第20章 新米受付嬢の憂鬱
ギルドの受付の仕事にも、ようやく慣れてきた。
最初のころは依頼書の山を前にして、何度も泣きそうになったけど、
今では、冒険者の顔を見ただけで「この人にはこういう依頼が合いそう」って、
だいたい分かるようになった。
――うん。ギルドの仕事、けっこう気に入ってる。
レイナさんは、私を本当の妹みたいにかわいがってくれるし、
無骨で、にぎやかで、ちょっとウザいけど憎めない冒険者たちと話すのも悪くない。
彼らの笑い声に囲まれていると、不思議と、心が落ち着く。
それに、もうひとつ――いや、ひとり。
ここで働く理由がある。
あの人と、ときどきおしゃべりできること。
あの人は、たぶん、私の気持ちにまったく気づいていない。
むしろ、私よりも、私のスマホに夢中だ。
話しかけても、「ああ、うん...」と言いながら、ずっと画面ばかり見ている。
ほんとにもう。
いつか言ってやりたい。
――私とスマホ、どっちが大事なの?って。
でも、自分から告白するのは無理だ。
そんな勇気、私にはない。
ただ、少しずつ距離が縮まっていくことを願うしかない。
でも、最近はちょっと変わってきた。
スマホの話ばかりじゃなくて、仕事のこととか、好きな食べ物のこととか、
たまに雑談もするようになった。
ほんの小さなことだけど、それがすごくうれしい。
……まるで、心の距離が、少しだけ縮まったみたいで。
一度、「魔法使いってかっこいいですよね。私もなろうかな?」って言ってみたことがある。
するとルナさんは真顔で、「魔法使いはおいしくないからやめておけ」と返してきた。
……いや、そういうことじゃないんだけど。
まったく、女心がわかってない人だ。
レイナさんには、私の気持ちなんて、すぐバレた。
何も言ってないのに、「分かりやすいのよ、あなた」と笑われた。
それ以来、仕事の合間に、よく愚痴を聞いてもらっている。
「男なんてね、ちょっと上目づかいで見つめれば、すぐ落ちるわよ?」
――レイナさんは、そう言って笑った。
レイナさんからのアドバイスは、ありがたいが、正直、全然参考にならない。
――この街も好きだ。
石畳の道、レンガ造りの家、夕暮れに染まる尖塔。
空気は少し乾いていて、風はいつもやさしい。
パン屋の焼きたての匂いも、果物屋の甘い香りも、どこか懐かしい。
こっちに来てから、インスタグラムを始めた。
最初は空っぽだった私のアカウントも、今じゃ、
カフェのランチ、ギルドのカウンター、街角の猫――かわいい写真でいっぱい。
フォロワーはひとりだけ。
マイトだ。
マイトは、私の投稿を見るたび、律儀に「いいね」を押してくれる。
コメントもくれる。
マイトは、きっと私のことを“妹みたいな存在”だと思ってる。
すごく優しいし、いつも気にかけてくれる。
だから私も、マイトに対しては、遠慮がなくなっちゃう。
きっと、もし私に本当の兄がいたら、こんな感じなんだろうなって思う。
そんな穏やかな日々が続いていた、ある夏の夕方。
マイトが重傷を負ったという知らせを受けた。
世界の音が、一瞬で消えた気がした。




