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SE転職。~妹よ。兄さん、しばらく、出張先(異世界)から帰れそうにない~  作者: しばたろう


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第46章 SE、デートに誘う。

 私は、ハルカ。

 この街の丘の上にある小さなパン屋で働いている。

 ここに来てから、もう数か月が経った。


 店のご夫婦――おじさんとおばさん――は、

 本当に優しい人たちだ。

 焼きたてのパンの香りに包まれて過ごす毎日は、

 あたたかくて、少し懐かしい。



 この世界に来たばかりの頃は、いろんな人が私を助けてくれた。


 マイトも、私を気にかけてくれた人のひとりだ。

 

 最初に出会ったとき、彼はスーツ姿だった。

 この世界でそんな服を着ている人なんて他にいなかったから、

 てっきり案内係か、役所の人かと思った。


 でも、違っていた。


 彼の本職は“レンジャー”だという。

 その言葉を聞いても、最初はよく分からなかった。

 「森の道案内みたいなものだ」と笑って説明してくれたけれど――

 私は、なんとなく“観光協会の人”みたいなものだと解釈していた。


 そして今でも、彼はよくお店に顔を出してくれる。

 きっと、ここのパンが気に入ったんだろう。


 ……そう思っていたけれど、

 もしかしたら少しくらいは、

 私に会いに来てくれているのかもしれない、

 なんて――

 そんなことを考える自分に気づいて、慌てて首を振る。


 いつも、ほんの少しだけ雑談をする。

 パンの話題が多いけど、時々この街のことや、

 冒険者の話を聞かせてくれる。

 私はその話を聞くのが好きだ。

 マイトの話し方は落ち着いていて、

 でもどこか楽しそうで、

 聞いていると、世界が少しだけ広がる気がする。


 ――とても、良い人だ。


 先日、そのマイトの“妹さん”が店に来てくれた。


 「はじめまして。わたし、マイトの妹のミカです!」


 元気いっぱいにそう言って、ぺこりと頭を下げた。

 マイトに妹がいたんだ……でも、あんまり似てないな。

 彼よりずっと表情が明るくて、話すテンポも軽やかだ。


 「マイトからこのパン屋さんのことを聞いて、

  私も食べてみたいと思って来ちゃいました!」


 その笑顔は、太陽みたいにまぶしい。

 彼女はショーケースの中をのぞき込みながら、

 「おいしそう?!」と何度も声をあげていた。


 「おいしいパンの話も、ハルカさんの話も、よくしてますよ。」

 ミカはそう言って、いたずらっぽく笑った。


 「私の話……?」

 心の中でそっと繰り返す。


 ――マイトが、私の話を。


 なんだか、少しくすぐったい気持ちだった。 


 秋のはじまり。

 日差しの熱がやわらぎ、

 街の風に金色の葉の香りが混じりはじめたころ、

 マイトがいつものように店にやってきた。


 パンをいくつか買い、いつものように少し雑談をして――

 けれど、その日はどこか、いつもと違っていた。


 マイトは一度言葉を飲み込むように息を整え、

 そして、まっすぐこちらを見て言った。


 「もうすぐ収穫祭だけど、ハルカは、初めてだよな。

  昼の祭りもにぎやかで楽しいけど……

  夜の祭りも、いい雰囲気なんだ。

  その日、

  店が終わった後、少し時間を取れないかな?

  もしよかったら、夜の収穫祭を案内したい。」


 店の奥でパンを焼く音が、やけに遠くに聞こえた。


 ……え?


 これは、もしかして――

 デートの、申し込み?


 胸の奥で小さな音が跳ねた。

 けれど、どう返事をすればいいのか分からない。


 言葉を探しているうちに、

 自然と笑みがこぼれていた。


 「……うん、行ってみたい。」


 その瞬間、マイトの顔がぱっと明るくなった。


 ――ああ、こんな顔、するんだ。


 胸の奥で、なにか小さな灯がふっと灯った気がした。

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