52話
前回にいいねや評価ありがとうございます!
たくさんの人が読んでくださったおかげで注目度ランキング2位になりました…!
何故急にランキングに入れたのか不思議ですが、本当にありがとうございます!がんばります!!!
やがて光が収まると参列者の大半は静かに両手を組みマリアへ頭を垂れる。
聖女への信仰心だけではなく今目の前で起きた奇跡への畏敬がそうするべきだと思ったからだ。
大人達が自身にかしずく光景に動揺しそうになるマリアを落ち着かせたのは変わらず家族として立つアントニオとミランダ、そしてフェルディナンドの姿。
「…マリア・テオドラ。
手を掲げ皆に改めてその身に得た属性をお見せなさい」
「はい」
そっとマリアは両手を掲げる。
六つそれぞれの指に嵌った指輪の魔石は今も強く輝いている。
感嘆の溜め息の中、己の指の隙間から洩れる六色の光を見つめていたマリアは違和感を覚えた。
身体の内側でぐるりと回るものがある。
出口を探すようにぐるぐると回るそれは勢いを増し、右手へと進んでいく。
「マリア・テオドラ?」
「…大神官様、なにか変です……っ」
これが一体なんなのか、わからないままマリアは引っ張られるように右手をより高くに掲げ、そして――…
『アンタは花の匂いがするよ』
『まだ咲いてないけど多分…白くてきれいな花』
いつかのエリヤの言葉がマリアの中にリフレインする。
マリアにとっての白い花は生家の白薔薇だった。エリヤから花の匂いと言われた時は生家の事すら見抜かれたのかと肝を冷やしたほどだ。
でも、そうではなかった。
体内を回っていたそれはようやく見つけた出口から溢れ出し、緑色の蔦となって人差し指に絡みつく。
何重にも絡まり指輪のように巻き付いた蔦は小さな蕾を膨らませていき隙間からは白い花弁が覗いている。
開花の瞬間は瞬きの内に訪れた。
先端が綻び、純白の花弁が踊るように広がっていく。
儚く透き通るような…それでいてどれだけの強風が吹こうともけして散る事がないと思わせる確かな存在感を放ちながら。
この娘は六つ指などではない、七つ目の自分がいるぞと誇示するように魔石に負けない輝きと共に花は咲いた。
中心にあるべき柱頭には子房や胚珠はなく、花弁だけが幾重に重なるその花はどんな植物図鑑にも存在しない。
火も、水も、風も、土も、氷も。光さえなくとも生み出す事ができる、奇跡の花。
薔薇のような芳しい香りはない。しかし咲いた瞬間からその場にいた誰もが清浄を感じていた。
儀式の場として清められた聖堂に淀みはなかった筈だがそれでも花は空気を更に清く浄化したのだ。
(光だけじゃなく、これも私の力なんだ)
マリアは己の手で咲く花を見上げた。
白く、美しいその花は父神グラダファから授かった七つ目の力。
まだこの力が何を成せるのかはわからない。
けれどきっと、この力を使う時が来る。
魂がそう教えている。
必要となるからこそ与えられた、これから起こる事に立ち向かうための力なのだと。
(おとうさま…)
顔を拝する事が出来なかったが、そのぬくもりを伝えてくれた父神。
マリアには彼の娘としてこの世界の為にできることがある。
(あなたの娘として恥ずかしくないよう、頑張りますね)
聖女としての誇らしさと新たな決意を抱きながら、けれどもマリアの中にはもうひとつ譲れない願いがあった。
(でも、)
親に忘れられた自分を迎え愛してくれる両親。
彼らの愛に応えたい、人の子としてのマリアの願い。
(お父様とお母様の娘としても、頑張る事をお許しください)
マリアは神の庭でどんな未来も選ばなかった。
先が見えない道を進むと決めたが、両親の愛を裏切る事だけはしたくない。そう決めていた。
そんなマリアの意思を肯定するかのように、聖堂の窓から差し込んだ光が白い花を煌めかせた。




