王子の恋について
王子と俺はそろって学園に入ることになった。
他の側近たちも同世代だ。皆同じように学園に通っている。
俺は周りの人に思われているほど陰気ではない。
ただ、明るいかと言われればそんなことはないし、多分卑屈な方だ。
学園でも生徒会長になった王子から生徒会に俺だけ誘われなかったし、ダンスの実習などでも誰からも誘われない。
まあ普通に卑屈にもなる。
ただ、父と引退後のために準備はしている。
魔法の研究職をしながら暮らすという目標のために魔法の技を磨き、既に王立研究所に籍を置いているのだ。
後は王子の側近をやめるだけという状況になっている。
そこで静かに一人で研究をして過ごす予定だ。
勿論許嫁なんてものはいない。
男なのだが、一種の傷物扱いのためそんな話は舞い込んでは来ない。
そもそも家を継ぐのは兄なので無理に伴侶を探す必要もない。
ただ一つ、不思議なことがあった。
王子にも婚約者がいなかったことだ。
ある程度の年齢になったら許嫁がいる貴族は多い。
それなのに王子には許嫁はいなかった。
周りが何と言っているのかは知らない。
知らなくていいことを知って、側近から外れにくくなるのは避けたかったからだ。
幸い魔法の研究は自分にとても向いていてやっていて楽しい。
職場の環境にも恵まれている。
様々な魔法や呪術を使うため目を黒い布で覆っている者など見た目があまりにも不統一のためただのやけど跡がある自分が埋没できるところも良かった。
思ったよりも見た目のことは気にしていたと気が付けたことも良かった。
だから、後はいつ引くのかというだけの話だったのだ。
* * *
王子が一人の令嬢を連れてきた。
隣の国の公爵家の令嬢で、その国で冤罪をかぶせられて追放されたらしい。
その令嬢を王子が保護した。
彼女は王子の初恋の相手だったそうだ。
他の側近はそのことをちゃんと知っていた。
俺だけ知らされていなかった。
ならなんでアプローチでも婚約申し込みでも何でもしていなかったかというと、隣国の王子とその令嬢は婚約者だったそうだ。
冤罪をかぶせて婚約破棄をされて追放刑にあったが王子が保護をして汚名をそそいだそうだ。
そうして、王子は初恋の公爵令嬢に想いを伝え公爵令嬢はそれにこたえた。
ハッピーエンド。
何でも公爵令嬢はとても仕事もできるそうで、これで側近からはずれられるんじゃ、という希望が見えた気がした。
側近の仕事は優秀な公爵令嬢で充分だし。
公爵令嬢は自分の部下たちを連れてきていた。
婚姻に際して周りに侍る者たちの配置換えをするのはごく一般的だ。
それに合わせて側近を辞すという流れが見えてきた気がした。
だから素直にめでたいとこの時は思っていた。
別に俺にだけ知らされてなかったとしても、もうどうでもよかった。
どうせやめる職場なのだから。