最終章7 愛する人を迎えに
《オーロラ・パルス》プロジェクトは、
俺たち4人の成功例をもとに全国の患者へ展開されることが決まった。
“奇跡”ではなく“技術”として。
再現性のある治療として。
それは、この国中に眠り続けている人々にとって、
一筋の光となった。
◇
夕方、俺たちは病室のベッドにそれぞれ腰掛けていた。
キララも同じベッドの端に座り、4人を見渡している。
「で……お前らの現実の職業って、どうなってんだ?」
レオが聞くと、真っ先にルナが答えた。
「俺は、半導体のエンジニアだ。
倒れる前は、研究所で開発をしていた。」
「やっぱりな。なんか同じ匂いがすると思った」
俺は素直な感想を漏らす。
キララが「技術系って似てるよね」と小さく笑う。
次に、リオンが照れくさそうに言う。
「俺は大学4年。経営学部にいた」
「経営……?」
レオが眉をしかめる。
「お前、意外と堅いこと勉強してんだな」
「おいおい、意外ってなんだよ!」
その言い合いにキララがくすっと笑った。
異世界で剣や魔法をふるってた3人が、
こんな風に現実の肩書きで話す姿は、どこか不思議で温かい。
さて……俺たちパーティの、この世界での最初のクエストは――
決まっている。
愛する人を迎えに行くことだ。
橘月は、ミカを迎えに行く。
あの元気で生意気な笑顔が、どこかで一人戸惑っているのかもしれない。
久遠莉温は、サオリを迎えに行く。
サオリは、小さいころ、あの世界に来たらしい。
名前も覚えておらず、サオリと名づけられ、戦士の村で育てられたという。
十年以上眠っていたことになる。
目覚めたときはさぞ困惑するだろう。
それを思うと、胸の奥に重く、静かな焦りが生まれた。
そして、俺は……
レオがいたずらっぽく笑った。
「キララ、お前の兄貴はな……あっちの世界で彼女がいたんだぞ?」
「えっっ!?」
キララはベッドから落ちそうになる。
「兄さんの彼女!? すごい! 会いたい!
どんな人? 名前は? ねぇ!」
「おい、レオ……」
俺は必死に話題をそらす。
「問題は……彼女たちが“どこにいるか分からない”ってことだ。
どうやって探す?」
レオたちが口をそろえて言う。
「こんなときは、マイト、お前の出番だな!」
「やはり、そう来たか。しかし……どうしたものか。
この世界には《リンク》は無いし……」
そのとき。
「――私、調べられるかも」
キララが手を挙げた。
「前に全国の患者データベースの整理したことあるの。
名前とか年齢とか、特徴が分かれば検索できる!」
「マジかよ!?」「助かる……!」「さすがマイトの妹だな!!」
キララは照れながら言った。
「任せて。みんなの大切な人なんでしょ?
研究室で調べてくる!」
「頼む、キララ」
俺は素直に頭を下げた。
◇
数時間後。
キララが戻ってきた。
少し息を切らしながら、資料を抱えている。
「見つかったよ」
3人が同時に身を乗り出す。
キララはまずルナに向き合う。
「美香さん。すぐ見つかった。横浜市の病院に入院してた。
年齢も一致してるから、間違いないと思う」
ルナの表情が一気に崩れる。
喜びなのに泣きそうで、思わず目をそらしながら、小さく息を吸った。
それが彼の素直な喜び方なのだと、俺はよく知っていた。
次に、キララはリオンへ向き直った。
「サオリさんも……たぶんこれ。
6歳の時に事故で意識不明になった女の子がいる。
本名は華ちゃん。
入院先は山梨県。
……きっとサオリさんだと思う」
リオンは固く結んでいた拳をゆっくりほどいた。
まるで凍っていた心が、静かに溶けていくように。
「……キララ……ありがとう」
「ううん。みんなの“仲間の大切な人”だもん。
見つけられてよかった」
「それでね、兄さん、ハルカさんなんだけど。。。」
俺は、固唾を飲んで次の言葉を待った。
「見つけられなかった。。。」
時間が止まったようだった。
「……え?」
声にならない声が漏れる。
「日本全国の患者さんを調べたの。
名前も、年齢も、事故歴も……
条件を変えて何度も当てはめて……それでも……」
キララは首を振った。
「――“ハルカ”って女の人は、一人もいなかったの」




