01-10.未来を見据えて
遭難から五日目。旅立ちから二日目。夜。
「前向きに考えましょう。この世界でやってみたい事はあるかしら? もしくは森の外にどんな世界が広がっていると思う? 皆の願望を交えて教えて頂戴」
どうやらクールちゃんは語りたくなったようだ。内心オタク的な血が騒いでいるのだろう。これはその為の口実だ。私にはわかる。なんなら私も語りたい。ネットで。
「やってみたい事ですか。面白い着眼点ですね♪ どうせなら楽しい思い出をいっぱい作っておきたいですね♪」
クールちゃんの思惑になんて全く気付いていないであろう天使ちゃんが早速罠に掛かった。
「なるほど。思い出作りそのものがやりたい事なのね。前向きで素晴らしい考え方ね」
食い気味なクールちゃんがリーダーちゃんの言葉を最後まで待たずに口を挟んだ。普段の冷静さはどこへやらだ。
「あはは~♪ アリシアさんは如何ですか?」
リーダーちゃんは空気を読んで自分の番を終わらせた。
「望みとは少し異なりますが、ワタクシの成すべき事はどこであろうと変わりませんわ。高貴なる者の務めを果たす事。それこそがワタクシの矜持なのですわ」
流石ノーブルちゃん。ブレない。
「人助けも良い事ね。それはいつかきっと楽しい思い出にもなるのでしょうね」
「なら私達の目的は同じですね♪ アリシアさん♪」
「どうせなら競うと致しましょう。ワタクシは決して負けませんわ♪」
「はい♪ 望む所です♪」
ノーブルちゃんがそこまで言うなんて。流石はリーダちゃんだ。もしかしたらリーダーちゃんの事だけは唯一対等な相手として見ているのかもしれない。
「心愛さんはどうかしら?」
それ聞いて大丈夫?
「うち~? うちはね~♪」
大丈夫そう。気にしすぎてたかも。
「美味しいもの食べる♪ あと可愛い子に会いたい♪ 異世界ってドラゴンとかいるっしょ♪ うちのスキルでテイムしたい♪」
「良いわねそれ。ドラゴンは是非探しましょう。移動手段は大切よ。帰還の事を考えるにしても先ずは自由に世界を飛び回れる手段を見つけるべきよね。その方がかえって効率は良いはずよ。それから」
「ちょいちょい♪ きっすーテンションアゲアゲじゃん♪」
アゲアゲとか死語じゃね?
「……失礼。次は茉白さんね」
すんってしちゃった。可愛い。
「私はね~。皆を癒やしてあげたいかな~」
なるほど。治癒能力の有効活用か。聖女様に就任なんかしちゃったりして♪
「一時的な診療所を開くのもいいわね。先立つものも必要になるでしょうし」
「う~ん。そうじゃないんだけどな~」
まあうん。次いこ。
「次は私ね♪」
幼馴染ちゃんも何か言いたい事があるようだ。
「こっちなら女の子同士でも結婚出来るかな♪」
ぶふっ!
「別に元の世界でも認められる国はあるわよ? 世界全体で見れば二割程度はあるんじゃなかったかしら」
なんでクールちゃんはそんな事知ってるの?
「じゃあねじゃあね!」
「悪いけど影裡さんとの惚気話はそれくらいにして頂戴。私嫌よ。朝起きたら灯里さんが穴だらけだったなんて」
もしかして忍者ちゃんがやると思ってる?
「でも約束したんだもん……将来結婚するって……」
覚えてな……いや、毎日のように約束させられてたか。あれおままごとじゃなかったんだ。赤ちゃん役に求婚させる変なお母さんだと思ってた記憶がうっすら残ってる。普通パパンとする約束だよね。そういうの。そっちはどうだったかな? 覚えてないな。
「次は凜火さんよ」
クールちゃんはクールにスルーした。
「……やりたい事は特にない」
「強そうな相手と戦ってみたいとか無いの?」
「ない」
クールちゃんは武士道ちゃんの事なんだと思ってるの?
「森の外がどうなっているか。……正直これは話すべきか考えあぐねていた」
おっと。いきなりシリアスな雰囲気だ。
「……確認出来たのは一面の荒野だ。村どころか道も何も見当たらん」
あうち……。
「少し先を行くと強烈な砂塵が舞っているようにも見える。暫くは森の外周部付近を歩く事になるだろう」
それは……酷いな……。
「判断は皆も見てからにするがいい。どの道森の中に居続けるわけにもいかぬのだからな」
待っていても救助が来る事だけはあり得ないもんね……。
「いずれ村の一つも見つかる筈よ。この森から一生出られないなんて事はあり得ないわ。でなければ何の為に私達が呼ばれたのかわからなくなるもの。わざわざスキルまで授けて送り出した何者かの意思が確実に働いている筈よ」
そうだね。仮にそれを神と仮定して。その神の目的が何かしらある筈だ。私達にはそれを果たしてほしいのだ。でなきゃスキルなんて与えないだろう。もしかしたらこの世界に来た時点で自動的に付与されるものって可能性もあるかもだけど。そういうアニメも見た事あるけども。
「心配は要りません! 皆で力を合わせれば必ず乗り越えられます! 私には視えました! 村は存在します!」
リーダーちゃんが本当に嬉しそうに宣言した。これが真実かどうかなんて疑うのは野暮だろう。仮に元気づける為だけに言ってくれるのだとしてもだ。安易にクールちゃんの言葉に賛同するだけでなく、自ら責任を被る形で声を張り上げてくれたのだ。そんなリーダーちゃんの心遣いを咎めるような者はこの場に誰一人として存在しない。
「心強いわね。ついでに影裡さんもどうかしら? この内容なら口にしても構わないわよね?」
おっとぉ?
「そうですね♪ 影裡さんの能力も試してみましょう♪」
あかん。
「いつまでも口を閉じているわけにも、っ!?」
ひゅんっ! と音を立ててどこからともなく石礫が飛来した。よく見ると紙が巻いてある。見覚えのあるやつだ。
「リーリャさんね。もう危ないじゃない」
クールちゃんが石を拾い上げて紙を開いた。
「……」
クールちゃんは読み終えると、黙って隣にいたリーダーちゃんに紙を差し出した。そうして次はノーブルちゃん、ギャルちゃんと、順繰り全員が回していった。私を除いて。
「?」
「……ごめんね」
最後に目を通した幼馴染ちゃんはメモを丸めると、そのまま焚き火の中に放り込んでしまった。
「「「「「「「……」」」」」」」
なんだろうこの空気。先程までの楽しい雰囲気が消し飛んでしまった。たぶん私の事が書いてあったのだろう。いったいどんな内容だったのだろうか。
それから気になる事がもう一つ。この世界で目覚めた時、私達は誰一人として、制服や下着、髪留め等、最低限身につけている以外の私物を持っていなかった。本来なら常日頃から携帯していたであろうスマホやティッシュ、ハンカチの類いですらも例外ではなかった。
なのに忍者ちゃんだけはメモ用紙と書くものを持ち込めたというのだろうか。あれは間違いなく私に差し入れられていたのと同じ物だ。向こうの世界から持ってきた事は確実だ。
神が特別に持たせたのだろうか? それとも忍者ちゃんにとっては服と同じくらいに持っていて当然な物であったのだろうか。何故だかそれが無性に気になった。




