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29話

評価やいいね、ブックマークありがとうございます!

感想は個別にお返事する事はありませんが全て大切に読ませていただいています。

(個別にお返事したい所なのですが、うっかり先のネタバレをしそうになるので…すみません!)


噴水に真っ逆さまに落ちたマリアは水音から異変に気付いたミランダの手ですぐさま救助された。

魔石から生成された水を飲んでいた事に加え石造りの底に頭を打ったので魔法医が呼ばれ診察されることになったが、結果は軽い打撲で後遺症もないという。


「魔石から生成されるものは魔力純度が高い分属性によっては反発するのですが…ご息女は恐らく水の魔法と親和性が高いのでしょう、魔力酔いの症状もない。

 数日間は激しい運動を控え経過観察が必要ですが概ね問題ありません」

「本当ですか!?あぁ、よかった…!」


医師の言葉にミランダはマリアの身体を抱き締め、その無事を喜んだ。

打った頭はやや腫れているようだが本人にその感覚はなく見た目も髪の毛で殆どわからない。


「…あの、マルシオ様は…」

「あの子は動けないようにしてあるわ」


マルシオはマリアの救助をする横でイヴリンが魔道具で拘束し、馬車に乗せ鍵を掛けた。その周りはランティス家の使用人で固められている。

親戚とはいえ呼ばれた先で騒ぎを起こした以上、その敷地の中に置くことはできない為緊急的な措置だ。

今回は結果的に大事なかったとはいえ、打ち所が悪ければ…救助が数分遅れれば命に関わる。もしこれが他家で、相手が洗礼済みだったなら隔離などではなくその場で警備隊を呼ばれ身柄が確保されていただろう。


「マリア、ごめんなさい…痛かったでしょう」


母の腕に抱かれながら、跪いたイヴリンの謝罪を受けたマリアは大丈夫だからと微笑む。


「大丈夫です、お医者様の魔法でもう痛くありません」


魔法医の使った術は治療ではなく痛みを鎮めるだけのものにすぎないが、打撲程度なら痛みが消えるだけでも治療と同等に値する。

その為マリアは被害者であるにも関わらず真っ青な顔のイヴリンやミランダを気遣う余裕すらあった。


「マルシオ様が何にお怒りなのかはわかりませんが、きっと私が何かしてしまったのだと思います。

 だからあまり厳しい罰は…」

「いいえ、マリアちゃん。たとえ気分を害されたとしてもマルシオの行いは決して許されるものではないわ。

 貴方が洗礼前だから罪にはならないけれど何もなかったでは済まされないの」


洗礼前の子供は、まだ民として認められていないので今回のような事件が起きても法的な罪に問われる事はない。

リャンバスでもテスパラルでもそれは変わらないが、実際は前科にならないだけで何らかの罰は受ける必要がある。

罪に問われないから子供には何をしてもいい、というわけではない。


「アントニオが戻り次第どうするか話し合うわ。マリアちゃんはお部屋で休んでなさい」

「………お母様、おば様…どうか、お父様には内緒にしていただけませんか?」

「何を言っているの?貴方が優しい子なのは知っているけれど、それは流石に…」

「違います…優しいのではありません」


マリアは、マルシオの怒りに確かに恐れを抱いた。

しかしあの時のマルシオの顔は怒りだけだっただろうか?


『この家の子供になる筈だった』


そう叫ぶほどの怒りの中に、悔しさや悲しさはなかっただろうか?


マリアは、マリアベルだった頃に居場所を失った。

その場所に収まった妹エリザベスに対し、怒りを感じた事はなかったが何度も悔しさを噛みしめ、悲しさを自らの膝と共に抱え込んだ。


仮に自分がマルシオのように激情をぶつける性質を持っていたら、エリザベスをあの庭で同じように突き飛ばしたかもしれない。

アントニオに向ける笑顔が本当のマルシオだとしたら…マリアによって本来得た筈の居場所を奪われたなら、それを奪ったマリアが罪を問う事は出来ない。

もしここでマルシオを罰すれば、きっとそれはマリアにとっても罪悪感という傷になる。


「私の為に、どうか秘密にしてください。

 お父様にもレオポルドおじ様にも…お願いします…!」



マリアの願いに母達は少し待つよう言いつけ部屋を出て…ややあって戻ると、今回に限り伏せる事を認めた。

本来なら両家の当主に全てを話した上で加害者であるマルシオの処遇と被害者への賠償を決める必要がある。

それをせず、その場にいた者の内にだけ留めさせるのは世が世なら当主への反逆ととられてもおかしくはないが母達は今後を考えそれを呑んだ。

それはマルシオの行いが一族間に大きな溝を生む可能性があったからだ。


いくつかの家によって構成される一族の中でも、直系であるアラニス家とランティス家は当主の年齢も近く分かたれてからの日も浅い。

先代子爵…設定上マリアの祖父にあたる人物は多くの逸話を持つため未だに信奉する者も多い。

その息子であるアントニオこそ一族を束ねるに相応しいのではないか、という者までいる始末だ。

アントニオ本人は担がれる気もなくレオポルドと良い関係を築いているが…今回の件で遺恨を残せば、そこに付け込み担ぎ上げようとする者が出てくるかもしれない。


本人が望むのなら、できるだけ穏便に済ませるに越した事はない…そう両家の母の中で意見が合致したのだ。


「我儘を聞いてくださりありがとうございます。おば様、お母様」

「こちらこそ、マルシオに機会をくれてありがとう。

 でもね、少しだけ大人のお話をさせてちょうだい。貴方とマルシオ…それからルカに関わる事よ」

「…お話?ルカお兄様にも、ですか?」


イヴリンとミランダは頷き合うと話し始める。


一族内でのマリアが置かれた立ち位置と、それを固める為の婚約。

まだ候補ではあったがマルシオとルカがその相手だったこと…。


「今回の件でマルシオは候補から外れる事になる。

 初対面であんな事をするような子に大事な姪を預けられないわ、たとえそれが我が子でもね」

「伯母様…」

「レオポルドとアントニオには突き飛ばした事を伏せて、敵意を見せたとだけ伝えて…そうすれば穏便に婚約者候補からは外されると思うわ。

 でも、そのせいでマリアの婚約者はルカで九割決まってしまうの……アベルの不出来に一族の都合…何度も大人のせいで貴方の未来を狭めてしまって本当にごめんなさい」

「いいえ、伯母様。私は大丈夫です。

 ルカお兄様さえ了承していただけるなら私もそれが一番いいと思います」


まだ社交界にも一族の輪にも入った事がないマリアは貴族社会を知らない。

しかし教本によって貴族の婚姻は身分や家同士の繋がりで決まる政略結婚が多い事は知っている。


それに加えてマリアは、まだ恋も知らないのだ。

内側に閉じ込めていた感情を表にし始めてまだ一年も経っていないマリアの情緒はまだ恋をするまでに至っておらず、政略結婚を拒む程の想いもない。

まだ誰かを想う前、甘やかで融けるような恋を知る前に伝えられたことはある意味で救いだった。



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― 新着の感想 ―
人生経験の少ないマリアはともかく、お母様方その判断は駄目でしょう。 ここだけの話にするのは分かる。隠し事の無理そうなアントニオに話さないのも仕方ない。でもレオポルドには報連相しなくては。 マルシオは…
今までの生育環境を考えるとマリアの心情はわかりますが、これは事実を知っている母親達がしっかり当たらないと理不尽な逆恨みやトラブルが起きそうな…(・_・;) お母様方頑張って!
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