表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

2.Encounter with the Fist

「━━━━━━━━━━━━━━━ん………ツッ…!」


 暖かな日差しの射す窓辺の近くのベットでバイオレットは目を覚ます。


 骸鬼獣(ガルダー)との戦闘で出来たキズはほとんど治っているがまだ完全に回復しきれてないのか身体に響き、悶える…


 ガチャり。と部屋の扉が開き白い頭巾を被った金髪の少女が入室する。


「あ、起きたようですね。お体大丈夫そうですか?」


「………私はいつまで寝てたの?」


「5日間です。ここに着いた時はボロボロでしたが正一(しょういち)さんの匠力(しょうりき)も借りたおかげで随分良くなりましたよ。」


「…アイツ、匠力まで備わってたの…?」


「はい!肩に手を置いて直列形式で借りましたがかなりの潜在量(ポテンシャル)でした…背後に急に山がそびえ立ったような感覚でした…コエー:( ´꒳`;)」


「…そう、ありがとう。アハネ。」


「全っ然!こちらこそ村を守ってくれてありがとうございます!目を覚ましたことおじいちゃ……村長や正一さん達に伝えてきますね!」


 水の注がれたコップをベット横の棚に置きバタバタと扉に手をかける。


「あ、まだ安静にしていてくださいね。経過を見た感じあと2日もすればピンピンになれますからそれまで休んでてくださいね〜」


「うん、分かったわ」


 ガチャり。バタタタタタタ、と慌ただしく出ていくアハネを見送る。そして記憶にある最後の夜を振り返る…


(あの動き…匠力で動いてるようには見えなかった…そもそも解振心器(レゾン・ギア)も知らなかったようだし匠術も使えるようには見えない…恐らくアレを倒した時は純粋な身体力(フィジカル)…!)


