王子とのこと
俺の母は、王子の乳母だった。
俺の家系は兄弟が多いことが多い。
母も王子が生まれた時には既に兄を生んでいて丁度俺を出産したところだった。
乳母というものは結婚前から付き添った侍女がなる場合以外では経産婦の方が好まれる。
既に育児を経験していること、それに二人目以降は乳がよく出るらしい。
他にも色々理由があったけれど、とにかく母は俺が生まれてすぐ王子の乳母となった。
その関係で王子と俺は乳兄弟だ。
そのため、少し大きくなってから王子の話し相手や遊び相手として何度も城に通っていた。
兄弟と言っても血は繋がっていない。
我が家は尊き血が直接降嫁していない家系だった。
王子は金髪にアイスブルーの瞳をしていた。
子供の頃から美しい顔は他を魅了していた。
対して俺は黒い髪の毛に紺色の瞳
魔術師の素養を表す金色が瞳に混ざってはいるが近づかなければそんなことは分からない。
顔も貴族としては凡庸なものだ。
王子の引き立て役だ。
少し時間がたってからその事実に気が付き、そっと父母に言ったことがある。
けれど、父も母も「そういうお役目です」と言っただけだった。
そして臣下の心得を教えられた。
父も母もこの国の忠臣と呼べるような貴族だった。
だから乳母に選ばれた。
自分でもどこかそういうものだと思っていた。
王家は敬わなければならないし、王子は守るべき存在で、自分は家来なのだ。
何も間違ってはいなかった。
そのまま自分たちは大きくなっていき、乳兄弟だった俺と王子は側近候補と王子になった。
けれど、ある日事件は起きてしまった。
あの日警備についていた何人の大人たちが責任を取らされてどうなったのかを俺は知らない。
兎に角、王子は賊に襲われて、俺がそれをかばった。
無我夢中だった。
顔に何か熱いものがかけられた感覚がした、それから誰の者かもよくわからない叫び声。
後ろで顔を青くしてガタガタと怯える王子の顔。
俺は半ば失敗したような魔法を賊に向かって放つことしかできなかった。
その後大人が沢山来て王子は守られた。
良かったと力を抜いた。
王子は大切そうに抱えられ避難していった。
賊たちは駆け付けた騎士たちに捕らえられていた。
相変わらず顔に激痛がしていた。
賊が捕らえられようやく騒ぎが落ち着いたところで、俺はようやく護衛騎士の一人に医務官の元に運ばれた。
王子は無傷で無事だと伝えられた。
俺は王家を恨んだものに魔法薬をかけられ、顔を大きくやけどしてしまった。
面倒な魔法がかけられていたらしく、やけどの後は消えなかった。
俺は王子を守ったよくできた家臣で、けれど、貴族としてふさわしくない醜い男になってしまった。