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SE転職。~妹よ。兄さん、しばらく、出張先(異世界)から帰れそうにない~  作者: しばたろう


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第47章 SE、収穫祭を祝う(3回目)

収穫祭の季節になった。

街じゅうは朝から活気にあふれ、通りを歩くだけで心がそわそわしてしまう。

私にとっては、これが初めての収穫祭だ。


パン屋のおじさんとおばさんは、毎年屋台を出している。

看板メニューは、揚げたてのドーナツ。

油の中でぷくっと膨らんで、砂糖をまぶされていくドーナツは、

本当においしそう。


「ハルカちゃん、次の生地お願いね!」


「はいっ!」


私は気持ちを弾ませながら、生地に手を伸ばした。



お昼になる頃、広場の中央で大きな歓声が上がり始めた。

どうやら噂に聞いた冒険者すもう大会が始まるらしい。


もちろん、見るのは初めて。

土俵のまわりにはものすごい数の人が集まっていて、

掛け声と足踏みの音が響くたび、胸がどきっとする。


「去年までは、レイナさんとのデート権が賞品だったんだってよ」


そんな話が耳に入った。


レイナさん……ギルドの受付をしている、綺麗で落ち着いた人。

私は話したことがないけれど、人気があるのはよくわかる。


でも、そんな人を巡って争ってたなんて、正直ちょっとびっくりした。


今年はレイナさんが結婚したことで、その特典はなくなったらしい。

代わりに優勝賞品はエール一樽。

これはこれで、会場は大いに沸いていた。


解説席には、

実況役のギルド長と、解説者としてレイナさんが並んで座っていた。

レイナさんは、昨年までの“争奪戦の主役”という大役から解放されたせいか、

とても生き生きしていて、どこか楽しそうだった。

「さっきの出足払いのタイミングは、よかったですね。」

なんて、落ち着いた声で解説していた。


そして――マイトの出番。


結果は……。

あっという間の一回戦負け。


技を見る前に終わってしまって、ちょっと笑いそうになったのをこらえた。


(がんばれ、マイト……)


影からこっそり応援していたのは、もちろん内緒。


決勝戦は、

マイトの仲間のレオさんと、ギルド最強と名高い某戦士さんの対決だった。。

結果はその某戦士さんの三連覇。

初めて見る大会は、想像以上に迫力があった。


夜。店じまいを終えて、私はマイトとの待ち合わせ場所へ向かった。


少し早く着いたつもりが――


もうマイトは来ていた。

しかも、スーツ姿。


街灯に照らされたその姿は、いつもよりずっと凛として見えた。


「おまたせしてごめんなさい。」


「俺も今来たところ。」


気の利いたひとこと。


そして、一拍置いて。


「今日のドレス、似合ってるよ。」


想定していなかった誉め言葉に、不意を突かれる。


「では行こうか。」


そう言って、マイトはすっと腕を差し出した。


「人が多いからね。はぐれないように。」


え……?

マイトって、こういうエスコートできるんだ……?


驚きつつも、私はそっと彼の腕に触れた。

服越しでもはっきり分かるほど、鍛えられた腕の硬さ。

その感触に、ちょっとドキッとする。


夜の収穫祭は、昼とはまるで違う。

ゆれる灯りが通りを照らし、音楽が甘く響き、

歩くだけで世界が少しきらきらして見えた。


人ごみを抜けるとき、マイトは自然に私を守るように動き、

足元の悪い場所ではペースを合わせてくれた。


(マイト……今日、なんでこんなに紳士なの?)


ふと、ある顔がよぎる。


――ミカちゃん。


彼女が腕を組んで、

「ほら、こういうときは自然にエスコートするの! はいもう一回!」

と、マイトに厳しく特訓している姿が、頭の中に浮かんでしまって。


思わず、くすっと笑ってしまった。


「どうした?」


「ううん。なんでもないの。」


そう答えて、私はそっと彼の腕に寄り添った。


収穫祭の夜は、静かに、優しく、心を満たしていった。


* * *


祭りの灯りが遠くで揺れて、丘の上の道をほのかに照らしている。

俺とハルカは並んで歩いていた。

昼の賑わいが嘘のように、夜風が静かだ。

遠くから、笛と太鼓の音がかすかに届く。


沈黙が続く。

胸の奥がざわついて、鼓動の音がやけに大きく聞こえた。

今夜、俺は――ハルカに想いを伝えるつもりだ。


息を整え、意を決して口を開く。


「なあ、ハルカ。」


「うん?」


「月が……綺麗ですね?」


「……? 今日は月、出てないよ?」


「……そうか。」


間が空いた。

頭の中が真っ白になる。何か言わなきゃ。何か。


「もし、この街で俺が家を借りたら……

 毎朝、コーヒー淹れてくれないか?」


「モーニングの話?」


「……いや、その……ちょっと違う。」


焦りで言葉が空回る。

どんどんわけがわからなくなっていく。


「もしハルカが風なら、俺はその葉っぱになって――

 ずっと、揺れていたいと思うんだ。」


「マイトは葉っぱなの?」


もうだめだ。伝わらない。

告白って、こんなに難しいのか。

世の中の恋人たちは、どうやって言葉にしてるんだ?


頭が熱い。喉が渇く。

考えるより先に、声が出ていた。


「ハルカが――好きです。」


静寂。

夜風が、ふっと頬をなでた。


しまった、あまりにもストレートすぎた。

もう少し、言い直そうと口を開きかけたとき――


「……私も。」


ハルカの声が、穏やかに響いた。

その一言が、胸の奥に静かに染みていく。


丘の上の灯りが、二人の影を寄り添わせていた。

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