「やや、起きられましたかな?」


 静かに扉が開き、小さな白髪の老人がプルプルと震えながら杖をつき、ゆっくりとバイオレットの元に向かってくる。


「センリウさん、すみません…お部屋借りてしまって…」


「いやいやァ、こちらこそ骸鬼獣を討伐して頂きありがとうございます。ワシがもうちょっと若ければ……」


 と、壁に掛けた長く歪に曲がった爪のような無骨な大剣をまじまじと懐かしむような目線を送る。


「よる歳波には勝てませんな…」


「その歳まで五体満足で病気もなく余生を過ごせてる方が凄いですよ………」


 アハハハ…と苦笑いをしながらアハネが置いてくれた水を飲む。


「そういえば…正一はどうしました?」


「あー、あの灰色の髪の青年か。今は若い衆と森に行っとるよ。」


 そう話終えるとセンリウは細めた目を少し開き…


「…ところであの男…一体何者じゃ?」


 老人とは思えぬ威圧感を覚え、生唾を飲む…


「お前さん1人で森に入っていったかと思えばボロボロになったお前さんを担いで謎の男が出てきた時は酷く驚いたぞ………」


「あの服装といい、あの解振心器(レゾン・ギア)…本人は明るく人当たりも良いし、よく働いてくれとるが………」


「とても普通の人間とは思えん……ワシと対面して話した時もこことは違う場所(・・・・・・・・)から来たと抜かしおったわ…」


 その眼光はとても弱々しい老体のものとは到底思えない鋭さと凄みがあった…


「…アタシも分かりません……あの森で突然助けられたと思ったらこの村の住人でも無さそうだしビフレスト共和王国のことすら知らないようでした…」


 下を向き、ギュッとシーツを握り締める。


「ただ!、その…悪い人には思えません…少なくとも………誰かのために行動できる人…だと思います…」


「ですからどうか……!」


 バタンッ!と扉が開かれる


「おー起きたか、体の具合大丈夫か?」


 正一がアハネと共に部屋に入ってくる。


「だいぶ良くなったわ…お礼がまだだったわね。」


 バイオレットは体の向きを変え足を下ろし両膝にそっと手を置き頭を下げる


「あなたのおかげでこうして私は助かった本当にありがとう。」


 唐突なかしこまった謝礼にギョッと驚く。


「べっ、別にそこまでの事じゃねぇだろ、俺もあの時バイオレットと出会ってなかったら今頃森で…」


「それと…!」


 バッと切羽詰まった表情を向ける━━━━━━が…。


「ど、どうしたんだよ?」


「………ううん、なんでもない…。とりあえずありがとう」


 作り笑いを見せはぐらかす。


「な、なんだよ、言いたいことあるなら言ってくれりゃいいのに。」


「いや、大丈夫よ。それより…これから一緒にビフレスト王宮まで来てくれない?」


「え?あぁ、いいけど…?」


 少し困惑しながら答えると、バイオレットはやや思い悩むような表情を浮かべと


「…本当にいいの?」


 と釘を刺すように問いただす。


「別に行き場もないしそもそもここの人間じゃないから住む場所とかも何も無いし…だったら保護して貰えそうなところに行ってこれからのことを考えるのが1番かなーって……あーーー、実験とか解剖とかモルモットとか、そういう感じのは無しで………」


 安心させまいとヘラヘラと回答しバイオレットを落ち着かせるように振る舞う。


「………あはははは、大丈夫よ多分。あなたの安全は約束するわ。」


 少し緊張が解《ほど》けたのかぎこちなく少女は笑ってみせる


「センリウさん、明日にでも…」


「まだまだ体が回復しきってないでしょーーーーーー!!!!!」


 バタン!とアハネが鬼の形相ですごい勢いでバイオレットの元に駆けてくる。


「あとっ!!2日はっ!!!絶ッ対ッ安ッ静ッですっ!!!!それからリハビリして身体の動きに違和感がないかを確認できてようやく怪我からバイバイですっ!」


 ズンズンズンと詰め寄る。若干引き気味になる正一とホッホッホッと笑うセンリウ。


「わ、わかったわよ…私が悪かったから…その、落ち着いて、ね?」


 助けを求める視線を2人に送る


「ま、まぁ、俺ももうちょっとこの村で爺さんから色々と教わりたいことあるし、バイオレットの容態も気になるから、な?そんな急がなくても平気だって。」


「うむ、彼は剣を触ったことがないときたからのぅ、この老骨が教えることが出来るのは基礎ぐらいなもんじゃが…基礎も何もない剣を振るうのは使用者にも周りにも危害が及ぶかもしれん。」


「へぇー剣術の指南を受けてたのねー」


・・・・・ん?


