それではよろしくお願いしますと、家族にご紹介
「それでは、よろしくお願いします……」
恋愛経験ゼロ、周りの恋愛を見たことがあるのは父母以外だと、あの王子と公爵令嬢だけの俺には上手くできるはずがなかった。
そもそも父母の仲は良いのかあれは……。
お願いをするために頭を下げるのが精いっぱいだった。
それからこれからについて話し合った。
多分きちんと言わないと王子と公爵令嬢は止まらないだろう。
そういうタイプだ。
しかも俺を嫌悪した令嬢たちが噂に尾ひれをつけるかもしれない。
陰気な上、酷いことをする的な。それは家門に迷惑がかかるので関わった人皆に知っておいてもらった方がいい。
そして、想い人がいたのに見合いの場に連れ出してしまって申し訳なかった旨の連絡をしよう。
そのためにまずは家族に引き合わせるしかない。
付き合うことになった人を連れて帰るからと父に連絡をした。
後は父に紹介したという事実を作って父に繋がりのある貴族から、だから平民に近くなります、はは!! とやってもらう。
そのつもりでエーリカにお願いをしてうちに来てもらった。
父とちょっと会ってそれでおしまいのはずだったのに、なぜか兄とその婚約者まで満面の笑みで待っていた。
母がいないのは当たり前だ。どこかで聞きつけて『殿下から紹介されたご令嬢の方が良いに決まってる』と言われないためなるべく早く父に会ってしまおうとしているのだから。
それより義姉になる予定の人がいることには驚いた。
そして兄と一緒になってはしゃいでいるのだ。
「お付き合いすることになったエーリカさんです」
兄はあからさまににやにやしてこっちを見ないでほしい。
「エーリカ・フォン・ミュラーと申します。
魔術の研究所ではハインリヒさんには大変お世話になっております!」
エーリカはそう言って頭を下げる。
家族がこちらを見る。
「お世話って、何もしてないじゃないか」
「そんなこと無いですよ。
この前も、みんなにケークサレ配ってたじゃないですか」
「あれは、魔道具で育てた野菜と小麦が丁度あったからで……」
そこまで言ったところで家族の前で話す様な内容じゃないと気が付き恥ずかしくなる。
それはエーリカも同じだったようで赤くなってうつむいてしまっている。
「お似合いの二人だな!」
兄は笑みを浮かべて言った。
馬鹿にするようなものではなく優し気なものだった。
そのまま夕食を食べていくことになった。
エーリカは一人暮らしだった筈だ。
彼女は俺をみて本当にいいのか確認しているみたいだったので、良かったらと言ったら頷いていた。
食事は和やかに進んだ。
ただ、俺はそこで初めてエーリカの両親が既に亡くなっていることを知った。
親族が誰もいないから誰かと敵対するかもしれない役を引き受けてくれたのだとその時まで気が付かなくて、申し訳なかった。
だけど、エーリカは「気にしないでください」と言って、帰り際「こんな贅沢な料理食べるの初めてで楽しかったです」と言った。
俺にはもったいないこなんじゃないかと思った。
そう思うと、急に王子達がどう出てくるのか不安になる。
彼女が帰ってから父に相談しようと思うと既に父と兄とそれからその婚約者がそろっていた。
熱が出て数日寝込んでいました。すみません。
更新再開します。