腫物扱い
父母は私の姿を見て泣いた。
既に役職についている武官が名誉の負傷をするような場合、貴族としての生活に差しさわりが無い場合もあるが、それだって生活に支障があるような場合、よっぽどの武勲を立てていない場合兄弟などに家督を譲る。
俺はまだ、なんの役職も無い、王子の側近候補だった。
顔の傷を鏡で見たときには自分でもショックを受けた。
ただ、俺は長男ではない。
継ぐべく家督も無い。
家のことは兄がやってくれるだろうし、それであれば一人で魔法の研究をやって行こう。
そう心の整理をつけたところだった。
王子は、というよりも国王陛下は今回の働きをとても評価している。
忠臣として引き続き仕える様に。
そういう連絡が家に来た。
ただ怪我を負った俺がしかたがないですね、とばかりに切り捨てられていくのは心象が悪いという事らしい。
俺の家が魔法使いの家系で俺にもその才があるというのも大きいのだろう。
求められているのは魔法の能力。顔は関係ない。
そういう事なのだろうと思った。
父母は「反対はできない」という含みを持った言い方をした。
「どういう事だ」と問いただすと、きっといい扱いはされないだろうと、母を部屋の外に出した後父が言った。
見目の悪い物を重用することは難しいが無下にもできない。
まともな扱いを期待してはいけないと父は言った。
母を部屋から出したのは「殿下に限ってそんなことをするはずがない」ときっと母ならいうからだろう。
母は幼いころ俺と関わるよりも王子と関わる時間の方が長かった。
だから普段から殿下贔屓なのだ。
「けれど、これは王家からの意向。
断るのは難しいでしょう」
俺が言うと父はうなずいた。
それから「何とか折をみて引退を打診するからそれまで耐えてくれ」と言った。
まるで親子関係が逆のようで笑えた。
まだデビュタントすら行われていないのに、もう引退の心配をしているのはあまりにもおかしかった。
そうして俺は王子の側近になった。
王子は仕事の上で魔法関連のものは俺に話すが、昔の様な乳兄弟という雰囲気は全くなくなった。
そして、人前に出るとき。
公式の行事などでは俺を遠ざけるようになった。
とはいえ、公式の行事を休むわけにはいかない。
華やかな側近が集まるのを遠目で見ながら会場の端で息を殺すように過ごす。
それが外での過ごし方だった。
他の側近が「その傷は、他者にプレッシャーを与えてしまうよ」と言った。
それなら側近をやめさせてほしいと思ったが、仕方がないので髪の毛を伸ばし傷を隠すようにした。
俺は周りから陰気な人と言われるようになった。
公式の場では誰とも話さない。
貴族として許されるぎりぎりの整えるためではない長髪。
そして傷跡。
そのどれもが陰気な雰囲気を醸し出していた。
でも、少なくともまだ子供と呼べる年齢のうちは大人たちも分かっていたはずなのだ。
けれど大人は皆何かをしようとはしなかった。
ひそひそと顔の傷について陰口をたたく者達も多かった。
けれど何も無かった。
母にいたっては「あなたの所為で殿下に瑕疵があるように言われている!!もっと殿下のために尽くしなさい」とヒステリックに怒っていた。
父は横で首を振っていた。
母は王妃様からの覚えもめでたい。
父は切り捨てることができないのだろう。
けれど、俺が心の中で母を切り捨てた瞬間だった。