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爆槍!アルス・マグナ  作者: 七緒木導
第三章 緑乃原事件
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第43話

 だが、その直後の事だった。

 土手の向こう側の小川で凄まじい水煙が川沿いに走った。

水煙は明らかにこちらに向かって迫って来る。

「なに?!」

 姉妹が土手を見ながら声を上げた。

 子供でも判る様な明らかか異常事態。

「主よ、我を守り給え!」

 危険を察知したスフィーリアが再び障壁を張った。

 その時には既にエリッサも迎撃態勢の準備詠唱に入っていた。

 ラダールの索敵魔法の効果が残っていた為、スフィーリアよりも早く相手の気配に気付けていたからだ。

 土手の向こうからから感じる異様な気配。

 遅れて土手の向こうで盛大な水柱を上がった。

 更に気配は驚異的な跳躍を使って水柱から飛び出すと、目の前の土手を軽々と乗り越え、彼女達の前に着地した。

 眼前で太陽を遮る巨大な異塊の影、現れたのは巨大な一匹のカマドウマだ。

 しかも先ほどのグラーデとはまるで比較にならない凄まじい巨体だ。

「メガグラーデですって?!」

 スフィーリアが声を引き攣らせながら叫んだ。

 メガグラーデとはグラーデの突然変異種だ。

 しかも胴の長さだけでも3mを超える文字通りのおばけカマドウマだ。

「でもどうしてこんなデカ物が?。そうだわ、さっきの羽音だわ!」

 エリッサが気付いた。

 グラーデの翅の音の意味は威嚇だけではない。

 遠くに居る仲間を引き寄せる合図でもあった。

 最後の一匹が放った羽音が目の前のデカ物を引き寄せたのだ。

「火の精霊バームよ! 契約に基づき我に炎の槌を与え給え……フレイムキャノン!」

 メガグラーデを視認した途端、エリッサがより強力な攻撃魔法で先制した。

 しかしメガグラーデは長大な二本の後ろ脚に溜め込んでいた跳躍力を開放するとエリッサの攻撃が届くより先に回避した。

 そして跳躍力は二蹴り目で突進力に変換される。

 おばけカマドウマ狙いは眼前に居る姉妹とスフィーリアだ。

「皆、逃げて!」

 詠唱の途中でエリッサが思わず叫んだ。

 向こうの方が思った以上に動きが早い。二発目の詠唱が間に合わない。

 次の瞬間にはスフィーリアの障壁とメガグラーデの突進が真正面から衝突する。

 だがあの質量を受けた跳躍力を真面に浴びようものなら例え光の障壁でも只では済まないはずだ。

「くっ!」

 一方、眼前に迫り来る巨体を前にスフィーリアが歯を食いしばる。

 彼女は決死の覚悟で受け止めようとした。

 ブルザイの使徒として、冒険者として、背後の姉妹とマグナを守る為に、例え自分の張った障壁ごと圧し潰される事になっても、ここから引く気は無い。

 だがこの衝突でメガグラーデの巨体がスフィーリアの障壁に届く事は永遠になかった。

 ドスン! と、いう重い衝突音の後、眼前でメガグラーデの巨体が弾き飛んだ。

「えっ?!」

 その光景を前にスフィーリアとエリッサが同時に叫ぶ。

 何故ならメガグラーデが飛んだのと同時に後ろに居たはずのマグナの体も弾き飛んだからだ。

 メガグラーデの突進からスフィーリア達を救ったのはマグナの起こした体当たりだった。

 その僥倖に皆が息を飲む。

 エルツはメガグラーデの攻撃を目にするなり、その危険を察知するとスフィーリア達を守る為、誰の指図も受けず自分の意志で前に出て、そのままぶつかっていったのだ。

 マグナに弾かれたメガグラーデの巨魁が土手の向こうへと飛んでいく。

 しかしそれだけでは終わらない。

 弾き飛ばされたマグナは直ぐに体勢を整えると、その場から駆け出し、メガグラーデを追って土手の向こうへと消えていった。

「マグナー!」

 エリッサはマグナを追って土手の上を走った。

 それを見たスフィーリアも慌ててエリッサの後に続く。

 二人は揃って土手の上に立った。

 そして土手下に居るはずのマグナを懸命に探した。

「あそこだわ!」

 エリッサが土手下の小川の中を指差す。

 マグナは膝下まで川面に浸かりながら直立していた。

 そして川縁で待ち構えていたメガグラーデと対峙していた。

黒髪は既に赤く燃え、手にはあの光の槍「ガッツ・ランサー」が握られている。

 メガグラーデが川縁で跳ねたのと同時にマグナも水しぶきを上げながら水面を駆けた。

「エヤアアアアアアアアア!」

 本能の赴くままマグナの肢体が跳ねる。

 痩身から繰り出す光の槍とと巨大昆虫の巨塊が川面で交差した。

 しかもメガグラーデの武器はその巨体だけではない。

 全身には錐の様な鋭い棘が無数に伸びている、

 触れれば皮膚を裂き、筋肉を貫き、骨まで奥まで届く。

 果たして数本の棘がすれ違いざまにマグナの上半身に触れた。

 マグナの上着が引き裂かれ、同時に真っ赤な鮮血がほとばしる。

「キャアアアア!!」

 スフィーリアが思わず悲鳴を上げた。

 そして後悔する。

 マグナを怪我させたのは自分のせいだ。

 メガグラーデが襲来した時、障壁の展開に気を取られてマグナに対する配慮を怠ったのがその原因だ。

 それにこのまま彼が傷付き続ければ命に係わる。

「今すぐ助けないと……」

 スフィーリアはマグナを救う為、小川へと踏み出そうとする。

「ちょっと、待ちなさい!」

 だがそれをすぐに横に居たエリッサが止めた。

「なっ!……」

 なぜ止める。そうスフィーリアが言い掛けようとする。

 だがスフィーリアを止めた理由をエリッサは間髪入れず答えた。

「よく見なさい! マグナは全然、負けてなんてないわ!」

 そうエリッサが言い終えた途端、土手下の状況が急変する。

 マグナとすれ違ったメガグラーデの巨体が突然、バランスを崩し、横倒しになって小川の中で転がったのだ。

「やったわ!」

 土手の上でエリッサが飛び上がった。

 エリッサはその青い瞳で見ていた!

 マグナがすれ違い際、光の槍の穂先でメガグラーデの右後脚を切り飛ばした瞬間を!

 一方、最大の武器である跳躍力を失ったメガグラーデは小川の中で残った左後脚をばたつかせながら無様に悶え続けていた。

「流石! 一時はどうなるかと思ったけど……、やっぱり私の見込んだ男だわ!」

 マグナの戦いぶりにエリッサは歓喜した。

 今のマグナの気質は素直で従順、表向きはそう見える。

「でも実際は違う。マグナは動いた。目の前の脅威に対して即座に反応した。間違いなくあれは彼自身の意志よ!」

 やはり彼はその無垢な心の底に戦士としての闘争本能を秘めている。

 あのコモラ迷宮の最下層で見せた、地縛竜に対しても恐れずに挑む、向こう見ずな獣の様な野性の本性!

 そうだ。彼は神の使いだ。間違いなく冒険者としてなるべくして神が遣わせた、迷宮から来た少年なのだ。

「決めたわ! 私は絶対、マグナを仲間にする!」

 エリッサは嬉々と叫んだ。


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