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爆槍!アルス・マグナ  作者: 七緒木導
第五章 フラム騒動記
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第91話

 とにかくマグナが畑を巡回する事が決まった。

次の日、マグナはまず東の砦に赴き、巡回の手順の説明を受ける。

 そこで一人の兵士と対面した。

「ようこそ、地獄の一丁目へ! 俺の名はヒヨルド・ビリン。またの名を閃光のヒヨルド! 君に戦場のイロハを教える為に舞い降りたここの戦士だ!」

 ヒヨルド・ビリンと名乗った兵士は大仰な物言いでマグナに語った。

「ビリン?」

 どこかで聞き覚えがある。しかしマグナは思い出す事が出来ない。

 そんなヒヨルドは赤髪の中肉中背、とても閃光の二つ名を持ち合わせる様な精悍さは感じない。

 ただ右頬にある傷だけが、僅かに歴戦の戦士の面影を物語っている様に思えた。

「君の事は色々、聞いているぞ、マグナ・グライプ。押し寄せたガギーマを倒し、教会を救ったらしいな。しかしガギーマなんて、眷属の中では雑魚の雑魚の雑魚だ! 倒して自惚れているのなら今すぐ気持ちを検めろ! 何故なら戦場はそんなに甘くない! 何時いかなる時に強敵が現れるかしれん! 要するに素人考えでは命を落とすって事だ!」

 ヒヨルドはマグナの前で戦士の心得の様な物をベラベラと説いた。

 それをマグナはウンウンと頷きながら素直に聞いていた。

 一通りヒヨルドからの薫陶が終わるとマグナには三つの物が渡された。

 2mほどの棍棒と金属製の呼び笛、そして日雇い巡回員を証明する木札だった。

「呼び笛と木札は首に掛けておきたまえ。呼び笛は巡回時に危険が迫ったら吹く。木札は東門を出るときに門番に見せれば通してくれる。棍棒は護身用で普段は杖代わりに使うと良い。さあ、準備は出来たか? ではこれから俺の事は班長と呼べ」

