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53話

前回にいいねや評価、感想をありがとうございます!


注目度ランキング、日刊ランキングに入れたおかげか、とても多くの方に読んでいただけているようで嬉しさと緊張にドキドキしています…(笑

改めてになりますが、返信し忘れや遅れが出ると申し訳ないので感想への個別のお返事は控えさせていただいてます。

でも何度も読み返してはニッコニコになって大変励みにさせていただいてますので!本当に!ありがとうございます!!!



「…この奇跡を前に異を唱える者はいないでしょう。

 聖堂を代表し大神官オーギュストがここに、マリア・テオドラを七つ指の聖女と認定します!」


参列者や神官、居合わせた巡礼者が歓喜の声を上げた。

人に許された六つの力を越えた、始まりの聖女サミリアと並ぶ稀有な存在…その登場はテスパラルのみならず世界の歴史に残るだろう。


六つの指輪をはずしても七つ目の花はマリアの手に枯れることなく咲き誇っている。


「さぁ、聖女と言えど洗礼を受けたばかりの幼子です。

 この場にいる者は皆マリア・テオドラの洗礼立会人、先達として彼女の道行の幸福を祈りましょう」


優しく背を押され、祭壇から降りたマリアは参列者の元へと歩く。

彼らは皆喜びに涙を零しながらも口々にマリアへ寿ぎと祝福を伝えた。


「おめでとう!おめでとう!」

「どうか健やかに!」

「輝かしい人生を!」


「ありがとうございます…!」


ヴェール越しに微笑みながら感謝を返すマリアの姿をアントニオとミランダは並んで後ろから見つめていた。

まだ共に過ごした時間は一年にも満たないが、二人にとって既にマリアは大事な、愛する娘だ。

それはたとえ彼女が七つ指の聖女という稀な存在であっても変わらない。


しかし、世界はそう思わないかもしれない。


「なぁ、ミラ」

「なぁに?トーニョ」

「…私達でいいんだろうか」


聖女は政治とは切り離されるがその影響力は王に並び、むしろ国を跨いでも変わらない為王をも凌ぐと言われている。

そんな聖女を育てる栄誉を求める者が今後どれだけ現れるだろう。


二人とマリアには設定として血の繋がりがあっても実の親子ではない。

それならば他の国、他の家にもっと相応しい居場所があるのではないか…マリアも、それを願うのではないか。

この場にはかつてマリアベルを救い上げたフィーガスの祖父母もいる。

マリアが戻りたいと言って二人の元へ行ってしまったら…。


アントニオは強く歯を噛みしめながら涙を滲ませる。


「トーニョ、あの子は私達の娘よ。

 お義父様の孫娘で、大事な大事なランティスの娘」


ミランダはそんなアントニオの腕に自身の腕を絡ませ、寄り添う。

騎士団長として勇ましく振舞う事も多いアントニオだが内側の、奥の奥に純粋な脆さがあるのは長い付き合いでわかっていた。

そして自分の中にも、同じように不安を感じる弱さがあることも。


「私達はあの子の親、あの子の帰る場所よ。

 弱音なんて吐かずに待っていればいいの」


それは自身にも言い聞かせる言葉だった。

そこへ、参列者から一通りの祝福を受けたのかマリアが二人の元へと戻ってくる。


「お父様、お母様」


ヴェールのせいで正確には捉えられないが、二人の目には確かに愛娘の笑顔が見えている。

咄嗟に広げたアントニオの腕にまるでそれが当然だと言うように飛びこんだマリアのどこか誇らしげな表情は二人の不安を払うには十分だった。


「……おぉ神よ!真なるグラダファよ!

 愛しい娘マリアを授けてくださった奇跡に感謝を!」

「お、お父様!お父様高いです!高いです…!」


アントニオは安堵から破顔しマリアの体を高く掲げる。

それはかつて初対面で掲げられた時よりもうんと高いものだったが当時のような恐怖はなく、マリアもただ笑いながらはしゃぐのみの、どこにでもいる普通の親子でしかなかった。







喜びで満ちる聖堂の中、隅に座る老夫妻だけが眩しそうに、そしてどこか悔しそうにマリアを見つめていた。


老紳士…グラウスの膝の上で固く握られた拳を傍らのフェミアがそっと包む。

マリアベルのまま、フィーガス家の娘としてリャンバスで洗礼を受けていれば祖国は史上初、それも七つ指の聖女の帰還を果たせただろう。

孫娘の幸福を願う感情とは裏腹に愛国心から来る罪悪感、惜しむ気持ちがグラウスの胸の中で渦巻く。


「…これも、グラダファの思し召しですよ」


同様に複雑な思いを抱きながら、フェミアは自身にも言い聞かせるように囁いた。

既に別れも済ませた以上、マリアを大人の思惑でマリアベルに戻すわけにはいかない。


「そろそろ行きましょうか」

「あぁ…そうだな」


賑やかな内に、気付かぬように去る方がいい。立ち上がった二人は支え合いながらひっそりと関係者用の通路を使い、裏口から聖堂を出た。

本来なら席を外すべきところを旅人だからと許されていたのだ。出立すると伝えれば神官も気を利かせ二人を案内する。


「こちらであれば騒がれずに出られるはずです」

「うむ、案内感謝する」

「お二人の良き旅路をお祈り申し上げます」


鐘の音を聞いた人々の多くは聖堂の入り口側に集まっている。反対の裏口は人も疎らでグラウスとフェミアが外に出ても好奇心で取り囲まれる事態にはならない。

二人は沸き立つ民衆の中、雑踏に紛れ待機させていた馬車へと歩いていった。




マリアが気付いた時には既に二人の姿はなく、うっすらと涙を滲ませ誰もいない席を見つめる娘をアントニオとミランダがそっと抱き締めた。



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