第3章 SE、命を救われる。
「メラ!」
甲高く、威厳に満ちた声が響いた。
次の瞬間、あたりが光に包まれ、猛烈な熱さが体を覆った。
オオカミは俺の体から一斉に飛びのいた。
どうやら、あたり一帯が炎に包まれているらしい。
体が燃えるように熱い。いや、すでに火が燃え移っているのかもしれない。
その瞬間、森の奥から雄たけびが響き、誰かが突進してくる気配を感じた。
どうやら、オオカミとの戦闘が始まったようだ――
そこで、意識が途絶える.......
「ホイミ!」
温かい、どこかおおらかな声が聞こえた気がした。
次の瞬間、体が急に軽くなり、そして目覚めの良い朝のような感覚で意識を取り戻す。
「気が付いたようだ。」
図太い声が響く。誰かに抱えられ、体を少しずつ起こされる。
目を開けると、いつの間にかあたりは明るくなっており、森の木々に朝日が差し込んでいた。
目の前には、焚火を囲んで座る三人の男がいた。
一人は鎧のような重装を身に纏い、しっかりとした体格でこちらを見ている。
もう一人は杖のようなものを手に持ち、落ち着いた雰囲気で周囲を見渡していた。
残りの一人は、白い装束を思わせる服で、静かにこちらを観察している。
俺は声が出ず、怪訝な顔を浮かべるのみだった。
鎧の男が口を開く。
「オオカミは追っ払った。君はあちこちを噛まれ、重傷だったが、リオンの治癒で一命は取り留めた。」
「俺たちは、ギルドの依頼でこの森のオオカミを狩るクエストを受けていた。森を巡っているうちに、君がオオカミに襲われているのを見つけたのだ。」
鎧の男は戦士でレオと名乗った。皮の鎧を身にまとった大男である。
白装束の男は僧侶で、リオンという名前だった。治癒と守護を専門としているらしい。常に優し気な笑みを浮かべている。
杖を持つ男は魔法使いで、ルナと名乗った。彼が咄嗟に火の魔法を放ち、オオカミを燃え上がらせた。ついでに俺も燃えていたらしい。
「た、たすけてくれて、ありがとう……」
俺は礼を言い終えたあと、ふと三人の姿を改めて見回した。
戦士、僧侶、魔法使い――まるでファンタジー世界の登場人物そのものだ。
そういえば、ファンタジー世界でこうした職業が定番になったのは、いつからだっただろうか。
思い返すに、海外版RPGでは「ウィザードリィ」が始まりだったように思う。たしか1970年後半に登場したこのゲームは、戦士、僧侶、魔法使い、盗賊、ローグなどをパーティーに組み込み、ダンジョン探索のシステムを確立した。戦士は高い攻撃力と耐久力、僧侶は回復と聖属性攻撃、魔法使いは強力な攻撃魔法と多彩な呪文を使える。ターン制戦闘での戦略性も高く、後のRPGの原型といえる。ちなみに、『ドラゴンクエスト』を制作する際にも、『ウィザードリィ』から大きな影響を受けたことが知られており、職業システムや戦闘の基礎設計にその痕跡が見て取れる。
同じく海外RPGでは「ウルティマ」シリーズも特徴的だ。キャラクターの性格や属性に応じた職業選択が可能で、戦士や魔法使いだけでなく、盗賊や商人など多彩な職業が存在した。職業によって戦闘だけでなく世界との関わり方も変わる自由度の高さが、後のRPGに大きな影響を与えたのだ。
日本のRPGでは、やはり、ドラクエとファイナルファンタジーが元祖ではないだろうか。1980年台後半に発売された、ドラゴンクエストIII そして伝説へ…では、戦士、武闘家、魔法使い、僧侶を自由に組み合わせてパーティーを編成できる。1987年の初代ファイナルファンタジーは「ジョブシステム」を導入し、職業ごとの成長やスキルの差で戦術が大きく変わる設計になっていた。
特にドラクエIIIは発売日が平日だったにもかかわらず、全国のゲーム店には大行列ができ、子供たちは学校を休んで購入しに行ったという逸話が残る。さらに、あまりの人気のため、店頭でのカツアゲや小競り合いなどのトラブルも起き、社会現象とも言える熱狂ぶりを見せた。この事件は、ドラクエが単なるゲームを超え、文化的現象となった象徴のひとつとして語られることが多い。
これらのシリーズは現在も最新作が発売されるロングセラー作品であるが、当時ほどの熱狂は、おそらく、もう今後見ることはできないだろう。
まさか、自分が、こうした職業の人々と出会うことになるとは思わなかった。
俺は無意識に少し笑みを漏らした。




