50話
祝・50話~~~!
本来飽き性な私がこれだけ書き続けていられるのは、偏に皆様のいいねや感想のおかげです。
勿論自分がこのお話を書いていて楽しいというのも大きいですが^^;
これからもマイペースに書いていきたいので、引き続き楽しんでいただければと思います。
マリアが次第に落ち着きを取り戻した頃、聖堂の扉が薄く開き数人の聖堂騎士と共にフェルディナンドとレオポルドが戻った。
「待たせてすまない」
「今日の所はもう騒ぐことはないだろう、再開してくれて構わん」
詳細は夜にでも共有されることになるのだろう、二人は騒動を胸に収め穏やかな表情で微笑んでいる。
大神官もそれに頷くと、マリアの表情を伺いつつ立ち上がり祭壇へと上っていった。
その頃既に親族の間ではある程度の話がまとまっており、大神官の動きに合わせ聖堂内は静けさを取り戻していく。
「お待たせいたしました。
ではマリア・テオドラの属性判定の儀を始めます」
大神官の声に、祭壇横に控えていた三人の若い神官がそれぞれ両手に収まるほどの小さな箱を持ちしずしずと歩を進める。
彼らが持つ箱は遠目から見ても三者三様に異なり、先頭を歩く神官は金の箱、真中を歩く神官は銀の箱、殿を歩く神官は木の箱となっている。
異なる箱は全て箱の天面に大きな緑色の魔石が嵌めこまれており、それを囲むように施された彫刻も同一だ。
それらの箱を祭壇の決められた位置に置くと神官たちは来た時同様にしずしずと下がっていく。
「マリア・テオドラ。どうぞこちらへ」
大神官の言葉に両親の手を離れ、マリアは再び祭壇へと上る。
「この箱には判定する為の指輪が収められています。
指輪にはそれぞれに適した魔力量があり、この魔石によってまず選別されるのです」
属性にも個人差はあるが、それよりも差が大きいのは魔力量だ。
属性と違い後々の努力で増える事もあれば衰えと共に減る事もあるものの、洗礼の段階では生まれ持ったそのままの魔力量のみ。
そうなれば血統の差が顕著に表れ、平民よりも貴族、貴族よりも王族の方が多くの魔力を内包している事となり、内包する魔力の性質を感知するその指輪に施された魔術は厳格な判定の為、それぞれに定められた容量以上、以下の魔力を感じ取らないように作られている。
「まずはこちらの箱を」
最初に置かれたのは木の箱だった。
今まで多くの子供の手に置かれてきたのだろう、角が柔らかく削れたそれはマリアの手に置かれるや否や天面の魔石が一瞬で緑から赤色へと色を変える。
「赤くなったのはこの箱では手に負えない、または感じ取れないということです。
次はこの箱をどうぞ」
木の箱に比べればずっしりと重い銀の箱はきっと長い間磨かれてきたのだろう彫刻の隙間に僅かに黒色が滲んでいる。
天面の魔石はじわじわと色を変え、十数える間には真っ赤に染まってしまった。
「おぉ…!」
銀の箱すらも赤く変わった事に、参列者が耐え切れず歓喜の声をあげる。
聖堂内にいる貴族はみな自身の洗礼で銀の箱を用いた。というのも銀の箱は三種類の中で一番許容の幅が広く、下位貴族から高位貴族までカバーできるものだからだ。
平民の大半は下限がない木の箱を使い、貴族は銀の箱。金の箱を用いるのは王族やそれに準ずる魔力を持つものだけというのが常識となっている。
つまり、銀の箱で測れないマリアは王族に並ぶ高い魔力を持っているということになる。
過去、フェルディナンドは銀の箱の魔石を半分ほど染めたが結局染めきることがないまま魔石は緑に戻った。その魔石を染めきった時点でマリアの内包する魔力は当時のフェルディナンドを越えていた。
「…では、この箱を」
最後に渡された金の箱は使用頻度、あるいは手入れの違いか他の二つに比べあまり経年を感じさせない。
銀の箱よりも重く感じるその箱に取り付けられた魔石は緑のまま色を変える事はない。
「貴方にはこの箱がよいようですね」
穏やかな表情のまま、大神官は法衣の中で背中に汗を伝わらせていた。
彼がこれまで執り行ってきた王族の洗礼では、魔石の縁が赤くなるのが常だった。
王家に属する者は皆高い魔力を持っているが近年はそれも減少傾向にあり、魔石の縁が赤くなるのは許容範囲をギリギリで越えているという事に他ならない。
もしこれが銀の箱であれば色の変化即ち許容範囲を上回ったと喜べるかもしれないが、金の箱においては変わってくる。
何故なら、金の箱には上限というものが定められていないのだから。
どれだけ微弱な魔力も感知するのが木の箱であり、どれだけ膨大な魔力でも計測できるのが金の箱。
王族ですら俄かに赤くなるその魔石が、マリアの手の中では僅かにも色を変えない。
(グラダファ神はこの子にどれほどのものを授けたのでしょう…)
参列者の席は遠く、魔石全体の色が変わらない限り変化に気付く事はないだろう。
王族の洗礼に立ち会った者がいたとしても今マリアが持つ箱との違いに気付くこともない。
箱を渡し、正面から向き合ってきた大神官だけがマリアの可能性と、危うさを感じ取っていた。




