いつもになる予定の登校
初授業・学園の洗礼
朝食を終え、寮の玄関を出ると、外の空気は冷たく澄んでいた。
昨夜の紅茶と深い眠りのおかげで体は軽く、頬を撫でる風さえも心地よい。
小鳥のさえずりが遠くで響き、木々の葉が朝日に透けて揺れている。
……その爽やかさを吹き飛ばす存在が、目の前に立っていた。
「隊列を整えるにゃ!」
玄関前で仁王立ちするのは――またしても宇宙服姿の学園長・ここあ。
銀色のスーツが朝日を浴びてぎらぎらと輝き、バイザーに映る景色は黒い鏡のよう。
背中のタンクからシューシューと蒸気が吐き出され、周囲に白いもやを漂わせる。
(……通学路に宇宙飛行士って、どういう状況だよ!!)
「お、おはようございます……って、やっぱりその格好なんですか!?」
「これは正装にゃ! 今日は新入生歓迎パレードにゃ!」
「ただの通学でしょ!? しかも正装はブレザーですよね!?」
通りすがりの子どもたちが目を丸くし、犬が吠え、老人が首を傾げている。
(恥ずかしい……! 昨日の廊下ホラーよりきついぞこれ!)
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咲良は涼やかに水筒を提げて現れた。
「今日の授業中にも飲めるように、アールグレイを持ってきたの」
「授業中に紅茶!? バレたらどうするんですか!?」
「教師に振る舞えば黙るわ」
「強っ……!」
隣では、視乗がロボに鞄を持たせている。
「完全自律型通学鞄運搬システム!」
ロボはぎこちない足取りでガクガクと歩き、金属音を響かせる。
「いや、それただの荷物持ちだろ!」
「芸術は挑戦よ!」
「もう口癖すぎる!」
さらに暁は木刀を肩に担ぎ、無言で素振りを繰り返していた。
「……一、二、三」
「ちょっ、危ないって! 人通りあるんだからやめて!」
「鍛錬に休みはない」
「だから休めって!」
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「ふふ……相変わらずだね」
彩音が苦笑しながら僕の隣に並ぶ。
髪からは石けんの香りがかすかに漂い、朝日に照らされた横顔が妙に大人びて見える。
「葵君、顔が真っ青だよ」
「これ見ろよ……宇宙服にロボに木刀だぞ? 通報されても文句言えないぞ」
「でもね、これが日常なんだよ」
さらりと言って笑う彩音。
(マジか……。彼女にとってはこれが普通……。俺だけが浮いてるのかもしれない)
ふと見ると、彩音は制服のリボンを指先で整え、軽く息を整えていた。
その仕草ひとつが、昔の幼馴染ではなく、今目の前にいる“女の子”を強く意識させる。
(……やめろ俺、今さら意識してどうする。なのに、なんでこんなに胸がざわつくんだ)
「ほら、行こ」
彩音が僕の袖を軽く引いた。
その柔らかい感触に心臓が跳ね、思わず息を飲む。
「……ああ」
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巨大な校門が見えてくる。
「私立アーツ芸術学園」の金文字が朝日に輝き、多くの生徒が行き交っていた。
鍵盤模様のカバンを持つ者、絵の具まみれのエプロン姿の者、舞台衣装のまま歩く者――まるで学園祭のような賑わい。
「……やっぱり才能の動物園だな」
呟いた瞬間、ここあがバイザーをこちらに向ける。
「ようこそアーツ芸術学園へ。ここからが本当の宇宙にゃ!」
「宇宙じゃなくて学園生活を始めたいんですけど!?」
僕の叫びは、校庭のざわめきにかき消されていった。




