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爆槍!アルス・マグナ  作者: 七緒木導
第二章 怒りの爆槍
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第21話

 やがてガギーマの放った松明の一部が咲き誇る土手の桜に命中した。

 無数の花びらは一瞬で燃え、凄まじい桜火となって渦巻いていた。

 もはや止める事は出来ない。

 燃えながら散っていく花びらが地上に落ちる前に灰になる。

 この火炎の桜吹雪が美しいと呼ぶ者が居たのなら、それは人の心を失った嗜虐者だけのはずだ。

 一方、ブロタウロの猛烈な突進を浴びた教会の大扉が音を立てて外れた。

 そんな時、扉の向こうから人影が現れた。

 人影は背が高く痩身で浅黒い肌の持ち主だった。

 スフィーリアの浅葱色の瞳が偶然、人影の碧の瞳と重なり合う。

 人影の正体はあの迷宮から来た少年だった。

 少年の顔を目の当たりにした瞬間、スフィーリアは正気を取り戻す。

「何を……していますの! 早く、早くお逃げなさい!」

 自分に迫る危機よりも尼僧として彼の身を心配した。

 その瞬間、彼女の背後に居たガギーマが「黙れ」とばかりに後頭部を抑え付け地面に擦り付ける。

「うっ!」

 美しい面差しと長い砂色の髪が再び土に塗れる。

 一方、少年は目の前の惨状を目の当たりにしても白痴の様にただぼんやりと立ち尽くしていた。

 彼の姿がスフィーリアの傍に立っていた一人のガギーマの目に止まった

 奴は先ほどスフィーリアに杖を投げ付けられたあのガギーマだ。

 ガギーマは懐から小さな筒を取り出すと強く息を吹きかけた。

 筒は吹き矢で中から小さな矢が飛び出した。

 矢は少年の右腕に当たり、血を流させた。

 傷付いた少年を見てガギーマ達が嘲る。

 しかし少年は腕を傷付けられたにも係わらず、何事も無かった様に遠くを見詰めていた。

 少年の瞳の中に目の前の光景が映る。

 火炎渦巻く桜並木、逃げ遅れ絶望に慄く人々、泣き叫ぶ顔、顔、顔……、そして凌辱の時が刻一刻と迫るスフィーリアの苦し気な表情。

 なのにそれとは真逆に周囲に立ち込めるガギーマ達が放つ邪悪な瘴気。

 膨張し反発し合う痛哭と邪気、その凄まじい負の感情を浴びせられた瞬間、少年の中で何かが突き動かされた。

 炎、恐怖、絶望、嘆き、乾き、涙……。

 そして徐々に右腕から湧き上がる吹き矢の痛み。

 それらが渦巻き、少年の中で一つの感情が生まれた。

 今の少年には言語は無い。記憶も無い。

 故に彼はその気持ちを明確な言葉で現す事は出来ない。

 だが確実に一つの衝動が芽生える。

 それは災厄の中の理不尽に対する怒りの心。

「憤怒」の感情だった。

 感情が体内を駆け巡り、赤い血を沸騰させた。

 体感が目覚め、少年の髪が深紅と金色に燃え上がった。

 怒りの炎は全身に力を漲らせ、腕に刺さった吹き矢を筋肉で弾き飛ばすと、目の前に居たスフィーリアに向かって走らせた。

 その間にも背後のガキーマの指がスフィーリアの下半身にも延び、彼女を身に纏っている物、全てを剥ぎ取ろうとする。

 だが凌辱劇の次幕が上がる前に少年は尼僧を取り囲むガギーマの集団と衝突した。

 衝突は強い衝撃となって周囲に居た数人のガギーマを弾き飛ばした。

「うぎゃあああああああ」

 ガギーマの幾人かが声を上げる。

 だがその時、既に少年の右の掌が一人のガギーマの頭蓋を鷲掴みにしていた。

 奴は先ほどまでスフィーリアに馬乗りになり、誰よりも懸命に彼女の衣服を引き剥がそうとした凌辱者だった。

「グギャルルッ!」

 だが今は一転、少年の片腕だけで宙摺りにされ必死の形相で藻掻く。

 ブジュー!

 少年の掌に凄まじい力が込められた直後、宙摺りの頭蓋から鈍い音が聞こえた。

 それは汚らしい思考の詰まった頭蓋から、血で染まった内容物が飛び散った音だった。

 硬いはずの小鬼の頭蓋が少年の指先の力だけで握り潰されたのだ。

 それはまるで熟れた果実を砕く様な、一瞬の出来事だった。

 最初のガギーマが少年によって血祭りに上げられた。

 周囲のガギーマ達も余りにも突然の事で目の前の状況が呑み込めず唖然としていた。

 だが少年からの攻撃はそこからが本番だった。

 燃え盛る桜並木の木の下で、今度は傍にいたガギーマの顔面を無造作に横殴りにした。

 先ほどまでそのガギーマはスフィーリアの右脚を羽交い絞めにしていた奴だった。

 こいつも即死だった。叫び声を上げる間も無く顔面の骨が粉砕された。

 更に少年はその場で体を捻る。

 回し蹴りが背後に立っていた小鬼に向かって飛んだ。

 蹴りを受けたガギーマの背骨と内臓が同時に破壊されゴミクズの様に飛ばされた。

 物言わぬ骸が三つに増えた。

 だが少年の攻撃は衰える事を知らずその後も続いた

 まるで固い鈍器による殴打の様な一方的な攻撃。それにガギーマ達は為す術も無く次々と惨殺され、自らの行いに相応しい最期を迎えていった。

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