「…あんた、センリウさんから剣の指南を受けたの?」


「そーなんだよー」


「わしも久々に剣を視ることが出来て楽しかったぞい」


「正一さんの上達も早かったですねー」


「あははははー」と和む3人の空気をバイオレットがかき消す。


「あっ、アンタッ!?あのセンリウさんから剣術を指南して貰ったって言うの!?は?へ?…こ、コレは……どういうことですか…!?」


「いや、どうもなにも…おや、すまんの。」


 ヨッコラセッ…と正一が近くにあった椅子を持ってきてセンリウを座らせる。


「さっき言った通りじゃ無知なる剣ほどの凶器はない…攻め方を、護り方を、何より使い方を学ばぬと使用者が守りたいものですら安易に斬り裂いてしまう…それが剣じゃ。」


「俺もさ、前の世界じゃ剣だとかそういうのを使って戦ってたのはもう何年も前の話だし、日常に危険な生き物とかいなかったからさ。」


 チャリ、とネックレスをバイオレットに見せるようにかざす。


「誰かや何かを傷つけるよりも守ったりできる手段があるならそっちがいいかなって」


「…それがあなたの解振心器(レゾン・ギア)ね。それにしてもなんで私じゃなくて正一と響心(レゾナンス)できたのよ…」


「あぁ…なんか、ごめん。」


「いや、違くって!責めたい訳じゃなくて、他人の解振心器で魂統(チューニング)出来ること事態が聞いたことがないの。」


 ムムムムム…と1人考え込むバイオレット。しかし正一は彼女の武器になるはずの解振心器をなぜ自分が使えたのか、なぜあの時光の人間が現れたのかを思い出す。


「あ、そういや━━━━━━━━━━━━━………



 ズドォォォン!━━━━━━━━━━━━━


 村の門の方から突然轟音が響き、遠くから悲鳴が聞こえる。


「なに!?もしかして骸鬼獣(ガルダー)!?」


 アハネが慌てたように反応する。


「いや、この村の結界は相当強く作られておる。骸鬼獣などとても入れんぐらいのな。」


 バッと正一が飛び出す


「師匠、アハネさん。俺、行ってくるんでバイオレットのこと頼みます!」


「私の事はアハネでいいですよ〜」


 とアハネが言うのも聞かず、ものすごい勢いで音のなった方向に飛び出して行った。


「恐らく人間(ヒト)じゃ。」


「…え?」


 バイオレットが聞き返す。


「村の結界はワシの同期の奴にとびっきりの術を施してもらったのじゃ。そこいらの骸鬼獣(ガルダー)じゃ手出しのできないほどのな…」


 ゴクリとアハネが生唾を飲む


「しかし人間や小動物なんかの侵入は制限をかけておらん。そんなんが来てもワシがおるからの」


 ギラりと鋭い眼力を門の方に送る………


「しかし…対骸鬼獣用の戦闘を先に教えたのに初戦が対人とはのう…」


「大丈夫ですかね、正一さん…」


「心配入らんわい。なんせワシの弟子1号(・・・・)じゃからな」


「それ、説得力になってないよおじいちゃん」


「…確かに文脈がおかしかったのう」


 ホホホホホ、アハハハハと笑う2人の中、1人戦闘に身を置いているバイオレットが肌で感じ取った…


(なにが歳とったよ………!!!門にいる侵入者にとんでもない殺気飛ばしただけじゃなく…正一の背中に強い喝を入れた……!!!!あの大英雄(・・・)に指導だけじゃなくこんなに期待されてるのよ…勝ってね、正一!)━━━━━━━━━━━━━━━



━━━━━━━━━━━━「何者だ…!?お前……!?」


 トゲトゲしい髪型の山賊のような風貌の青年がボロボロの門番兵の首を掴みあげていた。


「アァ?先に質問したのは俺の方だろうがよ、なァ?」


 ギリギリと首を絞める力を強くする…カハッ!と門番が何とか息をしようと口を開けもがく。


 その後ろには門を突き破り、殴り飛ばされたであろうもう1人の門番が民家に突っ込んでいた…


「でもよォ?お前の相方が剣士が来たっつうからやさァしく会わせろっつってんのに拒否りやがるから、しょうがなくぶっとばして入るしか無くなっちまったんじゃねぇかよなァ!?」


 ギギギッとさらに締めつけを強くしたその時…


━━━━━━━ズオッ…!!!


 とてつもない殺気をぶつけられその手をパッと離す…そのまま門番は失神したのか口から泡を吹いて倒れた。


(スゲェ殺気…!?これはヤツ(・・)のかぁ…!?)


 冷や汗を垂らしながらもニイッ…!と不敵な笑みを浮かべ殺気のした方を向く瞬間…


 ヒュウっと男の前を何かが通り過ぎた。


「速ッ!?アイツかぁ!?」


 しかし後ろを見てもその存在を確認できなかった…


「…大丈夫ですか?」


 刹那、先程絞め落とした門番を担いだ灰色髪の男が吹っ飛ばされた門番の元まで行って起き上がらせている。


(速ぇじゃねぇか!?アイツがあの鎧野郎(・・・)か!?)


「オイ、ご自慢の鎧はどうした?雑魚ども助けるのに必死で着忘れて来ちまったのかァ?」


 挑発か何かは知らないが正一は無視して門番を近くの井戸の傍に腰掛けさせる。


「直ぐにアハネさんに診て貰いますから安静にしててください…誰か、彼らの傷を手当できる方はいますか?」


 とまるで居ない存在の様に扱う。


「なら私が…」「俺も、布かなにか持ってくるよ…」


 ポツリポツリと村民が門番を救護すべく動き出そうとする。


 ブチィ…!


