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爆槍!アルス・マグナ  作者: 七緒木導
第三章 緑乃原事件
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第37話

 その依頼二日目。

 二人は別々に昨日と同じ畑へとやってきた。

「悪いけど、昨日みたいな邪魔したら、今度こそは許さないんだから!」

「それはこちらの台詞ですわ!」

 それがその日の仕事始めの挨拶代わりとなった。

 二人はまた別々に畑の中を走り回りバミーラビットの丸い尻尾を追い駆けていった。

「まっ、待てぇぇぇ!」

「お待ちなさい!」

 二人は懲りる事無く今朝も手に持った捕獲網を振るう。

 だがやり方が同じでは当然、昨日と同じ様に土ウサギが網の中に収まる事はない。

 疲れるばかりで成果の無いまま時が正午に差し掛かると、流石に二人も焦り出す。

 このままではいけない。

 既に作業時間の半分を費やしたにもかかわらず一匹も捕まえることが出来ない。

 危機感を覚えた二人は自身の気持ちを諫める。

 冷静になれ。自分達はここに喧嘩をしに来た訳ではない。依頼を達成する為に網を振るうのだ。

 だがバミーラビットの動きは素早い。その上、頭は回りズル賢い。かわいい顔をしながらこんなに手を焼く相手だとは思っても見なかった。

 当初の見通しは甘すぎた。

 到底、一人での依頼達成は不可能……。

 そうなれば残された答えは一つ。

「いけ好かない奴だけど……」

「今日くらいは相手に合わせて動くしかありませんわね……」

 自然と二人の考えが一つにまとまる。

「ちょっと、アンタ。私が追い回すから、畑の隅で待ち構えていなさい」

「あなたこそ、走り過ぎてバテるのではありません事よ。それに私の名前はアンタではありません。スフィーリア・ルシエッタという御名があるのですからそう呼んでください」

「私だってエリッサ・ブンダドールっていう立派な名前があるんだから、そう呼びなさいよね!」

 二人は遅ればせながら自己紹介を済ませると改めてバミーラビットを追いかけた。

 今度は即席のパーティとしての共同体だ。

 だが協力し合ってみたものの、結局、息の合った連携は取れず、二人はまたバミーラビットを取り逃がす。

 だが今度は無闇に怒って相手を貶したり、失敗を押し付ける様な事はしなかった。

「……」

 逆に二人とも黙り込み、根気良くパートナーの動きを見ながら獲物を追い続ける。

 我慢、ひたすら我慢。

 代わりに獲物とバディの動きに集中する。

 するとその甲斐あって二人の動きに変化が訪れた。

 次第に獲物を追い詰めるコツを飲み込み始め、捕獲網の先端が何度もバミーラビットの身体に触れ始めたのだ。

 そしてお互いがある事に気付く。

「この僧侶、意外に動けるじゃない……」

「彼女、口ばかりと思ってましたけど、私について来れてますわ……」

 観察すれば相手の動きがそれほど悪くない事に気付く。

「これなら、案外いけるかも……」

 無意識の内に二人の中で相手の力を認め合う心が徐々に積み上がっていく。

 そしてそれが双方の信用と信頼に繋がっていった。

 やがて作業開始から二日目が終わろうとしていた夕暮れ時、ようやく最初の一匹目を捕獲した。

「やったわ!」

「やりましたわ!」

 網に掬われた獲物を前にしながら二人は揃って歓喜の声を上げた。

 初めて捕らえた最初の一匹、それは冒険者としての小さな、そして確実な一歩だった。

 だがそれ以上に重要だった事は二人の間にわだかまっていた不信感が綺麗に払拭されていた事だ。

 最初の一匹目を捕まえた高揚感は二日目の作業を終えた後も続いた。

 いがみ合っていたはずの二人の心はいつの間にかすっかり打ち解け合い、その日の夕食と宿までも共にした。

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