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爆槍!アルス・マグナ  作者: 七緒木導
第四章 ガギーマ
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第51話

 一方その頃、スフィーリア・ルシエッタは長くフワリとした砂色の髪を左手で掻き分けながら溜息を付いていた。

「なによ、大きな溜息なんかして。幸せが逃げちゃうわよ」

 それを横に居たパーティリーダーのエリッサ・ブンダドールが揶揄う様に窘める。

 しかしスフィーリアはエリッサの横顔を見るなり笑いもせずに言い返した。

「吐きたくなりますわ。またマグナを戦わせてしまったのですもの……」

 二人は今、フラム村の冒険者ギルドの前に立っていた。

 土手での戦いの後、二人は皆を連れて急いで教会に戻った。

 生憎、司祭は留守だったが、幸い姉妹の母親でもある教師のハリカ・エレが居てくれた。

 二人はハリカに小川であった事を全て話した。

 小川のグラーデは全て退治したがまだどこかに生き残りがいるかもしれない。

 そこで二人はハリカに向かって大事を取って学校に居る児童への集団下校を提案、ハリカもそれを受け入れた。

 スフィーリアとエリッサも集団下校に同行し、児童を全て自宅に送り届けた後、ハリカは村長の下と東の砦に、スフィーリアとエリッサは西の砦へと向かった。

 そして二人はその帰りの足で今度はギルド支店に赴き、支店長のハッタ・ソリンに同じ事を報告をした。

 今は報告を終え、支店から出た所だった。

 当のマグナは教会に残し、掃夫小屋で休ませている。

 これで事件は一応の決着を見たが二人の思いは互いに裏腹だ。

「別に良いじゃない。私達、勝ったんだから……」

「良くなんてありませんわ! もしかしたら死んでいたかも知れませんのに……」

 吞気なエリッサの態度に対してエリッサは悲観的だ。

 それはスフィーリアにはマグナに対して確固たる想いがあったからだ。

 そしてここぞとばかりにスフィーリアはマグナに対する自分の想いをエリッサに打ち明けた。

「私は……彼には戦いとは無関係な人生を送って貰いたいのです」

「戦いとは無関係? それって冒険者や兵士にさせないって事?」

「そう聞こえたのなら幸いですわ」

 スフィーリアは断言する。

 反面、エリッサは不思議そうに首をかしげた。

「何で?」

「何でって……。判りませんの?」

「判らないから聞いてるんじゃない」

「まったく……。ならば判る様に言わせて頂きますわ。まず彼は無垢です。とても清らかでまっ白。なのにその力は強大です。上位パーティの戦士にも負けない位」

「強大なら良い事じゃない。むしろ使わなければ宝の持ち腐れよ」

「それが心配なのです。きっと何時かは阿漕なやり方でお金儲けに利用しようとする輩に目を付けらると思いますわ。例えば……」

「例えば?」

「このまま下宿に帰って鏡を見てみなさいな」

「んまっ! 失礼ねぇ~」

 スフィーリアからの容赦ない物言いにエリッサがむくれる。

「アンタ、人を何だと思ってるの?」

「違いますの? 私はてっきりあなたが彼を地縛竜討伐の為の決戦兵器にでも仕立て上げようと画策しているのかと思っていましたのに……」

「ちょっと! 私だってそこまで悪党じゃ無いわよ! でも、言いたい事は判らなくも無いわね……」

 確かにスフィーリアの危惧が理解出来る。

 今のマグナには自分で考える知恵も無ければ決断する力も無い。

 ただ言われた事に従うか、眷属や危険を察知すると本能的に動く反射の様な感情だけだ。

 そんな彼が何も持たないまま戦いの世界に出ればどうなるか?

 間違いなく悪い大人の食い物にされ、身も心も擦り減らした末に悲惨な末路を迎えるはだろう。

 それをスフィーリアは恐れているのだ。

 ならば一層の事、彼には戦いとは無関係の人生を歩んで貰った方が幸せに違いない。

「ふむ、確かにあなたの考えも一理あるわよね……」

「なら考え直して下さる?」

「考え直すって?」

「彼のワイルドキャット団への入団の事。それともまだ六割のままですの?」

「いいえ! 六割なんてとんでもない! もう100%よ! 彼には絶対、私達のパーティに入って貰うわ。出来る事なら、いますぐにもで唾を付けておきたい位よ!」

 ここでエリッサも自分の本音を包み隠さず答えた。

 それどころか先ほどの小川の戦いでその思いは増々、確固な物となっていた。

「やっぱり、そうでしょうね……」

 それを聞いてスフィーリアはまた溜息を吐く。

 だがこれで決まりだ。マグナのこれからの所在について自分とエリッサは間違いなく対立する事になる。

 そして思ったよりも早く、その時が来てしまった。

「やっぱり私達と一緒でも嫌?」

 不満気な表情を浮かべるスフィーリアに向かってエリッサが聞き返す。

「当然ですわ。結局、彼を戦いの矢面に出す事になるのですもの。何度でも言いますが私は彼を冒険者にするつもりはありませんから」

 それにスフィーリアも本音で答える。

「けどね、スフィーリア……」

 そう言いかけてエリッサは途中で止めた。

 恐らくここで説得を試みても意見は平行線のはずだ。

 スフィーリアは決して自分の意見を曲げないだろう。

 だから別のアプローチを考える。

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