「無視してんじゃねぇぞネズミ野郎ォ!!!」


 男が拳を握り突っ込んでくる。


 正一は正面から男に突っ込み自身も拳を叩き込もうとする。


 バチン!と男の頬に正一の正拳がクリーンヒットしたが…


「オイオイ騎士サマよォ…」


 ガシッと正一の腕を掴み片腕だけで後ろに投げ飛ばす。

 何とか体制を立て直し正面を向くが…


「そんなヘボパンチで俺を倒せると思ってんのかァ!?ア゛ァ゛!?」


 ものすごい速さの拳が正一の顔面めがけ目飛んでくる。


 バギィ!ボゴゴッ!と民家に突っ込む。


「あん時みたいに使えよ!剣を!それともなんだァ?もう終わりってか?随分呆気ねぇじゃねぇかよオイ!」


 バラバラバラっと瓦礫を被った正一がフラフラと立ちあがる…


「元気そうじゃねぇかよ、なァ?」


「さっきから何言ってんだよお前…俺はお前と会うのも初めてだし、騎士も鎧もなんのことかサッパリわかんねぇよ」


「へ?あぁ?」


 ポカンと軽く唖然とした後ポリポリと面倒くさそうに頭を搔くと


「…ンじゃあここには要はねェよ、邪魔したなぁお前らァ…」


 と言い残し欠伸をしながら踵を返して歩き出そうとした━━━━━━━━━━━━━


「おい、お前の話は終わっても俺たちの話はこれからなんだけど?」


 ガシッと男の方を掴み引き止める


「アァ?何勝手に触ってんだよ根暗野ろ…」


 バゴォッ!ズザザザザァ…!


「悪かったな、俺の居た世界(とこ)だと暴力沙汰はご法度で話し合いで解決が基本だったんだけど…」


 ネックレスを握りしめ解振心器を顕現させる。


「この世界じゃそんな悠長なことしてる間に自分や仲間が危険にさらされるらしい…」


 剣を肩に担ぎ左手をだらんと脱力させ、やや深めに前傾姿勢をとる…


「悪いけど街の人達の為にも戦わなきゃいけないみたいだ…ちょっと痛いぞ?」


「…ンだよ……拳ばっかだからてっきり同業者かと思ったらよォ…」


 ゴキッ!ゴキッ!と首を鳴らし立ち上がると腰を深くし左腕をやや前に出し右腕を浅く構える…


「チャァンと剣も使えんじゃねぇか…ハナからマジでこいや、舐めてっと殺すゾォ?」


 ズオッ!━━━━━━━━━━━━━━

 ダンッ!━━━━━━━━━━━━━━


 両者が同時に距離を詰めインファイトを始める!


 ガンガンガン!ガガガガガガ!


 (けん)(けん)がぶつかりあう激しい音が天下に響く…


 クハハハハ…ッ!と小さく男が笑い、正一は沈黙で拳をさばく…


 ガンッ!と大きく撃ち合うと互いに後ろへ引く…


「ンだよッ!峰打(みねう)ちできやがって!やっぱオレのこと舐めてんのかァ?ア゛ァ゛!?」


「違ぇよ、お前を行動不能にしちまったら誰が門と家を修理するんだ?ぶっ壊したからには責任持ってあと片付けまでして帰りやがれ」


「ハンッ!じゃあオメェをぶっとばしてサッサとクソ騎士ぶっ殺しに行くとするわ!」


 ドォッ!


 地面を蹴った衝撃だけで土埃が民家ほどの高さまで昇る!


(さっきよりも速い!ギア上げてきたなッ!)


 先程の打ち合いとは打って変わって正一の防戦一方となる…


 ガガガッ!ガッガッガッ!ガガッ!ガッ!


