心に決めた方がいます!(いません)
二度目のお見合いの前に、他の側近の婚約がもう一件まとまった。
相手は侯爵令嬢らしい。
父は直接、宰相と陛下に話をしているらしい。
この怪我の対価として令嬢をあてがおうと国の側はしていないという言質はとれたそうだ。
完全に公爵令嬢との愛にのぼせ上った王子のおせっかいだそうだ。
それでも自分の大切な手駒や侯爵令嬢という貴族の上澄みは絶対に俺に紹介しないあたりで色々察してしまった気になるのは俺が卑屈だからだろうか。
次に紹介された少女も伯爵家の者だった。
今度の令嬢は紹介の場で憎悪に満ちた目で俺を見ていた。
他の縁談を壊してしまったのかもしれないと思った。
そこまでして何故王子達が俺が誰かと婚約することを望むのかも分からなかった。
嫌われたかったのだろう。
その令嬢は俺に故意に紅茶をかけたりとにかく嫌われようと必死だった。
その必死さで、別に俺も嫁探しをしていないことに気が付いて欲しかった。
今回の見合いも上手くいかないだろう。
けれど、今日の令嬢は何かありそうなので帰ったら父に相談をして、彼女の本来の縁談を……。と考えたところでがっくりと疲れてしまった。
望んでもいない見合いで何故こんなに気を回さねばならないのか。
ほとほと疲れ切っていた。
としか言いようがない。
令嬢が帰ったその席で再びイチャイチャとしはじめた王子と公爵令嬢をみて、もう嫌になってしまったのだ。
「ハインリヒにもこのような真実の愛が見つかればな……」
見つかれば、どうだというのか。
何かが変わるというのか。
「おります……」
小さく声がもれた。
「何?」
王子が聞き返した。
「私には心に決めた方がいます!」
そう叫ぶように言って、王宮を後にした。
マナーなんてあったものじゃなかったが、明らかに他人の前でいちゃつく方にもマナーは無いからいいだろうと思い込むことにした。
当たり前だが、心に決めた人なんていない。
一生独り身の予定だった。
さてどうしようと思いながら家に帰った。
家に帰り父と兄に報告すると二人からは面白そうに笑われてしまった。
「王家にも引き裂けない禁断の恋でも考えないといけないなあ」
「兄嫁に思慕しているとか?」
「や、やめてくれよ!? 王家に引き裂けないと言っただろう!?」
兄が慌てる様子を見て、自分も少しだけ心の余裕ができて笑った。
今日紹介された令嬢の名前を言うと、案の定とても仲の良い幼馴染の令息がいるそうだ。
父に頼んで上手くとりなしてくれるようにした。
とても、疲れた。
叶わない禁断の恋ならばいいのかと思った。
存在しない誰かを愛していてだから結ばれないから他の娘とは結婚できない。
むなしいけれど、それが一番いいだろうと思った。
だけど、誰を愛していることにすればいいのか、それは分からなかった。
少なくとも王家の横やりが入らない人がいい。
不謹慎だけれど死んでしまった人を愛しているというのは? と思ったけれど縁者を紹介しかねないので脳内で却下した。
誰を愛していることにすれば周りに迷惑をかけないのかが分からなかった。