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爆槍!アルス・マグナ  作者: 七緒木導
第五章 フラム騒動記
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第85話

 その後、気を取り直した三人は牛筋亭へと入っていった。

「いらっしゃいませぇ~」

 昨日と同じメリーナの明るい声が聞こえてきた。

「あっ、スフィーリア先生、エリッサさん、マグナ、来てくれたのね」

「ちょっとご無沙汰ですわね」

「とんでもない。こちらの席にどうぞ」

 三人はメリーナに四人掛けの席に案内されるとスフィーリアはマグナの隣に、エリッサはその向かい側に腰を下ろした。

メリーナが三人にメニューを渡す。

「日替わりランチ三つ、お願いしますわ」

 スフィーリアはメニューを受け取る前に勝手に注文を決めた。

 それにエリッサとマグナは無言で同意した。

 特にエリッサは店の前での出来事がまだ響いているらしく、少し落ち込んでいた。

 一方、注文を受けたメリーナは暫くそこから動こうとしない。

 そして小声で訊ねる。

「あの、スフィーリア先生……。イーサン先生は?」

 やはり昨日の事が気になるのだ。

 それにスフィーリアは笑って答える。

「心配ありませんわ。司祭様のお話では体に異常は無し。昨日もベッドに寝かされても、もう起きると言って聞かなかったくらいです」

「そうですか、良かった……」

 スフィーリアの言葉にメリーナは安堵した。

 注文を取り終えたメリーナがマグナ達の前から離れていった。

 店の中に特に変わった事は無かった。

そして何よりメリーナの表情が明るかった。

 落ち込んでもいなければ、へこたれても居ない。

 昨日、あんな事があったとは本当に思えない。

「あれからも何事もなく、平常運転の様ですわね」

 スフィーリアが安堵する。

 それはマグナも同じ気持ちだ。

 何も変わらない。まるで事件の事など無かった様に。

 そして不意にイーサン先生の言葉が頭を過る。

「誰の庇護も受けていない。あの子は思っている以上に強い子だ。お前とは大違いだ……」

 やはりイーサン先生の言った事は正しい。

 だから自分の様な人間が助けようと考えるのはやはり間違っているのだろうか?

 やがてメリーナが三人の前にランチを運んできてくれた。

 メニューは野菜のスープにパンと焼いたベーコンだった。

 料理が並び終えた時、スフィーリアがメリーナに言った。

「さっきまで店の前にバンダ君達が居ましたわよ」

「え?! 本当ですか、先生?」

 寝耳に水の出来事だったのか、メリーナが驚いてみせた。

 仕事が忙しかったのか姉は弟の存在に気付かなかったらしい。

「けど、ご安心なさい。そこに居るエリッサが見事、村に帰る様に諭しましたわ」

「ゲホンッ!」

 いきなり先ほどの件を親友に蒸し返され、エリッサが思わず咳き込む。

「まあ、ありがとうエリッサさん。助かりました」

「いいえ、気にしないで。どうって事無いわ」

「けれどバンダ君もお姉さん思いですわね。お姉さんを守りたいなんて」

 スフィーリアが少しばかりバンダの心意気に感心する。

 しかしそれを聞いてメリーナは少しばかり暗い顔をしながら首を振った。

「寂しがりなんですよ、弟は。特に私が働き出してから、あの子の傍に居て上げられる時間が減ったもんで。だから私に構ってもらいたくてそんな事をするんです。まだ子供ですから……」

 それだけ言い残すとメリーナは三人の前から離れ、忙しそうに仕事に戻っていった。

 料理が置かれるとエリッサとマグナが早速、食べ始めようとした。

「いただきまーす」

 エリッサがつぶやきながらパンに手を延ばそうとした。

 マグナもそれに習おうとする。

「マグナ、行儀が悪いですわよ。最初はお祈りからでしょ」

「でもエリッサはお祈りしなかったよ」

「悪い人のやり方を真似してはいけません」

 マグナの言動をスフィーリアが窘めた。

 マグナは慌てて手を戻すとスフィーリアと共に食事の前の祈りを始める。

「相変わらず、堅いわね。こんな食堂で」

「人として当然ですわ」

「て、いうがそれが商売だもんね」

 スフィーリアの生真面目さにエリッサが微笑む。

 二人の祈りが終わると三人は食事を摂り始めた。

 エリッサが固いパンを千切ってはスープに浸し、柔らかくなってから口に運んでいた。

 だが食事が進むにつれ、エリッサには目の前の二人、特にスフィーリアの態度が気になって来る。

「駄目ですわよ、マグナ。ベーコンばかりを集中して食べては、出来るだけ野菜とパンとを交互に合わせてバランスよく召しあがりなさい。いけません! スプーンで食器の底を叩いては」

 何かとマグナのテーブルマナーに対して口うるさく指導するのだ。

 その様は幼児に付き添う母親の様な態度だ。

 そして遂には……。

「ああん、もう。こんなところにオベントウ付けて……」

 と言いながらマグナが誤って頬に付けたベーコンの欠片を指でつまむとそれを自らの口に運んだのだ。

 その光景には流石にエリッサも呆れ返る。

 マグナは確かに記憶が無い。娑婆のルールにもテーブルマナーにも疎いのは事実だ。無論、それを指導するのが自分達の役目ではあるが、マグナは列記とした大人であって幼児ではない。

 指導するならもっとそれなりの方法があるはずだ。

「スフィーリア……。アンタ、食事の時はいつもそうなの?……」

 エリッサが思わず口を出した。

「そうなのとは?」

 スフィーリアも何のことかと聞き返す。

「そうやって、マグナに口うるさくテーブルマナーを注意する事よ」

「当然ですわ。実際、おかしいんですもの」

「まあ、そうなんだけど……」

 エリッサはスフィーリアの態度に溜息を吐く。

 この女はやはり自分のやり方のおかしさが判ってない。

「まるで母親と子供ね……」

 エリッサは思わず口に出した。

「仕方ありませんわ。直接、言わねば身に付きませんもの。それに黙ってそのままにして置けば、後々、苦労するのはマグナ自身ですわ」

 だがスフィーリアは平然と返す。

 エリッサはスフィーリアにはマグナの自主性にもう少し任せるとか大人としての扱いをしてはどうかと諭そうと思った。

 だがどうも言っても言い返されるのが目に見えている。

「まあ、人前ではほどほどにね……」

 口惜しいがこう促すのが精一杯。

 結局、その場はスフィーリアの好きにさせた。

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