表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爆槍!アルス・マグナ  作者: 七緒木導
第五章 フラム騒動記
84/122

第84話

 二件目が済むと三人はその足で次々と患者の下に向かった。

 患者の病症は村の西と東ではまるで違っていた。

 東の村での患者は高齢者の持病持ちが多かった一方、冒険者街での患者は若者による外傷が多かった。

 その中には当然の様に他の種族の患者も大勢いた。

 そんな彼等を教会は分け隔てなく診療した。

 この大陸で神の名の下では種族間は平等であり差別はない。

 ザイーナの威光の下では誰もが神の愛を享受出来る。

 例え信者でなくても光魔法で体は浄化され、闇魔法で傷は治る。

 だがその威光も地縛竜とその眷属の下には差し込まない。

 それどころか主による厳しい制裁の一撃が振り下ろされる。

 だがひとつだけマグナの脳裏に引っ掛る者があった。

 昨日の牛筋亭で狼藉を行ったあの三人組だ。

 マグナには彼等がどうしても味方には見えない。

 正しい行いの人間には見えない。

 しかし同時に眷属にも見えない

 むしろ自分と同じ人間に見える。

 では彼等の正体は何なのか? マグナは悩む。

 そんな時、マグナの脳裏にイーサン先生のもう一つの言葉が浮かんだ。

「本当に救うべき人間は、牛筋亭で暴れたあの三人組の方だよ……」

 マグナは再び考え込む。

 ならば彼等を救わねばならないのは彼等が味方側の人間だからという理由なのか?

 しかしそれだけの理由ではマグナは釈然としない。

 結局、答えが見つからないままだ。


 回診の仕事は午前中に終わった。

 イーサンの代わりをスフィーリアは見事に果し切った。

「丁度、頃合いですわね。お昼にしましょうか」

「そうね、もう、待ってるだけでお腹ペコペコ……」

「どこにします?」

 スフィーリアは昼食を取る店を聞いて回る。

「私はどこでも良いけど、マグナはどこか行きたい所ある?」

「……牛筋亭」

 エリッサの質問にマグナがぽつりと答えた。

「牛筋亭とはイーサン先生御用達か……。なかなか渋い選択ね」

「私も牛筋亭で構いませんわ。けれどマグナ、あなた本当は昨日の事が気になるのではないですか?」

 スフイーリアが訊ねるとマグナが頷いた。

 そんな二人のやりとりを見てエリッサが不思議そうな顔をする。

「昨日の事? 何かあったの?」

「そんな事より早く参りましょう。お昼になると込むかもしれませんから。昨日の事なら後で説明して差し上げますわ」

 やがて三人は牛筋亭の前に到着した。

 昨日、乱闘騒ぎがあったというのに店は何事も無かった様に営業していた。

 そして昼時のお客の入りも何時もと変わらない。

 しかし昨日とは一点だけ異なっていた。

「さあ、順番通り入れ! 割り込む様な奴は追い返すぞ!」

 店の入り口の前でいきり立った子供達の声が聞こえた。

 居たのはバンダ、ヤンマ、クベッチの悪童三人だった。

 彼等は店の用心棒よろしく手に木っ端を手に持って突っ立ていた。

「なによ、アンタ達、ハッシャムー遊撃隊じゃない」

「あっ、エリッサの姉ちゃんとスフィーリア姉ちゃん、と……げ、ドモリ」

 バンダがまた使ってはならない言葉を発した途端、スフィーリアはバンダの耳を摘まみ上げ力いっぱい引っ張った。

「いでででででででででででで……」

「その言葉は使ってはいけませんと昨日、注意しましたわよね!」

「ごめんなさい……。もう、言いません」

「ところでアンタ達、こんな所で何してるの?」

 エリッサがバンダに聞いた。

「何って、見ての通りさ。昨日の今日で、ここに不埒者が来ないか監視してるんだ」

「監視って、アンタ達が?」

「そうさ、この世に悪が蔓延る時、疾風の様に現れる! 三人合わせてハッシャムー遊撃隊! お呼びとあらば即参上!」

 三人そろって口上を合わせると、全員で決めポーズを取った。

 大方、昨日の三人組の仕返しに備えてのガードマン気取りなのだろう。

「ところでアンタ達、学校は?」

「何、言ってるの。今日は学校も休みだよ、や、す、み」

「だからオイラ達も堂々とここに居られるって寸法、痛でででででででででででででででででででででででででででででででででででででででででででででででで!!」

 だがバンダが言い終わる前に、今度はエリッサも加わって、スフィーリアと二人係りで三人の耳を思いっ切り引っ張った。

 三人組は痛さの余り悲鳴を上げる。

「いだいよ、エリッサねえぢゃん……」

「じゃあ、こんなところで油売ってないで、さっさと家に帰ってハリカ先生が出してる宿題を片付けなさい! そしてその空っぽの頭の隙間を少しでも埋めるの!」

「けどお姉ちゃんの事が心配で宿題どころじゃ……痛てててててて!」

「メリーナの事なら大丈夫。私達、大人が付いてるから心配しなさんな。大体、子供のアンタが出張ったところで邪魔にしかならないんだから!」

「けどエリッサねえちゃん……。いだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ!」

 言い訳する度に引っ張られる力は強くなっていく。

「判ったよ! 判ったから手を放して! そんなに引っ張られたら耳が千切れちゃう!」

 三人は泣きながら許しを乞うと、ようやく摘まんだ耳を解放された。

「じゃあ、さっさと帰りなさい。時は得難くして失い易しよ」

「え? 失い、何だって?」

「判らない言葉があったら今すぐ帰って辞書で調べる! 今度、会った時に答えられなかったら両耳じゃなく、その小っちゃなおちんちん、引っこ抜いてやるんだから!」

「ひええええええええ~~」

 エリッサの恐ろしい脅し文句の前にハッシャムー遊撃隊は慌てて退散した。

「まったくあの子達ったら……」

 走り去る三人組の背を見守りながらエリッサは溜息を吐いた。

だがその横で何故かスフィーリアが顔を真っ赤にさせる。

「どうしたの、スフィーリア」

「エリッサ……。あなたマグナの前でなんて言葉を……」

 それを聞いた途端、エリッサが何かを悟る。

 そして慌ててマグナの顔を見た。

 マグナは深刻な顔をしながらエリッサに言う。

「エリッサ、おちんちんは大事だから引っこ抜いたりしちゃあ駄目だよ」

 そう真剣に諭された途端、エリッサはスフィーリア以上に顔を真っ赤にした。

「ごめんなさい……。けど安心して。そんな事は絶対しないから……」

 エリッサは慌てて言葉を取り繕う。

 失敗だった。迂闊だった。あのイケメン顔で大真面目に窘められた。

 彼の前で私は何て言葉を口走ったのだ。

「恥ずかしい、穴が無ければ掘ってでも入りたい……」

 一方、エリッサが訂正した事でマグナの表情は明るくなる。

「良かった……。エリッサが考え直してくれて。ハリカ先生も言ってた。おちんちんは男にとって大事な局部で……」

「もうイイ! 判ったから、それ以上言わないで!」

 エリッサが慌ててマグナの言葉を遮った。

 これ以上、乙女として耐えられない。

 例え、マグナにその気が無くても……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