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爆槍!アルス・マグナ  作者: 七緒木導
第二章 怒りの爆槍
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第19話

 スフィーリアは愛用の魔法の杖を持ち出すと司祭と共に教会の外へと向かった。

 外に出ると二人は満開に咲き誇る堤防の上の桜並木には目もくれず、村を南北に流れる小川の橋の上に立った。

 既に冒険者街では煙が立ち昇っていた。

「司祭様、街が燃えています!」

「これは大変な事になりましたね」

 しかしそれは半鐘が鳴った段階で大方予想していた事だ。

 問題はこれから冒険者街の方から大勢の避難民がこの小さな橋に向かって押し寄せて来る事だ。

 避難民の安全を速やかに確保しなければならない。

「これから橋の上で防衛戦を築きます。スフィーリア、あなたは避難民の誘導をお願いします」

 司祭はスフィーリアにそう告げると、自らは一冊の聖典を胸に抱きながら魔法の呪文を唱えた。

「主よ、我の前に鉄壁の城壁を……ハイ・ウォール」

 詠唱を終えると司祭の目の前に村を囲む版築土塀の城塞よりも更に高い半透明の光の壁が立ち塞がった。

 壁は教会の前にある堤防に沿って南北へと延々と伸び、フラム村の城塞の内側にまで到達した。

 光の壁は司祭が発動させた神聖魔法による防御障壁だった。

 神聖魔法とは唯一神ザイーナの加護によって生み出される奇跡だった。

 エリッサが使う精霊魔法とは全く別系統の魔法で主にブルザイ教の僧侶達によって行使させられる。

 そして三年前の攻防戦でも司祭は同じ様にここで障壁を展開した。

 障壁の防御力は凄まじく、押し寄せて来た眷属の戦士達の攻撃を全て跳ね返し、東の村への侵入を防ぎ切ったのだ。

 無論、村を横断出来るほどの魔法の障壁が作れる力は尋常ではない。

 それはこの司祭が非凡なる術師である証でもあった。

 暫くして冒険者街からこちらに向かって避難民達が押し寄せて来た。

 スフィーリアは光の壁に向かって飛び込んだ。

 彼女の体は光の壁を素通りし小川を流れる橋の向こうに辿り着いた。

 スフィーリアは橋の上で杖を高々と掲げると神聖魔法を唱えた。

「主よ、迷える人々を導く道標の光を!」

 呪文を唱えた途端、杖の先端の銀色の宝珠が赤い光を放ち、逃げて来る避難民達の目印となる。

「皆さん! そのままこちらに向かって東の砦の方へと走り抜けて下さい! 壁は主のご加護で皆さんと眷属を選り分け、素通りが出来ます!」

 壁の外側でスフィーリアが輝く杖を振りながら叫んだ。

 避難民達はスフィーリアの指示通り、掲げられた光を目印に壁に向かって駆け込んで来でいく。

 彼等の体はスフィーリアと同じ様に光の壁をすり抜け、そのまま東へと逃げていった。

 避難民の誘導は順調に進んだ。

 中には負傷者も居たが村人達が手分けして運び込んでくる。

「何とか間に合いましたね。このまま皆、無事に避難できれば良いのですが……」

 避難民達の流れを見ながら司祭は少しばかり安堵する。

 だが暫くしてそんな悠長な事も言ってられなくなった。

 地響きを立てながら冒険者街の方から何かが走って来る。

 それはエリッサ達が討ち漏らしたあのブルタウロだった。

 ブルタウロは周囲に居た避難民を蹴散らしながらこちらに向かって真っ直ぐに突っ込んで来た。

「危ない、尼僧様!」

「スフィーリア、早くこちらに!」

 避難民達と司祭の声が同時に聞こえた。

 猛牛は既に橋の傍にまで迫っていた。

 だがその猛牛の前に一人の避難民が居た。

 それはスフィーリアと同世代の茶色い髪の少女だった。

 彼女は東の村に住むメリーナと言う名の少女でスフィーリアもよく知る娘だった。

 少女は背後の脅威から逃れようと懸命に走る。

「メリーナ、早く!」

 スフィーリアが少女に向かって叫んだ。

 だがブロタウロの猛進にメリーナの足が間に合わない。

「メリーナ、手を伸ばして!」

 このままではメリーナが押しつぶされる。スフィーリアがもう一度、叫んだ。

「スフィーリア先生!」

 メリーナも咄嗟に手を伸ばすと互いの手を掴み合う。

「アローラ!」

 スフィーリアが事前詠唱無しに呪文を唱えた。

 その瞬間、スフィーリアが握っていた杖の先端の宝玉が赤色から銀色に変わり、強く輝き出した。

 二人の体は銀色の光に包まれ、間近にまで迫ったブロタウロの前から一瞬で消えた。

 その直後、二人が消えた10mほど後方、橋を越えた光の壁の内側に銀光の球が現れ、その中からスフィーリアとメリーナの体が出現した。

 スフィーリアが使った魔法はアローラと呼ばれる瞬間移動の奇跡だった。

 彼女の力でなら無詠唱でも10mほどの距離を一瞬で移動できる。

 無論、スフィーリアの非凡な才能によって成す事が可能な技でエリッサからも「逆立ちしたって真似できない」と言わしめた高等魔法だった。


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