第18章 SE、名を与える。
俺は、弓の練習をはじめている。
皆が口をそろえて、「レンジャーなら弓だろ」とすすめるのだ。
昼下がりの草原。
風が穂をなで、的の中央で木板が小さく鳴った。
俺は弓を引く。
――だが、矢は大きくそれて地面に突き刺さる。
「おいおい、そっちじゃ敵の靴紐も切れねぇな。」
レオが笑いながら肩をすくめた。
「狙いは悪くねえが、力が入りすぎてる。もう少し呼吸を合わせろ。」
「言うのは簡単だな。」
「最初は誰でもそうさ。俺だって、この《アルゴ》をまともに振れるようになるまで何年もかかった。」
戦士レオは長剣の柄に手を添えた。
陽光を反射する刃が、まるで彼自身の誇りを映しているようだった。
「《アルゴ》?」
「ああ、俺の剣の名前だ。
この世界じゃ、武器や道具に“名”をつけるのが当たり前なんだ。
魂を込めるって意味がある。」
僧侶リオンが微笑みながら杖を掲げた。
「俺の杖は《メテオライト》。隕石の激突をモチーフにしている。」
……リオンが時折見せる、このマッチョ感はなんなんだろう?
その横で魔法使いルナが得意げに胸を張る。
「俺のは《オムニ・マナ・トランスデューサーMk-II》。
正式名称は“全方位魔素変換式拡張導管システム”だ!」
「……な、長。」
俺はふと手の中のPixelを見下ろした。
「武器に名前を付ける……か。」
脳裏に、懐かしい映像が浮かぶ。
現実の部屋。デスクの上のノートPC。
深夜のモニターに反射する、自分の疲れた顔。
「思い当たるな。
聖剣エクスカリバー、ロトの剣、村正、草薙の剣――
昔から“名のある武器”は、人の想いを背負ってる。
多分、人は“名を与えることで力を信じる”んだ。」
レオが空を見上げる。
「そういうもんだ。名のない剣は、心を持たねぇ。」
沈黙が落ちた。
草原を渡る風の音が、耳の奥で静かに響く。
「……そうだな。」
俺はPixelを見つめる。
画面に映る空の光が、弓の弦のように細く伸びていた。
「こいつの名は、《リンク》。
この世界と俺自身、そして“向こう”をつなぐ意味で。」
レオがにやりと笑った。
「いい名だな。」
俺は弓を構え直した。
息を整え、風の流れを読む。
弦を引き、矢を放つ。
――風を裂く音。
矢は、ほんのわずかに的の端をかすめた。
「お、今のは悪くねえ。」
レオの声に、思わず口元が緩む。
草原を吹き抜ける風が、穂を波のように揺らした。
その向こうに、淡く光る空が広がっている。
まだ届かない。
でも、確かに今、風の流れが見えた気がした。




