第98話
やがて東の砦の守備隊が出発するとイーサンとマグナは砦から村の外に出ていった。
マグナにとっては帰ってきた道をまた戻る事になる。
「誰がこんな事をしたんでしょう?」
だがマグナは火事の火の方が気になって仕方がない。
「恐らくだが、ヒヨルドの仕業だ。冒険者街を包み込めるほどのカピカウドの実を持っているのは今は奴しかいないはずだ」
そうイーサンが答える。
「班長が? どうして?」
「大方、倉庫街を襲ったのだろう。蔵の宝物欲しさに、カピカウドの煙でガーズを呼び寄せ、街の中を混乱させたのだ」
「そんな、せっかくがんばって働いてたのに……」
「まったくだ。何が気に食わないのか……。困った事があるなら我々に相談すれば良いのに……」
イーサンも残念そうな表情を浮かべた。
城門を抜けた二人はそのままの畑の方へとひたすら歩いていった。
ここからでは火事の炎は城壁に遮られ見る事が出来ない。
雲に隠れていた月が再び顔を出す。
暗闇が月明かりに照らされ、周囲の畑の光景をほんのりと浮かび上がらせる。
既に時刻は深夜を回り、闇夜を覆っていた雲は途切れ、丸い突きが天に昇っていた。
マグナは月明かりの畑を眺めながら、思い出した様に言った。
「そうだ、さっきの巡回で襲われたんだ……」
その後、マグナは巡回の状況をイーサンに話した。
ハッタ達の事が気になって自分が何者かの攻撃を受けた事をすっかり忘れていた。
それを聞いて、イーサンは合点がいったのか大きく頷く。
「マグナ、やはりお前を連れて来て正解だった様だな」
「そうなんですか?」
「うむ。それとこれからやる事はくれぐれもスフィーリアには内緒でな」
「内緒?」
「確か、お前は司祭に戦うを禁じられているはずだ。まぁ、それは良い。司祭には儂から後でちゃんと言っておく。だがそれ以上に厄介なのはスフィーリアだ」
「何故、スフィーリアは良くないんですか?」
「あれはお前に固執しすぎだ。そのせいであれこれ理屈が通らん。知られれば色々、悶着の原因になる」
「……」
「まあ、今は判らんでもいい。だがマグナ・グライプ、今から言っておく。お前はこれからもスフィーリアの事で色々、苦労する事になる。それだけは覚悟しておくんだな」
そう言ってイーサンはニヤリと笑った。
「ではこれから細かな打ち合わせをする。頼んだぞ相棒」
「判りました。任せて下さい」




