最終章6 仲間たちの再会
病室には、静かな歓声が広がっていた。
朝倉先生は小さくガッツポーズをし、
キララと葵くんは、ハイタッチを交わした。
すぐに看護師が駆け寄り、レオは検査へ回された。
――結果、異常なし。
筋肉の張り、反射、バイタル。
どれも「長期昏睡からの覚醒」とは思えないほど正常だった。
◇
「私たち、研究室へ戻るね。兄さんはゆっくり休んで」
希星が手を振り、葵くんが丁寧に頭を下げる。
朝倉先生はタブレットを抱えたまま言った。
「今日の成功をフィードバックして、明日の準備をしなくてはね。
明日は――
久遠 莉温さんと、
橘 月さんの覚醒に挑むことになるでしょう」
先生たちは意気込みを隠さず、夜の研究棟へ戻っていった。
◇
神谷獅子は、その後すぐに家族との再会を果たした。
泣き崩れる母親、声を震わせる父親。
妹らしき女性が「お兄ちゃん……!」と抱きつき、
獅子はその頭を不器用に撫でていた。
――その光景を見たとき、俺の胸も熱くなった。
異世界で誰よりも頼もしかった戦士が、
現実世界でも、多くの人に愛されていた。
◇
その夜。
静まり返った病室に、俺とレオだけが残っていた。
俺たちは並んで立ち、
眠る莉温と月の顔を見つめる。
四人そろう日が、もう手の届く場所にある。
「……レオ。記憶は戻ってきたか?」
俺の問いかけに、獅子はゆっくりとうなずいた。
「全部……思い出したよ」
獅子の声は低く、しかしはっきりとしていた。
「俺は――神谷獅子。
現実では事業団のラグビー選手で、
営業マンとして会社にも勤めていた」
「……ラグビーか」
「ああ。試合中の事故だったらしい。
タックルを受けた瞬間、視界が一気に暗くなって……
気づいたら、あの世界で倒れていた。」
レオの視線が、眠る仲間たちへ向く。
「今日、お前の話を聞いて、全部つながったよ。
――お前が俺を救ってくれたんだな。礼を言う、マイト」
俺は首を振る。
「違う。
あの世界で俺が戦えたのは、お前がいたからだ。
助けたんじゃない……支え合ったんだよ」
しばらく沈黙が落ちた。
だが、獅子はふっと息を吐き、
懐かしい“戦士レオ”の顔で微笑んだ。
「やっぱり、俺の感は正しかった。
――どこへ行っても、俺たちは仲間だ」
「ああ」
◇
翌朝。
病院の廊下は早い時間にもかかわらず、どこか張りつめた空気に満ちていた。
まずは――リオン。
久遠莉温の覚醒を試みることになった。
病室には、昨日と同じメンバーがそろっていた。
朝倉先生、キララ、葵くん、工学研究室のスタッフたち。
そして――リオンの両親と思われる人たちも静かに立っていた。
俺とレオは、リオンのベッド横に椅子を寄せ、静かに見守る。
「では、開始します」
朝倉先生が淡々と告げる。
《オーロラ・パルス》の同期音が、微かな光とともに立ち上がる。
脳波計がわずかに震え、パラメータのバーが滑らかに動き始めた。
そして――
リオンの指が、かすかに動き、
まぶたがゆっくりと震えた。
目が開き、ぼんやりと焦点が合っていく。
「……お前ら? なんだ、その格好は……?」
リオンは、目を覚ました。
その瞬間、病室の誰かが小さく笑い、
誰かが息を飲み、誰かが涙を拭った。
「リオン……!」
レオが声を詰まらせる。
莉温の両親が、ほとんど駆け寄るようにしてベッドへ近づく。
「莉温……!」
「……よかった……本当に……!」
両親の声は震えていた。
リオンも気恥ずかしそうにしながら、それでも笑った。
「ああ……ただいま……」
そのままリオンは検査に回されたが――
結果は、やはり異常なし。
昨日のレオと同じく、驚くほど健康だった。
◇
午後。
今度は、橘月の覚醒作業に入る。
ルナの両親と思われる人たちが到着し、
その姿だけで胸が締めつけられるような緊張が漂った。
俺と、レオと、リオンはルナのベッドの横に座り、静かに見つめる。
「ルナ……行くぞ」
小さく、レオがつぶやく。
《オーロラ・パルス》の光が静かに走り、
機械の音が淡く室内を満たす。
まもなく、ルナの指先がふるりと揺れた。
眉が寄り、唇が震える。
そして――
ぱちり、とまぶたが開いた。
「……お前ら? なんだ、その格好は……?」
リオンは、目を覚ました。
「覚醒確認! 成功です!」
スタッフが声をあげる。
ルナの両親が駆け寄る。
母親が月の手を握りしめ、声を震わせた。
「あぁ、よかった。本当によかった。。」
「……ごめん、心配かけたね」
ルナは小さな笑みで答え、
泣き笑いの母親の手を握り返した。
検査結果は、もちろん異常なし。
◇
こうして――
本当に全員が、帰ってきた。
戦士レオ(神谷獅子)。
魔法戦士リオン(久遠莉温)。
魔法使いルナ(橘月)。
そして俺――マイト(山中真翔)。
異世界で出会い、
命を預け合い、
何度も肩を並べて戦った仲間たちが。
この現実世界にも、再びそろった。




