02-50.新しい家族
てなわけでして。
「なによ。煮えきらないわね。もっと強引に誘ってしまいなさいよ」
なんでキスイまでそんなこと言うのさ。
「だってズルいじゃない。あなたたちだけ青春みたいなことしているんだもの」
いやいや。私たちも十分してるって。青春。これ以上を望むなんて強欲過ぎるでしょ。
「私は強欲の綺透」
何その悪役みたいな名乗り口上。悪役にしては名前が綺麗すぎるけど。
「恰好がつかないわね」
そんなことないよ。私のキスイはとっても格好良いんだから。
「これ何の話だったかしら」
逸らしたのはキスイでしょ。
「まあいいわ。ティエラの件は承知したわ。いずれティエラもカゲリの魅力に気付くでしょう。あまり心配せずに待っていなさい」
なんて自信満々なんだ……私のことなのに……。
「あら。薄情な言い方ね。影裡は私のものよ」
そういう意味じゃなくてね。私よりって意味でさ。
「同じことよ。私には権利があるわ」
九分の一はね。
「少なすぎるわ」
自分で減らそうとしてるんじゃん。
「株みたいに売買出来ないのかしら」
誰が売るのさ。私の恋人にそんな子いるわけないでしょ。
「これ以上はダメよ」
もちろん。もう二度と増やさないよ。
「信じて良いのかしら?」
そこは信じてよ。
「どうせ私の出番だってここから減っていくんでしょ。もう攻略済みだものね」
急に何さ。何の話してんのさ。
「来期からティエラがメインヒロインになるのよね。そうやって次から次へとヒロインを増やしていく気よね」
ならないから。増やさないから。
「そうは言ってもティエラの掘り下げもしないとでしょ?」
わかった。キスイは寂しいんだね。
「私の優遇期間は終わらせないわ」
別に優遇なんてしてないし。話してる時間は皆同じくらいだし。影裡ちゃんは平等を心がけています。
「日替わりで取っ替え引っ替えしているのよね」
人聞きが悪すぎる!
「一緒に寝るのを交代制にするのはやめましょうよ。私だけの影裡になりなさい」
キスイの取り分は九分の一だってば。もうすぐ十分の一になるけど。
「なんとかなさい」
どうにもならないよ。今になってそんなにぐずるくらいなら反対しておけばよかったじゃん。
「どうにもならないわ。私は賢いの。大勢を見誤ったりなんてしないのよ」
だいぶおかしくなってるね。珍しい。
「私と二人で逃げましょう」
無茶言わないで。気持ちは嬉しいけど。
「いつか必ず攫ってあげるわ」
賢い人のやり方とは思えないんだけど。
「駆け落ちなんて神話の時代から行われているじゃない」
漏れなく争いや悲劇とセットだと思うんだけど。
「覚悟はあるわ」
キスイが壊れちゃった……。
「勘違いしないで。影裡が壊したのよ」
一回落ち着こう。よしよし。なでなで。
「ねえ、寝室に行きましょう」
やだよ。今行ったら絶対襲われるじゃん。
「権利を行使するだけよ」
まだそこまで進んでいません。議会を招集する必要があります。重要案件の決議には有権者の全会一致が必要です。
「なによそのロボットの案内音声みたいな回答」
まあ少し落ち着きたまえよ。
「嫌よ。皆の目を盗んで始めるわよ」
「何馬鹿なこと言ってるんですか。皆ここにいますよ」
やっと未来ちゃんが口を開いてくれた。
「あらそうだったのね。視界に映らなかったわ」
いけしゃあしゃあと。
「荒れてる? やっぱりわたし」
遠慮しちゃダメだよ、ティエラ。それはそれだよ。ちゃんと考えてくれないと泣くよ。折角告白したのに。
「あらま」
ティエラお姉ちゃんが私の頭を撫でてくれた。
「何故ティエラさんだけお姉ちゃんなんですか?」
ぽくない?
「知りませんよ」
そすか。
「ふふ♪ それいいかも♪ わたしどうせならカゲリのお姉ちゃんになりたいな♪」
大丈夫。お姉ちゃんと恋人は両立出来るから。
「出来ないわよ。何言ってるのよ」
キスイがうげって顔をした。自分の姉を思い浮かべたのだろう。あんまり仲良くないの? 昔は仲良かったんでしょ?
「話したくないわ」
あらま。
「姉妹か」
凜火には?
