第23話
教会が危機を乗り越えた頃、三年ぶりの西の砦の戦いも既に終盤に差し掛かろうとしていた。
人類側の戦力は約300人。西の砦の守備隊と16組の冒険者パーティ、そして50人ほどからなる個人冒険者から成っていた。
そんな彼等の健闘により防衛戦は人類側の勝利で終わりを迎えようとしていた。
一方の地縛竜側は既に眷属の大半が殺されるか逃亡していた。
残る敵は総大将たる火焔竜ただ一匹となっていた。
15mを超える四本足の巨体に背中にはまだら模様の三枚のヒレ。そして塞がってはいたが背中の刺傷と腹の爆発痕。やはりコモラ迷宮から脱出したあの若い地縛竜だった。
火焔竜は大顎を限界まで開くと喉の奥から火焔を吐いた。
凄まじい超高温。エリッサの炎の精霊魔法などまるで比べ物にならない火炎流だ。
それを真正面から浴びたパーティの一つが7人全員、焼き殺された。
やはり若い未熟な個体でも地縛竜は生態系の頂点であり、その力の前では人間個人の能力など儚いものでしかない。
だがその微力を結集して冒険者達は目の前の巨悪に立ち向かう。
村と自分の家族を守る為、屠龍の称号を得る名誉の為、ギルドから送られる多額の賞金を得る為、そして自らの闘争本能を満たす為に戦い抜く。
そしてその中にはワイルドキャット団の人狼剣士、ハン・ロウディの姿もあった。
「そうりゃあああああ!」
宙に舞ったロウディが二本の短刀で地縛竜の喉元に襲い掛かる。
蛇の様な長大な首の一部を短刀が見事に切り裂いた。
「グヲオオオオオオー!!!」
痛みに耐えかねた火焔竜が吠える。
しかも地縛竜の体に傷を負わせたのはロウディだけではない。
地縛竜を攻撃する前衛が次々と波状攻撃を仕掛ける。
無論、前衛からの攻撃だけではない。
後衛の精霊遣いからの攻撃魔法も弓兵からの弓矢の雨も、果ては砦に設置されている大弓から発射された長大な矢や投石機から放たれた岩塊までもがたった一匹の地縛竜に目掛けて凄まじい集中攻撃が浴びせっれた。
お陰で地縛竜は満身創痍、全身がズタズタに切り裂かれていた。
それでもまだ致命傷には至っていない。
まさに生物界の頂点に君臨する無敵の獣王。
その呼び名にふさわしい防御力と耐久力。
反面、地縛竜の攻撃も既に限界に達していた。
既に幾度となく火焔竜が火焔を浴びせても砦の城壁が破られる気配は無い。
なのに眷属は既に全滅させられ、自身の身体の生傷も絶えない。
ここが潮時だ。
火焔竜は最後の炎の一吹きを済ませると背を向けてハルトーネの森の奥へと撤退した。
その光景を前に砦の守備隊は勝利を確信した。
人類側は傷付きながらも地縛竜の攻撃を防ぎ切ったのだ。
「ビバ! ザイーナ!」
砦の各所で勝鬨が上がった。同時に勝利の恵みを神に捧げる。
「ザイーナ! ザイーナ! ザイーナ! ザイーナ! ザイーナ! ザイーナ!!」
勝鬨は瞬く間に伝播し砦全体を包み込んだ。
「ザイーナ! ザイーナ! ザイーナ! ザイーナ! ザイーナ! ビバ、ザイーナ!」
当然、ロウディもその勝鬨の中に加わる。
そして皆と共に勝利を分かち合った。




