第96話
「隊長さん、聞いて下さい!」
マグナはまるで自らの声に導かれる様に大人たちの前に飛び出した。
そしてメリーナを落ち着かせようとする。
「メリーナ、そんなに怒っちゃ、可哀そうだよ」
そんなマグナの行為にメリーナは怒りよりも驚きを覚える。
「でもマグナ、弟は友達まで巻き込んで悪さをしたのよ! こんなの幾ら叱ったって足りやしないわ!」
「けど、メリーナ。この子達はあれがカピカウドの実だと知らずに集めて居たんだ」
「でも、それは弟の言い訳で……」
「僕が今からそれを証明する」
「何ですって?!」
その一言にメリーナだけでなく砦の人間も一斉に声を上げた。
「それはどういう事だ。マグナ・グライプ」
グムカ隊長が訊ねるとマグナは答えた。
「僕は昼間、班長と一緒に子供達に会いました。そこでバンダは僕の前で籠を開けて中味を見せました。その時、班長は子供達にこの実を集めさせていると僕の前ではっきりと言いました」
「それは本当かね?」
「はい! 絶対に聞き間違いではありません! 集めさせたのはヒヨルド班長です!」
マグナは強い口調で断言した。
そんなマグナの前で今一度、隊長は訊ねる。
「それで君はそれを聞いてどう思った?」
「僕は班長の言葉をそのまま信じました。僕は記憶を失っていて、カピカウドの実もパカの実も知りませんでしたから……」
そうマグナが言い添えると隊長が考え込む。
そしてもう一度だけ、子供達の顔を眺めた。
三人とも頬に涙の流れた跡を残しながら死んだ様に塞ぎ込んでいた。
きっと彼等は本当にこの実が禁制のカピカウドの実だとは思いもしなかったはずだ。
「ふむ、確かにマグナ・グライプの発言は筋が通っているし信憑性もある。それに私達が籠の中を検めようとした時、三人とも素直に従ったし、ヒヨルドに売っていた事もすぐに白状したしな……」
間違いなく子供達の中に悪意はない。
本当に小遣い欲しさにやった末の行為であり、叱られた理由も当初は子供だけで城塞の外に出た事だと思っていた。
そして何より今は自分達にした事を心の奥から反省している様に覗える。
「判った、今回は無罪放免とする。今後、容疑者はヒヨルド・ビリンひとりとする」
隊長が判決を下した。
その判断にその場に居た全ての関係者が胸を撫で下ろした。
「ただし、今度、同じ事をした時は三人とも子供であっても厳罰に処すからそのつもりで! 知らなかったでは済まされないのが大人の世界だ。それを忘れない様に」
そう最後に釘を刺す事も隊長は忘れなかった。
「はい、ごめんなさい……」
子供達も隊長の前で声を揃えて謝罪した。
三人が解放された瞬間、家族たちは一目散に子供達に駆け寄った。
親の中には叱り足りないのか、息子の顔を一度だけ強く引っ叩く者もいた。
しかし最後はどの親も泣き続ける息子を抱き締めた。
それはメリーナであっても変わらない。
「ありがとう隊長さん、ありがとうハリカ先生、それに本当にありがとうマグナ……」
メリーナはバンダを抱き締めながら何度も礼を言った。
その感謝の言葉にマグナは気恥ずかしくなる。
そんな姉弟を見てイーサンも安堵した。
「もう大丈夫の様だな。しかしマグナよ。良くあの場で自分から言ってくれたな」
「?」
「ヒヨルドの事だ。本当は私が証人としてお前を推すつもりでいたが……」
「僕はただ、三人が気の毒に見えて……。でもあそこで言った事は本当の事です」
「それでいい。真実を持って彼等を救ったのだから。あれで三人は身も心も綺麗に洗い流された。最も、隊長も子供相手にあれ以上の事はしなかっただろがな」
「判るんですか?」
「三人はまだ子供だ。無碍に叩いてすり潰す必要もないさ」
イーサンはマグナに向かって静かに笑った。
しかし事件はこれで終わった訳では無かった。
むしろ何も解決していない。
問題はヒヨルドの事だ。
何故、彼が子供達にカピカウドの実を集めさせたのか?
その実を集めて何処に運んだのか?
そして何の為に……。
だが当のヒヨルドは姿を消したため、真相は判らず仕舞いのままだった。




