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望まれないお見合い

家に帰って父親に相談をした。

父は頭を抱えていた。

そりゃあそうだと思う。


「王子のご厚意は王家のご厚意となる。

さすがに顔合わせまでは断れんだろう」


父は言った。

その後につながる可能性は、まずない。

そもそも隣国から公爵令嬢が連れてきた誰かだというのならまだしも、紹介されるのはこの国の令嬢だ。

本当に縁づきたいのなら、王子の紹介ではなく普通に釣り書きの一つも送ってきている。


百パーセントの可能性で相手は全く望んでないお見合いなのだ。

頭が痛い。


けれど、一度顔合わせをすれば向こうから断ってくれるだろうというのが父の見立てだった。

そうしても問題が無い様に根回しをしてくれることになった。


「お前が絶対に好かれないと決めつけている行動ですまない」

「いや、この傷だ。貴族のご令嬢ならこの先ずっと社交の場で二人でいるときに何か言われる。

少なくともあまり良くない目で見られてしまうから。

そんなの普通の神経では耐えられないよ」


その人が俺の怪我を気にしなくても、周りは気にする。

そういう中で普通を保っていられる人は少ない。

保てる様な人はもっと意味のある婚姻を選べる立場の人だ。


だからこちらから結婚相手を探したことはない。


* * *


王子達のご紹介という事で見合いの場は王宮内の庭園に二人のためのガーデンパーティをする様なしつらいになっていた。

茶器などのセンスは公爵令嬢らしい。


俺は失礼にならないように最低限の恰好を整えて参加している。

髪の毛は降ろしたままだ。

家で父と兄と相談して、少しばかりの失礼は仕方がないので降ろしていようということになった。


母は王子から縁をもらえるかもしれないという事で喜んでいて、ここまで現実が見えないものかと思った。

父は王子が結婚するタイミングで領地に送ることを決めたとそっと兄に伝えていた。


「殿下にはお前に負い目があるのかもな」


兄は静かに言った。


「あの時、お礼もお詫びも何もされてないんですけどね」


お詫びはおかしいかもしれない。

悪いのは賊だ。

けれど感謝も何も言われていない。

それに明らかに遠ざけられているのだ。


それが負い目というのならそうなのかもしれない。


「正式な礼も褒章も何もないっていうのがな……」


父は遠い目をした。


それを思い出しながら席に付く。

王子と公爵令嬢に連れられて一人の少女が庭園に来る。

顔色が悪い。

こんなことになるとは思っていなかったという顔だ。


なるべく早く終わらせたかった。

彼女のためというよりもこうやって見られて惨めな思いをする自分のためにも。


令嬢が紹介される。

伯爵家の次女らしい。

俺が立ち上がって近づくと、笑顔が引きつり、のどの奥でひっ、という悲鳴のようなものが聞こえる。

こういうのは地味に傷つく。

嫌悪というのもはどうしても伝わる


エスコートをすることはマナーのため手を差し出す。

とても嫌そうに手を差し出した後、令嬢は席に座る。

隠れてスカートで手を拭いているのが見える。

彼女の視線は消して俺の顔を見ない。とにかくやけどの跡を視線に入れないようにしているのだろう。


結論から言ってお茶会はまるで盛り上がらず、俺は運命の恋に目覚めることは当然なかった。

父が上手く根回しをしてくれたおかげだろう。


伯爵令嬢からは丁寧なお断りの連絡が来て、これで終わったとほっとしたところだった。


王子が「今回は上手くまとまらなかったが、次があるさ」と俺に言ったのだ。

次?


次ってなんだ?

困惑していると婚約者がお茶会でめぼしい令嬢を選んでいるらしい。


それは完全にお茶会で誰でもいいから結婚したいと言っている醜い魔法使いがいると風評をまき散らしているという事で、俺は頭を抱えてしまった。


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