身分違いの恋(仮)
エーリカはそのまま、続けていった。
「私の名前はエーリカ・フォン・ミュラーです。
ミュラーは平民でよくいる苗字です。
フォンは私自身が魔法関係の論文を王家の人が見るという理由で下賜されました」
平民の書いたものを王族が見れるか!! という理由で名ばかり貴族になっているものは色々な分野でいる。
恩給がある訳ではないし、子に貴族の地位が継げるわけでもない。
特になんの役に立つのか分からないものだ。
家門に属す貴族はそういう名ばかり貴族を貴族扱いしていない。
感覚としては平民と一緒だ。
「平民の同僚と叶わぬ恋をしていた。
相手が平民のため諦めようと思い殿下たちのご紹介に応じたが貴族令嬢は想い人とあまりにも違う事ばかりが目についてしまった。
名ばかり貴族という平民と結ばれたいなんて言い出せなかった」
どうですか?
エーリカの声は震えていた。
「……あの。この案は、王子達が応援した場合、ハインリヒ様が平民になってしまうだろうという問題があります」
そう言ってエーリカは下を向いた。
「それは俺にとってのメリットしかないのだけれど、エーリカにとってのメリットは何?」
王子からの見合い攻撃から逃げられ、且つ平民になるのは側近をやめるいい理由になる。
俺は家を継がないので貴族であることはあまり関係ない。
この職場も平民が沢山いるため関係ない。
自分にとってはメリットばかりの提案だけれど、エーリカにとってメリットは何もない。
名ばかりとはいえ下級貴族家であれば嫁入りは可能だし、職場は特に何も良くならず、そして貴族の中で不良物件化している俺と結婚してしまうかもしれない。
王子の人脈は何も使えず、何の意味もない。
「何故? そんな提案を?
慈善事業的な?」
思わず心の中身をそのまま口にしてしまった。
「ちがっ……、違います!!」
叫ぶようにエーリカが言ったところで、何かを察した顔をした同僚たちが「お前たち、ちゃんと二人だけで話をしろ」と言ってとある研究室に俺とエーリカを押し込んだ。
俺はエーリカに何を話せばいいか分からなかった。
極力自分は他人をそういう相手として見ないようにしていた。
現実問題として相手を傷つけるし自分も傷つくだけだからだ。
「『メリットしかない。』って本心ですか?」
エーリカが言った。
本心だった。
よくよく考えるとエーリカは普通にかわいい女性で魔法や研究に理解があり、そして俺のやけど跡を嫌悪していない。
そんな人探しても早々いないことは知っていた。
「ちゃんと考えたけど、本心だね。
自分でもびっくりしている」
俺がそういうと、エーリカはまた顔を赤くした。
いままでそういうそぶりが全くなかったじゃないかと思わず聞いてしまいたくなるけれど。
それがデリカシーが無さ過ぎる行為だという事は知っていた。
エーリカは何も言わなかった。
言葉を選んでいる様にも見えた。
「何を言われても俺は怒ったりしないから」
傷ついたりしないとは嘘でも言えなかった。
多分結局、なんだかんだで顔のやけど跡の話になるに決まってるのだから。
さすがに同僚の人たちも、ガチで結婚するかの話を茶化す様な人はおらず、後はお若いお二人でとなっています。
あと、一人称の所為で主人公の自己評価が低いですが、普通に魔法の分野ではひとかどの人となっています。そのため将来の職業の心配をしてないのはそういう感じです。