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爆槍!アルス・マグナ  作者: 七緒木導
第1章 迷宮から来た少年
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第9話

 教会を出たエリッサは村の西にある冒険者ギルドへと大急ぎで向かった。

 病室で長居したせいか、太陽は随分、日の暮れに傾いていた。

 白漆喰の教会の壁も遠くに見える村を囲む城塞の土壁もオレンジ色に染まりつつある。

「急がなきゃ、本当に閉館しちゃう」

 エリッサは村の西側に辿り着くと、そのまま大通りを進んだ。

 大通りは通称、冒険者通りか冒険者街と呼ばれていた。

 両脇には冒険者が冒険の為の武器や装備を買い求める商店や寝泊まりする為の宿屋や長期滞在の為の長屋、そして胃袋を満たす為の飲食店がひしめき合い、更に冒険で得た戦利品の換金や両替の為の質屋や銀行までもが立ち並ぶ。

 そして冒険者通りを抜ければ村の外縁でもある城塞と西の砦に辿り着き、その先は冒険の入り口でもあるハルトーネの森へと通じていた。

 そんな街並みの中に、この村の冒険者ギルドは開設さていた。

 冒険者ギルドの正式名称はオーディア大陸連合公認冒険者組合フラム支部、村人や冒険者達からはギルドの他に単に支部や会館などと呼ばれていた。

 冒険者ギルドとは冒険者やその関係者の相互扶助の観点から各自の事業や生活の改善の為に組織された団体の事で、言うなれば社会と冒険者を繋ぐパイプ役と言った所だ。

 無論、目的は地縛竜とその眷属の撃滅で、団体は冒険者ギルド憲章と呼ばれる内規に沿って設立、運営されていた。

 ギルドと言っても、その規模も都市単位の職人ギルトとは違い、このオーディア大陸の全土に及ぶ巨大組織で、ほとんどの国家で正式な法人格が与えられていた。

 事業内容も多岐に渡り、加入者の冒険者登録による名簿作りから始まり、冒険事業の斡旋に指導、冒険者間のトラブルの仲介、冒険中の災害に於ける救援活動の段取り、各種教育機関の紹介、冒険に関する情報の共有と開示、提携を結んでいる商店や不動産の紹介、更に銀行業務から保険事業に資産管理に税金対策まで冒険者の活動に関わるほぼ全てを網羅していた。

 以前は冒険者個人のパラメーターや等級による細かな格付けも行っていたが、冒険者側が能力値の開示を嫌がる為、現在は各パーティや個人の仕事の達成率からなる大まかな信頼格付け程度に留まっている。

