第42話
「ふぅ、間一髪って所ね……」
エリッサが安堵の溜息を吐く。
「みんな、もう大丈夫よ」
エリッサが三人に戦闘終了を伝えた。
姉妹は耳を押さえていた手を下ろしながら安堵する。
「エリッサ! あなたって人は。本当に、もう!」
しかしエリッサに向かってスフィーリアが凄まじい剣幕で近付いた。
一方、エリッサは怒りを露わにする親友を前にしても涼しい顔だ。
「何を怒ってるの? 私の大活躍でこちら側の完全勝利だってのに……」
エリッサが惚けてみせる。
「あなたあの時、ワザと転びましたわよね! マグナを戦わせる為に!」
「何よ、人聞きの悪い。そんな事する訳……」
しかし睨みつけるスフィーリアを見て態度を改めた。
「そうよ。マグナに戦わせてみたかったの」
「なぜそんな事を?!」
「勿論、彼の戦う所をもっと間近で見たかったからよ。冒険者としての適正を調べる為にね。でも結局……」
「冗談は止めて下さいまし! ここにはレイジーとスイミーも居ますのよ! そんな悪ふざけをして、この子達にもしもの事があったらどうしましたの?!」
「それは……」
そう言われてはエリッサも立つ瀬がない。
「悪かったわよ。ちょっと魔が差しただけよ。レイジー、スイミー、ごめんね。もうこんな事はしないわ。……これで良いでしょ」
結局、エリッサは何も言い返せず謝るしか無かった。
「全く、もう!」
だがスフィーリアの腹の虫は収まらない。
レイジーとスイミーを悪ふざけに巻き込もうとした事は論外だ。
同時にマグナまでも戦わせようとした事が気に食わない。
「もう、迂闊にエリッサを彼に近寄らせられませんわね……」
ならばここではっきりとエリッサに自分の意思表示をするべきだ。
「エリッサ、先ほど言いかけた事ですが……」
「先ほどの事? 何の事だったかしら?」
「マグナが冒険者になるか否かの話です」
「ああ、あの事ね。けどそれって今、話す事?」
「むしろ先ほどのあなたの態度で今すぐ伝えるべきだと気付きました」
「判ったわ。それで? アンタはどうなの?」
「私は反対致します! マグナが冒険者になる事は私が許しません!」
「……理由は?」
「ここで長々と話す気はありません。理由は教会でゆっくりお話ししますわ」
「あ、そう……」
スフィーリアに言いたい様に言われ、エリッサは詰まらなそうにつぶやく。
だがこれでエリッサにもスフィーリアの意志は伝わった。
同時に覚悟も出来た。
この後、何かにつけマグナの件でスフィーリアと喧嘩する事になるだろう。
だがエリッサも負ける気はしない。
何故ならスフィーリアには現実が見えていない。
「ところでスフィーリア、ひとつだけ教えて。その事でマグナの気持ちを確かめた事はあるの?」
「そんな事が出来る訳、ありませんわ。マグナの今の心はまっ白。自分の意志が全くありませんもの」
「でしょうね。だったら本人が戦うって言うのなら、あなたも止めようがないって事よね」
そうエリッサが意味ありげに言った。
それに対してスフィーリアがフンッと鼻を鳴らして言った。
「そんな事、あり得ませんわ! なぜなら私が彼を戦わない人生を送れる様に導きますもの!」
「ふ~ん、導くねぇ……。そう、簡単に問屋が卸してくれるかしら」
「それってどういう意味ですの?」
そんなエリッサの物言いを前にスフィーリアが顔をしかめる。




