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爆槍!アルス・マグナ  作者: 七緒木導
第三章 緑乃原事件
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第34話

 エリッサとスフィーリアも花輪造りを始めた。

 材料となる花の付いた茎を二人で集める。

 姉妹もいつの間にか四つ葉のクローバー集めに再び戻っていた。

 だが花集めの最中、不意にスフィーリアがマグナの方を見て、思わず笑った。

「まあ、マグナったら!」

「どうしたの?」

 不思議に思ったエリッサもマグナの方を見る。

「あれれ!」

 エリッサも思わず声を上げた。

 何故なら、マグナが四つ葉集めもせず土手の上を小走りに走り回って居たのだ。

 そしてカエルの様に跳ぶと草の上に両手を突き、すぐに立ち上がった。

「あれって何の真似?」

「恐らく、草の上のバッタでも見つけて真似をしてるのですわ」

「なるほど、クローバーから虫に気持ちが移っちゃったのね」

 マグナの様子が可笑しくてエリッサが笑う。

「ですが、随分と気の早い変わり様ですわ。あんなに堪え性がないなんて……」

「仕方ないわよ、男の子だもん。草や花より動くモノに興味が沸くのよ」

「なら花輪は四つ葉抜きになりそうですわね」

 そう言いながら二人は肩を竦めた。

 だが別にマグナの興味がクローバーから虫に変わったとしても二人は咎める気はない。

 子供の様な思考のマグナが他の物に興味が向くのは寧ろ正常な状態だ。

 もしろこちらが言った事以外に関心が向かない方が逆に心配になる。

 暫くしてマグナが戻って来た。

「どうでしたの? 面白い虫は居ました?」

 スフィーリアが一応、訊ねてみる。

「むし? なにそれ?」

 マグナが判らないとばかりに聞き返す。

 そしてスフィーリアの前に両掌をゆっくりと突き出した。

 だが次の瞬間、エリッサとスフィーリアはマグナの両掌の上に乗った物を見て仰天した。

 それは両手いっぱいに盛られた四つ葉のクローバーだった。

「えええええぇーー!!」

 二人が揃って声を上げた。

 四つ葉が幸福のシンボルと言われているのはその希少性の為で、一説には三つ葉の中から見つかる割合は五千枚に一枚とも一万枚に一枚とも言われている。

 にもかかわらずマグナの手の中には百に届きそうな数の四つ葉のクローバーで溢れ返っていた。

「……」

 二人は息を止めて目の前の四つ葉の山を見詰める。

 そして先ほどの目にした光景を振り返った。

 確かにマグナは土手の周囲をカエルの様に飛び跳ねていた。

 二人はそれを虫でも追いかけているかと思っていたがそうではない。

 マグナは凄まじい数の三つ葉の中から的確に四つ葉だけを見つけ出すと、後は目標に目掛けて飛び跳ねながら回収していたのだ。

「うそ……。信じられない」

 エリッサが集められた四つ葉の一枚を摘まみながらつぶやく。

 だが事実だ。目の前の実物にウソ偽りはない。

 そして気付く。マグナには並外れた視力に支えられた集中力と観察力が備えられている。

 故にこの短時間でこれだけの量の四つ葉のクローバーを集める事が出来たのだ。

「これは、やっぱり逸材ね……」

 驚きから一転、エリッサの胸が弾む。

 マグナと初めて出会った時から、エリッサの中には彼に対する並々ならぬ興味があった。

 当然だ。生身で地縛竜と対峙出来る光の槍とそれを支える強靭な体力と回復力、それを目の当たりにしたのだ。

 だが彼の武器はそれだけではない。内に秘めた感覚器官と精神力も一級品……。否、破格の特級品だ!

 一方、大量の四つ葉を前にスフィーリアは母親の様にマグナを褒め称えた。

「まあ、いっぱい集めてきてくれましたわね、マグナ。偉いですわ」

 スフィーリアにとってマグナの感覚能力はそれほど重要では無かった。

 それよりも彼がクローバ集めをさぼっていなかった事の方がより大切だった。

 彼が真摯にこちらの言い付けを守ってくれた。

 真面目に働いてくれた。

 その事実の方がスフィーリアには嬉しかった。

「では早速、花冠を作りましょう。レイジー、スイミー、あなた達もこちらに……」 

 スフィーリアが姉妹を呼び寄せる。

 二人はまだ一枚も四つ葉を見つける事が出来ていなかった。

 しかしマグナが集めて来た分を見た途端、年長者達と同じ様に仰天した。

「ええええええ~! 凄い! 凄いよマグナ!」

「凄いよね、マグナ! 四つ葉でいっぱいだよ!」

 二人とも両手いっぱいの四つ葉を前に大騒ぎだ。

 やがて四人の女の子は草の絨毯の上に腰を下ろすと、輪になって白詰草の花冠を編み始めた。

「ねえ、だったらこの際、どれだけ大きな花輪が出来るが試しましょうよ」

「そうですわね。そちらの方が面白そうですし」

「賛成~」

 エリッサの提案に三人が頷くと、花冠造りは大輪の花輪造りへと変更になった。

 後はひたすら白く丸い花の付いた白詰草の茎を重ね合わせながら輪を編み込んでいく。

 姉妹に比べエリッサとスフィーリアの手つきは手慣れた物だった。姉妹の倍のスピードで白い花冠を次々と編んでいく。

「お姉ちゃん達、早いよ~」

 その指捌きにスイミーが驚嘆する。

「ふふん~。職人級の腕前よ」

「年の功という奴ですわね」

「ちょっと! 私だけオバサンにしないでくれる!」

 スフィーリアの揶揄にエリッサが噛み付く。

 だがそれだけに二人の年長者の腕前は見事なものだった。

 花摘みは女の子の嗜みと言えば聞こえは良いが実際は違う。

 彼女達は冒険者だ。

 植物の蔓等を使った各種編み込みの技術は冒険の上で何かと役に立つ技術だった。

 救護用や登頂用のロープの作成に野営設備の補強具、狩猟用の道具に罠の作成と単純な運搬道具。使い道は多岐に渡った。

 むしろ植物によるロープワークは冒険者必須の技術と言って良い。

「……」

 一方、マグナの興味は花輪造りの方には向いて居なかった。

 代わりにエリッサとスフィーリアの顔を何度も交互に眺めてみせる。

 そしてそれが済むと今度はレイジーとスイミーの顔を眺めていた。

「どうかいたしまして、マグナ?」

「女の子の顔をジロジロ見るのは失礼だぞ」

 マグナの行動を二人が不審に思う。

 マグナの好奇心は子供の様に気まぐれだ。

 花ではなく別の何かに興味が沸いたのか。

 すると暫くしてマグナは四人の顔を眺めながら言った。

「レイジーとスイミーは姉妹。スフィーリアとエリッサも姉妹?」

 その一言を聞いて年長組の二人は思わず噴き出した。

 そしてマグナが何に疑問を持ったのか理解する。

「違う、違う。そうじゃないわ、マグナ」

「そうですわ、私達が姉妹だなんて……」

 二人は笑いながら否定した。

 どうやらマグナは女の子の二人組を見ればそれが姉妹だという、変な勘違いをしている様だった。

「私達は姉妹ではありません。他人同士ですわ」

「そうよ、血なんか繋がってないわよ。まあ、仲間同士ではあるけどね」

「仲間?」

「最も、腐れ縁と言った所かしら」

「腐れ……縁?」

「甚だ遺憾ではありますけど」

 二人は明け透けに笑い合う。


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