 ギルド会館は荒々しい土壁の如何にも急造りの木造だった。

 だがワリカット教会の伽藍に並ぶほどの大きな建造物で明らかに小さな辺境の村の中では不釣り合いな建築規模をしていた。

 だがそれはこの村の冒険者稼業が盛況な証でもあった。

 エリッサは会館の入り口で受付を済ませると、ホールの隅にあった長椅子に腰掛けた。

 中では冒険者たちがカウンターを挟んで事務員と打ち合わせたり、掲示板に掲げられた大量の依頼書を熱心に読み込んでいたりしていた。

 もう夕暮れ時なのにホールは冒険者で込み合っている。

「今日はいつもより人が多いわね……。何かあったのかしら?」

 エリッサが不意に思う。

 暫くして呼び出しがあった。

 指定された席番へと向かうと一番奥にエリッサの担当が居た。

「スパイドさん!」

「やあ、エリッサ。お疲れ」

 エリッサが席に居た男に挨拶すると彼も気軽に返してくれた。

 彼の名はペル・スパイド。エリッサのパーティの担当で、ここ冒険者ギルド・フラム支部の支部長でもあった。

「ワイルドキャットの皆は無事だったかい?」

「ええ。何とか、今回も上手に生き延びられたわ」

「ふむ、それは大いに結構」

 美人との掛け合いにスパイドも楽しそうだ。

 改めてワイルドキャット団とはエリッサのパーティの名称だ。

 メンバーはリーダーである精霊師のエリッサ・ブンダドール17歳。

 サブリーダーの僧医のスフィーリア・ルシエッタ17歳。

 剣士で人狼族の黒一点、ハン・ロウディ15歳。

 斥候で人猫族のミャール・チップス年齢不詳の四人だった。

 ワイルドキャット団はフラム村でも上位クラスに入るほどの実力を誇る少数精鋭のパーティチームだった。

 まだ結成して三年、この村に来てたった一年目の新参組だが仕事の達成率は完璧に近く、常に高い評価でギルドからの信頼も厚い。

 その為、彼女達のギルド担当も支部長直々であり、今回のコモラ迷宮探索も彼女達の実力を鑑みてのスパイドからの依頼だった。

「実は君達が帰って来るのを待って居たんだ」

「待っていた?」

「昨日、コモラの方で地震があったろう? つい今しがた迷宮が潰れたって噂が立って大騒ぎなんだよ。ここも皆が情報欲しさに集まってこの人だかりだよ」

「成程、それで人が多いのね……」

 スパイドの話にエリッサが頷いた。

「それで正式にこちらの依頼でコモラに行ってた君達を待っていたって事なんだが……。何があったんだ?」

 スパイドが聞く。

「なら別室を用意して貰えません? 少々、込み合った事情がありまして……」

「込み入った事情?」

「出来るならまだ他人に聞かれたくないので……」

「判った。直ぐに用意するよ」

 エリッサの申し出にスパイドは頷いた。

 別室の応接室にエリッサが通されると、彼女はそこでコモラ迷宮で起きた事の全てをスパイドの前で話した。

 無論、最下層で見つけた少年の事もだ。

「それは本当かい?!」

「間違いありません。最下層でその樽に乗った少年が地縛竜と戦っていました」

「はぁ~」

 エリッサからの報告にスパイドは仰天した。

「まさか、この村から新しい屠龍が出て来るかもしれんとはな……」

「信じてくれるんですか?」

「君がこんな事で嘘を吐くとは思わないよ」

 スパイドは一旦、落着きを取り戻そうと、カップに入った茶を軽くすすった。

 屠龍(スレイヤード)とはギルドから地縛竜を倒した者に与えられる称号だ。現在、称号持ちの冒険者はこの十年で五千人ほどに上る。

 意外に数が多い様に思われるが、竜退治は基本的に集団戦で行われる為、作戦にさえ加わっていれば末端の参加者や死者にまで竜殺しの栄誉が永世に与えられる。

 だがそれでも屠龍の数は足りない。何故ならこの大陸に居る地縛竜の数は千柱を超え、更に増え続けているからだ。

 それもあって人類による地縛竜殲滅は悲願であっても実質不可能だと言われている。

「それでその屠龍の候補様は?」

「今、ワリカット教会の病室に居ます」

「じゃあひとまず安心だね」

「ところでスパイドさん、彼の事を調べてもらえません?」

「調べるって?」

「出来れば家族に知らせて上げようと思って」

「相変わらず優しい娘だね、君は。それで何か手掛かりになる様な物は?」

「いいえ、何も……。なにぶん、近付いた時には既に気を失ってましたし、持ち物らしい物も何も持って居ませんでしたから……」

「ギルドの会員証とかは?」

 スパイドの言葉にエリッサは首を横に振る。

「成程、モグリの可能性大だな……」

 モグリとはギルドの用語で会員名簿に登録されていない冒険者の事だ。

 名簿に名前が無ければ彼が何者であるかも調べようがない。

「手掛かりがあるとすればその銀色の槍と燃える金と赤の髪か……。それと彼が入ってたていう黒い樽……。どれでもいい、今まで見聞きした覚えは?」

「ありません。私も初めて見ました」

「だろうね……。私も初耳だ。そんな魔法や樽の事なんて。判ったよ。こちらでも少し調べてみよう」

「お願いします。お手数をお掛けして」

「気にする事はないさ。ギルドは元々、冒険者の相互扶助が目的の組織だし、私もその少年には興味がある。近々、見舞いがてら病院にも行ってみよう。それと依頼の方はご苦労様。貴重な情報ありがとう。依頼料はいつもの口座に全額振り込んどくよ」

 スパイドとの話が済むとエリッサは会館から出ていった。

 恐らく、明日になれば会館の掲示板にコモラ迷宮崩壊の詳細が張られるはずだ。

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