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爆槍!アルス・マグナ  作者: 七緒木導
第四章 ガギーマ
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第60話

 だがその瞬間!

「ぎゃああああああああああああああああ!」

 けたたましい断末魔の叫び声。

 尼僧の腕を押さえていたベニズが突然、悲鳴を上げた。

 シシリーが茫然としながら目の前の相棒の顔を見る。

 そこには光の槍を胸に受け、弓反りに絶命していたベニズの姿があった。 

「!!」

 ベニズが胸に光の槍を受けたまま横倒しになった。

 仲間の変わり果てた姿を前にシシリーの欲情が一気に減衰した。

 逆に戦士としての防衛本能を一瞬で呼び覚ます。

 シシリーがスフィーリアから飛び退いていた。

 そして礼拝堂の片隅を凝視する。

 目に飛び込んで来たのは室内側の出入口に立つ人影だった。

 痩せた長身、瞬く間に炎に変わる黒い髪、手には新しい光の槍が握られていた。

「!!」

 その見覚えのある姿にシシリーの全身の身の毛がよだつ。

 奴だ! あの化け物だ! 奴がオラの目の前に居る!

 それは次の投擲に備えるマグナ・グライプの姿だった。

「けど、何で奴が!」

 奴は掃夫小屋で寝ているはずだ。

 礼拝堂に来る前、わざわざそれを確かめる為、一度、小屋の中を覗き込んだのだ。

 だが実際はここに居てオラを殺そうとしている。

「どうする?! 戦うか、逃げるか? 真面にやり合えば勝ち目はない。だがオラにはまだ奥の手がある!」

 シシリーはほんの僅かな時間の間に選択を迫られる。

 そして残っていた最後の吹き矢を口に当て戦う事に決めた。

 息を吹きかけた瞬間、細い筒から細い矢が飛び出した。

 矢はマグナに向かって真っ直ぐに飛ぶ。

 吹き矢の毒は特別性だった。

 即効性で効き目も最強、巨象ですら一瞬で即死させられる猛毒が塗ってあるのだ。

 だがマグナに毒矢の先端が届く瞬間、目の前を槍の光が遮る。

 毒矢は振り翳された光の槍に呆気なく弾き飛ばされた。

「うっ!」

 攻撃が失敗した事を悟ったシシリーが思わず呻いた。

 同時にシシリーの頭の中で同じ言葉が何度も繰り返される。

「逃げろ! 逃げろ! 逃げろ! 逃げろ!!」

 一方でマグナがシシリーとの間合いを瞬く間に詰める。

 そして光の槍を水平に振った。

 死にたくない!

 全身全霊を傾けた想いがシシリーの渾身を突き動かす。

 ガギーマの体が横に飛んだ。

 その想いが通じたのかマグナの大振りの一撃は奇跡的に回避された。

 しかし直ぐに光の槍は取って返してシシリーに襲い掛かった。

「ひいいいい!」

 シシリーが喉の奥から悲鳴を上げた。

 これは避けられない!

 シシリーの首が飛ぶ瞬間が訪れる。

 しかし……。

「いけませんわ! マグナ!」

 祭壇の方から叫び声が聞こえた。 

 それは今しがた目を覚ました尼僧の声だった。

 マグナが手にする槍はシシリーの首の真横で止まった。

 シシリーは寸でのところで命を拾う。

 スフィーリアの一言がシシリーの命を救ったのだ。

 だがそれは当然の事だ。

 スフィーリアは眠っていた為、前後の記憶が無い。

 目を覚ましたのはベニズの死に際の悲鳴が聞こえた為だ。

 覚醒した瞬間、最初に目に飛び込んで来たのは槍に貫かれたベニズの骸だった。

 その状況にスフィーリアは愕然とする。

 理解が状況に追い付かない。

 いつの間にか眠っていて、起きた時にはベニズが死んでいた。

 それでも反射的に周囲を見る。

 目にしたのは光の槍を握るマグナの姿だった。

 明らかにマグナは一人のガギーマに向かって殺意を剥き出しにしていた。

 だがスフィーリアにはシシリーは人類側のガギーマ「リデル・リンジャ」だという思い込みがあった。

 リデルはこちら側の人間だ。殺せば殺人罪に問われる。

 そうでなくても目の前の状況からマグナは既に人を一人殺していた。

「駄目! これ以上はいけません! お止めなさい、マグナ!」

 スフィーリアはマグナを止めようと叫び続けた。

 その叫びが届いた瞬間、シシリーは何とか今世に一命を繋ぎ留めた。

 シシリーが動きを止めたマグナの前から懸命に離れる。

 そして傍にあった礼拝堂の窓を蹴破って外へと脱出した。

 すぐに目の前で闇が広がる。

 その中をシシリーは死に物狂いで走った。

「失敗だ! また失敗だ! 全部、全部、奴のせいだ!」

 暗闇を走りながらシシリーは吐き捨てる。

 もう少しで、もう少しであの尼僧を自分の手で汚す事が出来たのに!

 怒りと悔しさが混ざり合い、憎しみで頭が一杯になる。

「殺す! 殺す! 殺す! 次こそは奴を殺す! そしてあの尼も次こそは……」

 シシリーは走りながら恨み節を吐き続けた。

 だが小川の橋に辿り着いたところでシシリーの足は止まった。

 目の前で闇夜を照らすいくつもの松明の光が彼の前で立ち塞がったのだ。

 シシリーは愕然としながら松明の前で立ち竦む。

「あいつだ! あのガギーマにやられたんだ!」

 松明の中から声が聞こえた。

 その直後、シシリーの胸板から凄まじい痛みが込み上げて来た

 気が付くと松明の中から放たれた数本の矢がシシリーの体を貫いていた。

「うがぁ……」

 シシリーが血反吐を吐きながら呻いた。

 次いで炎を見詰める視界が急にぼやけ暗くなる。

 そして薄れゆく意識の中で確信した。

「そうだ、あの最後に聞いたあの声は……森の中で殺したはずの……あの…………」

 最期の一言を口にする前にシシリーの体は物言わぬ骸に変わった。

 こうして汚れた魂を持つガギーマは敢え無く死に絶えた。

 それは奇しくも先日、仲間達がマグナによって殺されたのと同じ教会の前だった。


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