好きって言ったら負けだし
「好きな人、いないの?」
隣の席の天野さんが、唐突にそう聞いてきた。
俺は慌ててスマホをいじるふりをする。
「別に、いないけど」
「ふーん。じゃあ、今日から私がその枠、もらっちゃおっかな?」
「……は?」
心臓がバクバク言ってる。何言ってんだこの人。
「嘘だよ、冗談」
いたずらっぽく笑うその顔が、たまらなくずるい。
だけど、俺だって負けていられない。
「じゃあ逆に、俺がお前の“好きな人”になってやろうか?」
「は? ばっかじゃないの?」
ぷいっとそっぽを向くけど、耳まで真っ赤なのは見逃さない。
……よし、これで今日の勝負は俺の勝ち、ってことでいいよな?(272字)