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爆槍!アルス・マグナ  作者: 七緒木導
第五章 フラム騒動記
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第90話

 こうしてフラム村を巻き込んだ野菜泥棒の大捕り物が開始された。

 村人と砦の守備隊による泥棒と野菜探しが村の各地で繰り広げられる。

 そんな野菜泥棒の捜査開始の次の日、守備隊のグムカ隊長が教会にやってきた。

 教会関係者と遊びに来ていたエリッサが集まって話を聞くと、どうも深夜の巡回の歩哨の数が不足してほしいので教会から一人、融通してほしいとの事だった。

「そんな事ならギルドに頼んで初級冒険者を回せば良いじゃない」

 その話を聞いたスフィーリアとエリッサが口を揃えて答える。

 しかし隊長の話では一回の巡回に出せる報酬がギルドの提示する最低依頼料を下回るらしくとても頼める様な状況では無いらしい。

「砦の運営も大変なのです。そこを判って司祭様にお願いに寄せさせて頂きました。どうか、一人。一人で良いんです。戦闘経験のある方を、何とかなりませんかね」

 隊長が困った顔をしながら司祭に懇願した。

「なら判りました。私が巡回の御役目を勤めさせて頂きます」

 教会の中でスフィーリアが声を上げた。

「おお、現役の冒険者でもあられるスフィーリア女史なら申し分ない。司祭様、どうか彼女を……」

「いいえ、残念ですか彼女は却下です」

「何故ですの、司祭様?」

「忘れましたか? あなたは明日から首都トゥーザリで研修を受ける事になっているのですよ」

 司祭の言葉にスフィーリアはハッとする。

「まぁ、そうでしたわ……。申し訳、御座いません、グムカ隊長」

「ではエリッサ女史は?」

「私への依頼はギルドに通すのと同じ事よ」

「では個人的に。ギルドを通さない仕事依頼という事で?」

「ごめんね、隊長さん。最近、他のメンバーがうるさく言ってくるのよ。リーダーとして安請け合いは如何なものかって」

「ではイーサン先生が?」

「いいや、悪いが今回は外させてもらうよ。最近、腰が悪いし、それにちょっと、調べものをしたいのでな」

「では、残りは……」

「僕では駄目でしょうか?」

 そう言って末席に居たマグナが手を上げた。

「掃夫の君がかい?」

 痩身の少年を隊長が注視する。

「確かにマグナなら良いんじゃないかしら?」

 賛成したのはエリッサだった。

「隊長さんも知ってるでしょ。一ヶ月前の教会での戦闘。彼、大活躍だったのよ」

「確かに話には聞いているが……」

「行くのならやる気のある人が一番よ」

 エリッサは強く推薦する。

 無論、巡回に出る事でマグナの中に冒険への興味が今以上に湧いてくれることを期待しての事だ。

しかしエリッサの声に隊長は少しばかり困惑する。

 確かに教会で戦闘があった話を隊長は知っている。だが目の前の痩身の少年が強いという話はあまり信じてはいなかった。

 何故ならこの手の武功譚には尾ひれが付くものだ。

 それに彼からは覇気の様な物が感じない。とても深夜、一人で出歩いて臨機応変に動ける様には思えなかった。

 だが他に頼れる者が居なければ出て貰うしかない。

「まあ、やってくれると言うのなら……」

 取り合えず隊長はマグナからの申し出を受けることにした。

 これで教会からの畑の巡回員はマグナという事になる。

「お待ちください!」

 だが決まりかけていた話にスフィーリアが水を差した。

「彼は掃夫です。戦士では御座いません。それにマグナもこんな大事な事を誰の相談も受けず安請け合いしてはいけません!」

 スフィーリアはマグナを諫める。

 それは普段から彼の戦闘への参加に難色を示していた彼女にとっては当然の意見だ。

「けど、他が出られないのならマグナに行って貰うしかないでしょ」

 エリッサがマグナの代わりに反論する。

「それでも、危険が伴う事は賛成しかねますわ!」

「頑固ねぇ。もう、マグナの話になると何時も過保護なんだから……」

「大きなお世話ですわ!」

「司祭様はどう思われます?」

 仕方なくエリッサが司祭に判断を仰ぐ。

「隊長、先ほどのお話通り巡回員は戦闘に参加しなくても良いのでうしょね」

「勿論、ご安心下さい。もし不審者を見つけても、その場は逃げて頂いて、我々の方に報告して下されば結構です。それでも、もしもの事があった場合は逃げながら呼び笛を鳴らして下さい。東の砦から兵達が必ず駆け付けます」

「ならよろしいのではないでしょうか? イーサン先生はどう思います?」

「そうだな。無茶さえさせなければ心配なかろう」

 結局、スフィーリア反対意見が覆る事はなく、マグナは決められた日に村の畑の警備に当たる事になった。

 その決定を前にスフィーリアが肩で溜息を吐く。

 そんなスフィーリアの背中を叩きながらミキシイナとハリカが励ましてくれた。

「余程、マグナの事が心配なのね」

「でも大丈夫よ。彼が強いのなら、そんなに心配する事はないわ」

 しかしスフィーリアは気が気ではない。

 むしろ彼が関わる事でもっと大きな事が起こるのではないか?

 そんな不安が心の中で渦巻いていた。

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