ。家なら家の、土壁なら土壁の構成材質は決まっているもの。そこに人間のものが混ざれば見抜けるのよ。繋がっているものは一つのものとして認識出来るから」
なるほど。けどそれなら人数もだいたいの想像はつくんじゃない?
「視界に入っていないもの、というより私が正確に形を認識してないものって曖昧なのよ。混ざっていることはわかるのだけどね」
そういえば最初の頃はいくつか見落としてたもんね。
「徐々に精度も上がっているから成長はしてるわよ。今後の綺透ちゃんに期待なさい♪」
頼りにしてるぜ♪ 私のキスイちゃん♪
「実は……いや。なんでもない」
あ。凜火が戻ってきた。
「外は問題ない全員離れた。その前に顔も確認した」
ありがと♪
「なに? 凜火さんは足音で人数も場所も特定できるの?」
「……聴覚の強化も可能だ。頭痛がするからあまり使いたくはないが」
なるへそ。そういうのって茉白ちゃんのスキルで回復かけながら使うと解決出来たりするよね。
「うむ。面白い考えだ」
「私たちのスキルは組み合わせも重要よね」
アルテミシア様が考えたのかな? もしかしてゲームとか好きなのかな?
「妙に俗っぽいわよね。あの神様」
キスイもそう思う?
「まあね」
やっぱりまだ疑わしい?
「さあどうかしらね。何事も決めてかかるべきではないわ」
だから一つ一つ確認していくんだね。
「ええそうよ。なんとなくで済ませない事は重要よ」
勉強になります。
「影裡はいい加減だものね」
どうして素直に感心してるのにそういうこと言うのさ。
「あら失礼♪」
そうだ。凜火こっち来て。確認してきてくれたお礼だよ♪
「うむ♪」
「当てつけはよくないわよ」
ふふ♪ 影裡ちゃんのチッスが欲しければキスイも貢献することだね♪
「増々調子に乗ってるわね。いずれ必ずわからせてやるわ」
きゃん♪ 守って♪ 凜火♪
「うむ」
「ちょっと。それはズルいわよ」
私に近づきたくば凜火とリーリャを倒してくることだな♪
「無茶言うわね。誰にそんなことが出来るのよ」
未来ちゃん?
「微妙に可能性ありそうなとこ突いてくるじゃない」
アリシアもワンチャン?
「影の部分顕現で擬似的な身体強化までしているものね。しかも何か武術を齧っているみたいだし。あれたぶんトレースも出来るわよ。影メイドさんたちはそういう技能もあるみたいだから。影に身体を操らせてるところも見たことあるわ。真正面からやれば流石に凜火さんたちの方に分があるとは思うけど、戦い方次第では十分トップも狙えるでしょうね」
「そう言う綺透殿もだ。魔術と罠の扱いについては誰よりも優れている。乱戦になれば間違いなく最後まで勝ち残るだろう。そんな立ち回りの上手さもある」
だからこそマークされて最初に脱落したりして。
「やめなさいよ。そういう入れ知恵するの。酷いじゃない」
そもそも誰もさくちゃんに勝てなくない?
「「……」」
ふふ♪
「確かに灯里さんが本気で勝つ気なら誰にも勝ち目はないでしょうね。単純に攻撃力が足りないもの。誰にもあの結界は破れないわ。しかも認知範囲がずば抜けているの。ただ結界を押し広げるだけでも全員フィールドから押し出されるでしょうね」
リングありじゃどうしようもないね。
「ただ灯里さんは思考が戦いに向いてないのよね」
ああ。まあ。後衛職なのに前衛に出るタイプの子だから。さくちゃんは。
「そこに付け入る隙はあるでしょうね。リーリャさんなら結界を張られる前に意識を刈り取れるでしょうし」
単純な速度勝負なら勝ち目があるんだね。
「ええ。その辺りは普通の女の子だから」
茉白ちゃんと心愛ちゃんはどうだろう。
「茉白さんは自傷覚悟ならゾンビアタックが出来るし、心愛さんは私たちに魅了をかけることは出来ないけど、予め動物や他の人間を支配下に置いておけば手数で勝負出来るかもしれないわね」
結局さくちゃんとアリシアの下位互換にしかならなくない?
「それはそうでしょうね。いいのよ別に。全員が戦闘職じゃなくても」
私なんてなんにも出来ないしね♪
「そんな事ないわ。影裡には唯一無二の力があるじゃない」
力?
「あなたが懸念していた力の使い方よ。あなたの力は問答無用で心の一部を送り込むものなの。心愛さん以上に強力な洗脳効果だって期待できるわ。そこまでいかなくたって無理やり隙を作るくらいは難しくもない筈よ」
なるほど……。
「影裡自身には制御が出来ない代わりに、私たちが借りた時より遥かに広範囲かつ強力に送り込むことが出来るの。思考が阻害されれば魔術だって扱えないわ。どうせ抑えきれないなら伸ばしてしまいなさい。もし仮にあらゆる人の心の中から争う意思を押し流してしまえるなら、きっと全ての問題が片付くわ」
それはちょっと怖いね。ううん。ちょっとどころじゃないよ。皆まで自分の意思を失っちゃったらやだよ、私。
「やるかやらないかは別として、万が一の時に動けるようにしておくのは大切よ」
そうだね。精進するよ。私も。
「頑張りなさい♪」
「もちろん我々も協力しよう」
ありがと♪ 二人とも♪




