第9話 「光の裏で」
朝日が学園のガラス越しに差し込む。
無機質な白い光は、アカデミア・ルミアの整然とした廊下をまっすぐに照らしていた。
蒼は端末の画面に目を落とす。
《Rank Node:更新完了 値:640》
――え。
前回の序列評価試験からわずか一日。
蒼のRank Nodeは大幅に上昇していた。
640。まさかここまで上がるとは。
あの試験がどれほど大きなものだったのか、改めて実感する。
廊下では、失敗した生徒たちの落胆が伝わってくる。
数値を確認した瞬間に顔を曇らせる者、呆然と座り込む者もいる。
噂が広がる。退学する者もいるらしい。
学園の序列が、残酷に現実を決めていく――その冷たさを、蒼は肌で感じた。
授業が始まり、普段の生活が戻る。
だが、昨日の最後の問題が頭から離れない。
あの問いは、あまりにも違和感があった。
光は、影を照らす――。
出題コードも、いつものSystem:∞とは違っていた。
昼休み、蒼は湊と廊下のベンチに座った。
「昨日の試験、大変だったな」
湊は笑顔で肩をすくめる。
「うん……でも、なんとか……」
蒼は思い切って聞いた。
「最後の問題、お前のチームもあの特別な問題だった?」
湊は首をかしげる。
「え? あ……普通の問題だと思ったけど……」
――その瞬間、蒼は気づく。
自分のチームだけが、あの異常な問題を受けていたのだ。
出題コードが違うこと、抽象的すぎる問い、そして直感で答えを導けたこと。
すべてが偶然ではない。
休み時間の片隅、アリスが静かに蒼を見つめている。
瞳には、昨日の異変を理解しているような光が宿る。
しかし口は動かさず、微かな微笑だけを残して去る。
蒼は胸の奥で、ざわめきを感じる。
――何かが、確かに動き始めている。
その“何か”は、まだ形も正体も見えない。
だが確かに、光の裏で蠢いていることだけは、わかる。
端末の隅で、ほんの一瞬だけ“∞”が点滅する。
すぐに消える。
誰も気づかない。
蒼とアリスだけが、その光の意味を何となく察していた。
学園は今日も、秩序のままに回っている。
だが、蒼の中では、小さな疑問が芽生えていた。
――本当に、この都市はすべてを正しく評価しているのだろうか、と。