「いないな」
そっか。私も。
「私もだよ♪ カゲリちゃん♪」
知ってるよ。さくちゃん。
「ボクは……」
いいよ。無理して話さなくても。リーリャってそういう話好きじゃないでしょ。
「……ありがと。影裡様」
「ワタクシには妹と弟がおりますわ」
アリシアもお姉ちゃん属性持ちだった♪
「何故テンションが上がるんですの?」
あ、ごめん……。
「いえ。そういう意味ではなく。カゲリはワタクシに姉として振る舞ってほしいんですの?」
ううん。そうじゃないよ。
「そうですか」
……うん。
「ともかく♪ ようこそティエラさん♪ まだ本決まりではありませんが、我々はあなたを歓迎します♪ 可能であれば是非こちらに移り住んでください♪ あなたがそう望むのならば最初は巫女やお手伝いさんのつもりでも構いません♪」
「そういう話なら喜んで」
「はい♪ これからよろしくお願いしますね♪」
「こちらこそ♪」
ありがとう、ティエラ。それに未来ちゃんも。
「来て、ティーちゃん。案内してあげるわ♪」
「はい♪ マシロ♪」
「うちも行く♪」
茉白ちゃんと心愛ちゃんがティエラを連れて退室した。
「フェアリス。伝えておくことがありますわ」
「は~い♪」
アリシアがフェアリスちゃんを連れ出した。
「リーリャちゃん♪ ちょっと付き合って♪」
「承知」
さくちゃんとリーリャも連れ立って抜け出した。
「凜火さん♪ 私たちも行きましょう♪」
「うむ」
最後に未来ちゃんと凜火が立ち上がった。
「あら。皆してどういうつもりかしら?」
「順番ですよ♪ 綺透さん♪」
そう言い残して、未来ちゃんたちも去って行った。
「だそうだけど?」
らしいね。
「これってあれよね? 好きにしていいってことよね?」
違うよ。不安定なキスイに気を遣ったんだよ。
「どちらかと言うと影裡にじゃないかしら?」
私? 私は別に不安定になんてなってないよ? いつも通りだよ?
「気を遣いすぎたからよ」
ううん。逆だよ。安易に家族の話題を出すべきじゃなかったんだよ。
「ああ。そういうこと。皆が私に何を期待しているのかわかったわ」
どういうこと?
「影裡のケアよ」
言っちゃうんだ。そういうこと。
「今更隠すことでもないでしょ」
きっとキスイの為でもあるよ。
「でしょうね」
それで? キスイは私に何を言ってくれるの?
「今回ばかりは難しいわね」
あらま。本当にらしくないね。
「いいえ。私は冷静よ。ただ問題が大きすぎるだけよ」
家族の問題だから?
「ええ。家族の問題だからよ。私たち家族のね」
向こうの家族じゃなくて?
「遠慮する必要はないわ。って言えたらよかったのだけど」
流石にね。
「今回ばかりは灯里さんの方が適任ではないかしら」
キスイが弱音を吐く程なんだね。
「一緒に考えてみましょう」
私たちのスタンスを?
「ええ。向こうの世界についてどう考えるべきなのかをね」
帰れない可能性を考慮して?
「それも含めてよ。どんな話題をタブーとすべきか整理してみましょう」
かえって弱気になっちゃわない?
「いいのよ別に。何でもかんでも完璧にやらなくたって。辛いなら一緒に泣けばいいじゃない。その都度。私たちはその為に家族になったんだもの」
そっか。……うん。そうだね。
「けれど影裡が気にしているのはそういうことではないわよね」
私は……。
「大丈夫よ。アリシアさんは。それでも気になるなら二人きりの時に抱きしめてあげなさい。影裡の胸で泣かせてあげなさい。あの子がそんな姿を見せるとは思えないけど。それでももしかしたら。影裡になら」
……うん。
「はい。これで話はお終いよ。いらっしゃい。影裡」
……なんで私を抱きしめるの? 私は悲しいわけじゃ。
「だから気にしているのよね。別に泣く必要はないわ。私の胸の中で安心なさい」
……うん。
「茉白さんがよかったかしら?」
ううん。今はキスイがいい。
「どうして?」
少し痛いくらいで丁度っあたたたたた!!
「ふふ♪ 遠慮する必要はないわ♪ いくらでも締め上げて差し上げるわ♪」
ぎゃーー! ごめんなさいごめんなさいごめんなさぁーい!!




