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爆槍!アルス・マグナ  作者: 七緒木導
第三章 緑乃原事件
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第38話

 そして運命の依頼最終日。今日は揃って同じ畑の前に現れた。

 しかし昨日の様にいきなり畑の中で網を振るう事はしない。

「では昨晩の打ち合わせ通りにお願いしますわ」

「ええ、まかせといて」

 そう示し合わせると二人はまず土ウサギが根城にしている隣の丘の上に向かった。

 そして二人揃って丘の頂上に立つと周囲を眺めた。

 丘の上には最初に見た時の変わらず土ウサギの開けた穴が無数に開いていた。

 しかし目当ての土ウサギの姿は見えない。

 二人が丘の上に近付いた事で巣穴の奥に隠れてしまったのだ。

 これでは目当ての土ウサギの捕獲は出来ない。

 だが二人は特に気にする事も無く、その場に立ち尽くすとまず初めにスフィーリアが呪文を唱えた。

 詠唱後、広大な半円状の光の壁が生まれ丘の上全体を包み込んだ。

 二人も壁の中に居た。だが壁は司祭が村の戦闘の際に張った物と比べて遥かに薄く頼りないものだった。

「準備完了ですわ。これでも一時間程度は継続するはずです」

「上等。じゃあ作戦の第二段階に行きますか。見てなさい、土ネズミ共!」

 スフィーリアの合図にエリッサが答える。

 彼女はその場で片膝を突くと両掌を地面に当て、呪文を唱えた。

「土の精霊ドグラよ、我が声に答えたまえ……。プレス!」

 エリッサが詠唱を終えた途端、ドスンッと、重い地響きが丘の下から轟いた。

 同時に足元が20㎝ほど沈下し、周囲の穴から濃い土煙が噴き出す。

 その直後、穴の中に居た土ウサギたちが飛び出した。

 土ウサギ達は慌てている様子で右往左往しながら丘の上を走り回る。

 しかしスフィーリアが張った光の壁に行き着くと、光に触れた途端、内側へと弾き飛ばされた。

 そこへ待ち構えていた二人の捕獲網が襲い掛かる。

 哀れ、土ウサギは頭から網に掬い取られ、後は網の中でジタバタともがくだけで何も出来ない。

 網の中の土ウサギを眺めながら二人は手を叩き合う。

「ふふん、一丁上がり!」

「やりましたわね!」

作戦が的中した事に二人はご満悦だ。

 昨晩、食事の最中に二人は徹底的に仕事の事で話し合った。

 まず最初にしたのが二日間での仕事の反省だ。

 何が駄目だったのか? 第一に自分達が魔法使いでありながら魔法を封じられていた事だった。

 魔法禁止は依頼内容の契約によるもので仕方のない事だったがこれではお互い、自分の持ち味を出すことが出来ない。

 だがら二人は契約内容の確認と現場の状況をもう一度確かめた。

 そしてある事に気付く。

 確かに畑の中では魔法は使えない。

 しかし土ネズミの巣がある丘の上はどうだろう。

 あそこは誰の物でもない空き地で畑の外にある。

 それは見方を変えれば丘の上では魔法は使い放題という事だ。

 ここまで決まれば後は簡単だ。

 まずスフィーリアが光の結界魔法で丘を包み込み、中の土ネズミを逃げられない様に栓をする。後はエリッサが土魔法で上から土ウサギの巣穴を踏みつぶせば良いだけだ。

 エリッサが魔法を発動させた途端、巣穴に隠れていた土ウサギの大半が沈下と共に圧し潰されるか生き埋めにされ窒息した。

 後は巣穴から飛び出した生き残りを捕まえるだけだが、既にスフィーリアの結界魔法が展開されている。

 土ネズミ達は既に逃げ場を失っている。それにここはブドウ畑の外だ。

 こちらも周りを気にせず好きなように走り回る事も戦う事も出来る。

 その後、二人は次々と害獣を捕獲していった。

 二人とも先日とは別人の様に動きが違う。

 そして何より二人とも相棒に絶大な信頼を寄せていた。

「こっちが失敗しても……」

「彼女が必ずフォローして下さいますわ」

 二人は互いを信じ合う。

 それもほとんど無意識のうちに。

 昨日とはまるで違う、完璧なチームワーク。その流れる様な二人の動きを前に生き残りのバミーラビット達は為す術も無く翻弄されていった。

 そして一匹、また一匹と逃げ場を失い、網の中へと追い込まれていった。

 そんな依頼最終日。

「エリッサ、そちらに行きましたわ! それが最後の一匹ですわ!」

「判ってるわ、そーれ!」

 エリッサの網が最後の一匹を掬いとる。

 二人は期限ギリギリで全てのバミーラビットを捕まえる事に成功した。

「ザイーナ! ザイーナ! ビバ、ザイーナ!」

 火の傾いた夕暮れ時、土ウサギの居なくなった畑の真ん中でエリッサとスフィーリアは二人だけで勝鬨を上げた。

 もう二人の中に、初日に見せた相手に対する不信感は微塵も無かった。


 こうして二人はギルドと依頼主に対して冒険者としての初仕事の完遂を報告した。

 審査の後、依頼料を受け取り、意気揚々と、街の酒場に繰り出すと二人はその日の達成感に満たされたまま、胸に秘めた想いを互いに打ち明けた。

「このまま私達、パーティを組んで冒険に繰り出さない?」

 最初に切り出したのはエリッサだった。

「勿論、構いませんわ。私もそう考えていましたの」

 スフィーリアも彼女の意見に即決する。

「ではよろしくお願いしますわ、エリッサ」

「こちらこそ、よろしく。スフィーリア」

 この瞬間、ワイルドキャット団の結成と相成った。

 パーティー名を名付けたのはエリッサだった。

 元ネタは今回の仕事の依頼主が今後、バミーラビットの駆除用に飼うと言っていた猟猫の種類で、二人が初心を忘れる事の無い様にと戒めも込めたものだった。

 それ以来、二人は親友でありパーティのパートナーとして行動を共にしている。

 時折、喧嘩を繰り返しながら……。

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