「はい、班長!」

「うむ、元気があってよろしい! では出発!」

 ヒヨルドは口数の多い。歩きながらも聞いても居ない事を色々と話しかけて来る。まるで早朝にさえずる雀の様な賑やかな男だ。だが話す感じでは悪い男には思えない。

 班長と日雇い巡回員は東の砦から村の外に出ると、畑に挟まれた村の道を進んだ。

 マグナが初めて見る村の外の景色。

 だが周囲は遠くにハルトーネの森の一部が見える以外は畑ばかりで、物珍しいものは何も無かった。

 畑の中では収穫を待ちわびる野菜たちが無事なまま植わっていた。

 何処にも大根泥棒の影はない。

 時折、乗合馬車が街道の東からやってきて二人とすれ違った。

 馬車の荷台には荷物の他に数人の冒険者が相乗りしていた。

 この先にあるミシルというここより大きな町から定期的にやって来るのだ。

 そんな馬車の動きをぼんやりと眺めているとマグナは見知った一団と鉢合わせになった。

 現れたのは何とハッシャムー遊撃隊の悪ガキ三人組だった。

 三人はそれぞれ背中に大きな蔓籠を背負っていた。

 竹籠は蓋をされ中味は見えない。

「や、やぁ。マグナ……」

 やや間を置いてリーダーのバンダがぎこちない声で挨拶をした。

 だが三人は挨拶の後、気まずそうな顔をする。

 そしてそれぞれが小さな声でつぶやき合う。

「おい、どうしてマグナがここに居るんだよ……」

「知らないよ……」

「でもこの事がハリカ先生にバレたら……」

「シッ、声が大きい……」

 どうやら三人がここでマグナと会う事は想定外の事だったらしい。

 その理由が最初、マグナには判らなかったが、暫く記憶を巡らし続けると、ある事を思い出した。

 学校の廊下の掲示板にはハリカ先生による自筆の張り紙がしてあった。

 そこには確か「しばらくの間、子供だけで城壁の外に出てはいけません」と書かれていたはずだ。

 無論、理由は村の外が眷属の徘徊によって危険な為だ。

 それでマグナは合点がいった。

 彼等はハリカ先生に禁じられている城壁の外への外出を行ったのだ。

 それをマグナに目撃され困惑した。

 そして間違った事をしているのなら友達として注意してやる必要がある。

「ちょっと、みんな。どうしてここに居るんだ? 村の外は危ないよ……」

 マグナが声を掛けようと遊撃隊に歩み寄る。

 当然、ハリカ先生の言い付けを守らせる為だ。

 だがそんなマグナをヒヨルドが止めた。

「ちょっと待った。こいつらは何も悪く無いぜ」

 ヒヨルドからの意外な言葉にマグナが聞き返す。

「こいつらには俺から頼み事をしたんだ」

「頼み事?」

「ああ、その為に外に出られる様に俺が許可した。それと丁度良い、三人とも背中に背負った籠を下ろせ。中味を検分する」

 ヒヨルドが今度は子供達に命令した。

「は~い」

 三人は素直に背負っていた蔓籠を下ろすとヒヨルドの前に差し出した。

「さてマグナ、これから通行人の荷物の検分をする」

「検分?」

「ああ、村の外の人間が不審物が無いか調べるんだ。これも巡回員の大事な仕事の一つだから、よく見てるんだぞ」

「チェ、オイラ達は新人教育の教材かよ……」

 三人は蔓籠を差し出しながらぶー垂れる。

 だがマグナに注意された事をヒヨルドに庇ってもらって安堵している様にも見えた。

 蔓籠の中には梅の実ほどの大きさの茶色い木の実がいっぱい詰まっていた。

 ヒヨルドは木の実を見ながら納得した様子で頷く。

「マグナ、パカの実だ」

「パカの実?」

 マグナがヒヨルドに聞き返す。

「知らないか? パカの木になる食える実だ。干して水分の抜けた物を酒のツマミにして出されるんだ。上等な奴はあく抜きして酒に漬け込んだりもする」

 ヒヨルドはパカの実をそう説明してくれた。

「けど、こんなにいっぱい採ってどうするの? 食べるの?」

 今度は三人に向かってマグナが訊ねる。

 だがマグナの言葉に三人は呆れた顔でマグナに言った。

「まさか、パカの実は子供には毒だからって食べさせて貰えないよ」

「売るの。売るんだよ!」

「売る?」

「そうだよ、そこに居るヒヨルドさんにね」

「班長が?」

 その言葉にマグナは今度はヒヨルドの方を見る。

「ああ、そうさ。俺がこいつらに言ったんだ。この実を持ってきたら他の店より⒉割増しで引き取ってやるってな」

「そうなの?」

「ここだけの話、砦の兵隊の給料だけじゃ、心もとなくてな。こうやって副業で懐を温めるって寸法さ」

 そう言ってヒヨルドは苦笑いを浮かべた。

「でもヒヨルドさんだけじゃないぜ。オイラだってこいつを売った金で家計の足しにする気なんだだぜ。ウチは姉弟の二人暮らしだろ? 少しでも収入の足しにして姉ちゃんを助けてやらないと」

「そうなんだ。バンダは偉いね……」

 マグナが感心しているとバンダは偉そうにふんと鼻を鳴らした。

「けど城壁を出たのは良くないよ。それを知ったらハリカ先生やメリーナも悲しむ……」

「そ、それは……」

「それに最近は野菜泥棒の話もある。森に入る事も良くないよ」

「判ったよ、悪かったよ」

 マグナに窘められ、三人は再び気まずそうな顔をした。

「まあ、マグナ。今日のところは俺に免じて許してやってくれ」

「班長?」

「元はと言えば俺が頼んだ事だ。こいつらは何も悪くない。だから学校にも家族にも言ってやるな。今日の所はな」

 そうヒヨルドが庇いだてするとマグナも訳も分からず強く言うのを止めた。

「うん……、班長がそう言うのなら。僕ももう何も言わないよ……」

 そうマグナが答えると三人の顔に笑みが戻る。

「じゃあ、さっさと家に帰るんだ。道草なんかするんじゃないぞ」

「あ~い」

 ヒヨルドが三人を解放した。

 ハッシャムー遊撃隊は蔓籠を再び背負うと村の方へと戻っていった。

 三人の姿が見えなくなるとヒヨルドは再び歩き出しマグナに巡回の要領を教えた。

 難しい事と言えば、巡回中に誰かと出会った時の対応だった。

 基本的に会った人間には声掛けするのが基本だった。

 しかし怪しい挙動の不審者や武装した危険人物に対しては柔軟な対応が求められた。

 無闇に近付いてもいけないし、こちらの本意を知られてはならない。

 逆に相手の動向を密かに観察しながら、その真意を見抜く。

 だが人を疑う事を知らないマグナにとって極めて苦手な行為だった。

「まあ、危なかったら、隊長が言った通り、そいつらから逃げて砦に駆けこめばいいさ。逃げられない時も無闇に戦わず、その呼び笛を思いっ切り吹く。まあ、素人ならそんな所だな」

 そうヒヨルドの講義が終わる頃にはマグナの最初の巡回は終わった。

「まあ、巡回なんて言ったってこんなモンだ。特に怖くも難しくも無いだろ」

「うん。今日は色々と教えてくれてありがとう」

「気にすんな、これも仕事だ。後、当番表は砦にあるから帰りに貰っくれ」

 ヒヨルドは言い終わると東の砦内へと姿を消した。

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