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6話

タイトルがしっくり来なかったため変更しました。




「お祖父様お祖母様、こんにちは。

 あの…朝は断ってしまってすみませんでした」

「おぉ、マリアベル。気にする事はない、急に環境が変わったのだ」

「えぇそうよ。慣れないうちに無理をするものではないわ」


今度こそ一緒に食事を摂る為マリアベルがダイニングに入ると、既にグラウスもフェミアも席についていた。挨拶もそこそこにアンジーが引いた椅子に座れば昼食の皿が運ばれてくる。


「焼き菓子は口にあったかな?」

「はい、とても美味しかったです。まだ少ししか食べていないので、午後のおやつの時間にもいただきます」

「そうかそうか、料理人も喜ぶだろう。

 最近はフェミアが体型維持だのなんだので自慢の菓子を作れないと嘆いていたからな」

「…あなた?」


冗談に笑い合う和やかな雰囲気は緊張や食事のマナーへの不安を徐々に払拭していく。

シェフ自慢の一皿だと勧められた大きなハンバーグは柔らかい挽肉の中に肉汁と合わさった風味豊かなトマトソースとミルクが香るフレッシュチーズが詰まっていて、何の装飾もない見た目からシンプルに焼いたものだと思い込んでいたマリアベルは切り開いた驚きとその美味しさに目を丸くした。


続いて焼きたてのパンや新鮮なサラダを食べていると、昨夜マリアベルも紹介を受けた執事長ジェラルドがそっとグラウスの手元へ半分に折りたたまれた紙を滑らせた。


「イヴリンか?」

「はい、大型転移陣の使用許可を求める書状にございます」

「少しは落ち着いたかと思っていたが、変わらんな…。

 転移陣の使用を許可すると共に、使用人の半分を陣の部屋へ集めよ。どれくらいの量かわからんが人手はあった方がよいだろう」


マリアベルは転移陣という存在自体は書物から得た知識で把握していたが実物を見た事はない。

予想をしていたらしいグラウスは淡々と指示を出し食事を再開したが、マリアベルはまさかイヴリンが転移してくるのではないか…自分の部屋を使われていると知ったら怒るのではないかと不安に駆られグラウスの隣に座るフェミアを伺いみる。

彼女もグラウスと同様に表情を崩す事はないが、マリアベルの視線に気付いたのか安心させるように微笑んだ。


「イヴリンの事だから報せればこうなると思っていたわ。

 騒がしくしてごめんなさいねマリアベル、まだ落ち着かない内に」

「あの、イヴリンさ…伯母様がみえるのですか?」

「いいえ。人や武器を飛ばせる転移陣は王城にしかないし、国王陛下の許可なく使用する事はできないの。

 来るのはね……貴方へのプレゼントよ」


どこか遠くを見るようなフェミアの言葉にマリアベルは首を傾げる。

一度も会った事がないどころか、自分の事を知らなかった筈の伯母からプレゼントが送られてくるとは思えず、プレゼントと言うのは何か別の言葉を指しているのではないか、とマリアベルは更に考え込み、カトラリーを持つ手も完全に止まってしまう。


「あら、まぁまぁ。不安にさせたかしら。

 大丈夫よ。貴方は何の心配もしなくていいわ。さぁ食事を続けましょう」

「…はい」


結局、どれだけ考えても叔母の人となりを知らないマリアベルに正解は見つからない。

幸いな事に見る限りでは目の前の二人に焦る様子はなく、何か異常事態を隠されているというわけではないだろう。

少なくとも悪いことではない、とマリアベルは一応の結論を出すとカトラリーを持ち直し、食事を再開した。






「まぁ!これはまた愛らしい姫様ですこと!」


午後、屋敷にやってきた仕立屋はふくよかで人好きのする笑顔を振りまくベラという名の女性だった。

苗字はなく平民だと名乗りを受けたがその振る舞いや言葉遣いは貴族に慣れているのか明るいながらも丁寧で、幼いマリアベルに対しても礼を失う事はない。

しかしマリアベルは姫様と呼ばれるのを気まずく感じ横に立つフェミアに視線で助けを求めるが、頼みの綱はその視線に微笑を返した後より深い笑みを浮かべながらベラに声をかける。


