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21話



メディアの子について、レオポルドは様々な質問をしたがその殆どは主以外に話せないと断られた。

だが、情報が引き出せないにも関わらずレオポルドは気にする様子も見せずただ言葉のみで残念だと嘆いた。元より秘された存在であるメディアの子を全て知る事などできないとわかっていたのだろう。


「さて…ではそろそろ護衛を戻して出発の準備をしようか。

 ルートの変更をしなければいけないから君達はもう少し休んでいても大丈夫だよ」

「お母様のご実家にいくのでは?」

「が今のまま彼を連れて行けば魔物として討伐対象になってしまうからね、あそこの家は先代で侯爵に上がったからメディアの子について知らないし」


ミランダの実家、つまりマリアベルにとっても今後親戚となる付き合いが必要な家。

ミランダと合流し正式な養子縁組を前に挨拶を済ませる予定だったが、魔物の魔力を放つエリヤを同行させていけば大きな騒ぎになる事は明白だ。


「ミランダには王都で待っていてもらおう。今からだと私達が着くのと変わらないかもしれないが」




やがて戻ってきたレオポルドの護衛達はエリヤを怪しむような視線を向けたが、レオポルドが問題ないと言えば歓迎はしないものの納得したようだった。


「お嬢様、エリヤを入浴させてまいります」

「お願いねアンジー」

「ねぇ、風呂なんて後でいいでしょ、なんでわざわざ…」


準備が整うまでの間、先ほどは髪を梳かすだけで終えてしまったエリヤを改めて整えようとアンジーは嫌がる彼を浴室へと引きずっていった。

大人達が傍にいるとはいえ一人で過ごすことになったマリアベルは姿勢正しく座ったまま目を閉じる。


「………」


メディアの子については理解ができた。

祖国リャンバスとは異なり魔法が身近にあるテスパラルならこんなこともあるかもしれないと、そう思う事が出来た。


しかし、自分がエリヤに選ばれた事は納得ができない。


将来子爵を継ぐなら幸運を運ぶと言われるメディアの子が傍にいる事はとても心強い事だろう。

もし幸運を運ぶのがエリヤの言う通り結果論だとしても、少なくとも励みにはなる。しかし、母に捨てられ流されるまま人を頼る事しかできない自分のどこに選ばれる要素があるのか…疑いたくはないが、主を間違えているのではないかと浮かんでしまう。

魔力によって主を選ぶというのなら、洗礼を受けず魔力が発現していない自分はまだその資格を持たない筈だ。

内に秘めるものを感知したとしてもそれが確かであると証明する術はない…どこかに本当の主がいて、ただ少し魔力が似ているだけということもある。


そうなれば。もし間違えているとすれば、真実が明らかになった瞬間彼は自分の元を離れてしまう。

その時既に何らかの幸運を得ていたとしたらそれも同時に離れ、逆に代償として大きな不幸が降りかかるかもしれない。


その可能性はただでさえ物事を深く、悲観的に考えてしまうマリアベルの心に昏い影を落とす。


王都に到着し養子縁組を完了させればマリアベルはテスパラルで洗礼を受ける資格を得る。

言語をはじめとする教育を優先する必要がある為すぐにではないが、洗礼の日は必ずやってくるのだ。


その日が別れの日になるかもしれない。


発現した魔力がエリヤの求めるものでなければ、潔く彼を解放し正しい主を探せるようにしなければならない。

たとえ短い期間でもエリヤが本来の主と過ごす時間を無駄に消費してしまったのなら、手助けをするなりしてお詫びをしたい。

魔力で探すなら、一体どうやって…どんな人を探せば…


マリアベルの脳裏に、白の庭園と眩い金髪が浮かぶ。


エリヤはあの時、アンジーとの魔力契約を結んでいる祖父グラウスの魔力をマリアベルと似ていると言った。それはつまり、血縁が魔力に影響を及ぼすという事だ。

レオポルドとアントニオも従兄弟で同じ火属性の魔法を使う。

祖父と孫で似ていると感じるのなら更に近い…同じ両親から生まれた、姉妹なら?


「お嬢さん?」


エリヤの声に、深くに落ちかけたマリアベルの思考は引き戻される。


「あ…早かったのね、エリヤ」


浮かびかけた可能性をかき消すようにマリアベルは振り返った。


日に焼けて汚れが目立たなかったせいか先ほどまでのエリヤに対し多少汚れている程度の認識しか持っていなかったが、やはり清潔にするとその差は歴然だ。

まるで一枚フィルターが外れたように、エリヤが持っていた目の輝きやその端正な顔立ちがよりハッキリと見て取れる。


伸びるに任せていた黒髪もアンジーによって、少年らしさを出しつつもエリヤの気ままな雰囲気を残す短いボブに整えられている。


「…変じゃない?」


短い髪に慣れないのか、先ほど獣の耳をそうしていたのと同じように指先で弄るエリヤは窺うようにマリアベルを見つめている。


「全然変じゃないわ、とても素敵よ」


思ったままを口にすればエリヤはほっと安堵の表情を浮かべ、よかったと呟いた。

晴れやかで安らぎに満ちたその顔に、声に、マリアベルの中で渦巻いていた疑念の影が薄くなっていく。

全幅の信頼がこもった目が、今エリヤが選んだのは自分なのだと伝えてくるようだった。


「聞いてよお嬢さん、あの人ひどいんだ。頭は三回、体は二回も洗い直しさせられたんだよ?」

「自分で洗うと聞かないからでしょう?私が洗えばどちらも一度で済みました」

「嫌だね、人に洗われるなんてぞっとする」

「ふふ、アンジーのシャンプーはとても気持ちいいのにね」

「光栄です」


フィーガスの祖父母に保護された翌日を思い出し微笑み合うマリアベルとアンジーにエリヤは眉間に皺をよせ首をぶんぶんと横に振った。

そんな三人の元に、ルート変更の話し合いを終えたレオポルドが声をかける。


「楽しいところにすまないね、そちらはもう出れるかな?」

「あ、はい、大丈夫です伯父様」

「じゃあそろそろ出発と行こうか」





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