「えぇ、この子はマリアベルといって我がフィーガスの大事な姫よ。だからそれに見合うものをお願いね?」

「お祖母さま!?」


背後からの思わぬ狙撃に小さく声をあげるが、フェミアは嘘偽りないでしょうと言わんばかりに笑うだけで訂正もフォローもする様子はない。

洗礼も国民登録もしていないマリアベルは身分だけで言えば平民以下であり、そしてそれを本人も自覚している。

しかしそれを自分で訂正する隙も空気も与えられず、気付けば採寸は終わりフェミアとベラ、そしてマリアベルの三人でテーブルを囲んでいた。

テーブルの上にはそれぞれのお茶とマリアベルの前には様々なカットフルーツが山と盛られた皿、フェミアとベラの間には大量のデザイン画が乱雑に重なり置かれている。


「このデザインはとても可愛らしいけれど、少し重たくはならないかしら?

 マリアベルは子供だから動きやすさも考慮してちょうだい」

「レースを軽いものにいたしますから、そこまでは気にならないかと。

 お色はどういたしますか?」

「色がまた悩ましいわねぇ…茶色の髪はどの色でも馴染んでしまうから」

「えぇ本当に……姫様のお好きな色をお伺いしても?」

「え?好きな色…えっと…」


今までマリアベルは自分の好きな色や好物などを聞かれた事がなかった。用意されたものを着ていたし好みと言われてもパッと浮かばない。

今着用しているワンピースの濃紺も、屋敷で着ていたピンクもけして嫌いではない。鮮やかな赤や黄色…黒色も格好いいとすら思える。

でも好きな色と言われて浮かぶのは…


「……白が、好きです」


マリアベルの頭に浮かんだのは、母が手入れする白薔薇の庭園だった。

濃い緑の蔦や葉の中で白い薔薇が輝くように咲いているのを遠くから見て、いつも綺麗だと思っていた。

ライラの手前あの花を美しいと思う事が悪い事のように感じていたがそれでも好きな花を問われれば白薔薇が、好きな色を問われれば白が浮かぶ。


「まぁ!白がお好みなのですね?」

「あ…いえ、でも他の色も好きです!今みたいな濃い色も好きですから、あの」


ベラの驚いた声でマリアベルは失言に気付いた。

白は汚れが目立つとライラが度々こぼしていたのを思い出し、普段着には向かない色を提案してしまったと顔を青ざめさせるが、そんなマリアベルの様子にフェミアはその背を軽く撫でた後口を開く。


「では服は濃い色で仕立ててちょうだい。

 白色は別のものを着けましょうね」

「別のもの…ですか?」

「えぇ、イヴリンの贈り物にきっと素敵なものがあるわ」

「まぁまぁ!イヴリン様からであれば間違いなくございますわね。

 であれば服はそれに合うよう仕立てさせていただきますわ」


イヴリンからの贈り物はこの打ち合わせが終わり次第確認するはずだったが、フェミアとベラは中身に見当がついているらしい。

転移陣があるのは別の棟になり、マリアベルは荷物がどれほどあるのかも知らなければ中身も皆目見当がつかない。

ベラはその後フェミアと意見を重ねながらデザイン画を十数枚まで絞り込み、仕立て終わるまでの繋ぎとして上等な既製服を何着か見繕った。


「せっかくなら新しいものに着替えてきなさい。イヴリンのはサイズも少し大きいでしょう?」

「わかりました」


マリアベルは既製品の中から深緑のワンピースを選ぶと、アンジーを伴い部屋を出る。


「ではフェミア様。こちら完成しだい順次お届けさせていただきます」

「えぇ、よろしくね。

 それとわかっていると思うけれど、あの子の事はまだ伏せておいてちょうだい」

「心得ておりますとも」


ベラはフェミアが贔屓にしているだけあり、フィーガス家の内情をそれなりに把握している。

現当主であるアベルの子がエリザベス一人だけである事も勿論知っており、フィーガスの姫として紹介されたマリアベルがどのような立場かわからずとも迂闊に聞くべきではない、他言するべきではない事だけは理解していた。


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