 不規則で強力な打撃が正一を縦横無尽に襲う!


「どォしたよ剣士サマァ?クネクネクネクネ縮こまってちャア、ほらァ」

 

 ガンッ!


 大きく剣を弾かれ胴が空く…すかさず青年が左拳を叩き込む…!


「くっ…!」


 咄嗟に左手で拳を払ったが…これで防御手段を失った状態になる…ニイッと不気味な笑みを浮かべ右足からの回し蹴りが強烈に腹部を襲う…!


「カハッ!」


 肺の空気が一気に放出され視界がぐらりと揺らぎ後方に吹っ飛んでいく…


「攻めと守り同時に出来ねぇアマちゃんがァ…w」


 ニタァッと不敵な笑みを浮かべ余裕の態度をとる男…


 スゥーーーーー…と咄嗟に息を吸い吹っ飛ばされながらも体制を立て直し大振りに打ち込みに行く。


「オイオイ!あれ食らってまだそんな元気なのかよォ!?ハッ!いいねェそう来なきゃ!」


 正一の渾身の大振りを左腕と膝を使い全力でガードする…が。


「ッ…!ア゛ァ゛!!!」


 大きく振り払うとそのまま返す刀で右脇腹を強襲する…


 ドォ!


 右腕を水平にし面積を大きくすることで踏ん張って男は耐える…


「いい振り払いだったけど残ね…」


バギィ!


 振りに行った剣を重心にし反動を利用して大きくとび裏蹴りを顔面に食らわす。


「…思いつきだしブッサイクだけど蹴りのお返しな」


「テェメェ…!」


 フラフラと後退し頬を抑え睨みを利かす…が、すかさずフッと笑って余裕な態度を取り戻す


「今のは面白かったぜェ?アァ、最っ高だァ!!」


 右足を前に出し両腕を深く広げる異様な構えををとる…


 空気がイヤにヒリつき正一も再び構えをとる…


「まだ名前聞いてねぇな…そういやァ…」


「そうだな、自己紹介ならそっちからどうぞ?知りてぇなら自分から名乗るのがマナーだぞ」


 これが最後の激突になると互いが肌で感じ取る…


「はァ…そうかい……」


 ニィッと不敵だがどこか晴れた表情を向ける


「ザナップ・ジェットノックだ」


不可三(ふかみ) 正一(しょういち)だ」


 2人が名乗りを終える…一瞬の間を置き、大地が弾んたかのように思うと激しい打撃音が村中に響く…


 ガン!ガギッ!ダダダダッ!シュッ!シュッ!ザン!


 音の発生源が縦横無尽に移動する…全身全霊、身体スペックの全てを出し切ってもなお2人は加速してゆく…。


(…なんでそんな笑えるんだよ、俺は(刃物)持ってて下手したらお前が切られるかも知れねぇってのに……なんでそんなに楽しそうにぶつかってくんだよッ…!)


 正一は初めての感覚に戸惑いながらも戦闘に没頭してゆく…


(…ンだよ、最初は戦う覚悟もなさそうなもやし野郎かと思ったのによォ……随分楽しそうじゃねェか…アァ…?)


 ザナップの瞳に生き生きとした正一の笑顔が映る。


 片方が一撃を加えるとすかさず一撃を返してくる…打つ、返す、打つ、返す、避ける、打つ、避ける、避ける、打つ…………………


 最初はお互いが気に入らない奴同士だったが今は…お互いがお互いを求め合うかのようにただひたすらに打ち合い、ぶつかり合う…


(フォッフォッフォ…若さとはいいものだのう…)


 様子を見に来たセンリウが二人の戦いを見守る…


(あやつの拳を見ればわかる…恐らくなにか理由があってここに来て暴れたのじゃろう…理由はどうあれ許せはせんが……ワシがもう少し、もう少し若ければ…彼奴(きゃつ)がもう少し早く来てさえいれば………滾るのぉ…)


 若者二人の生命力溢れんばかりの死闘を見て、持つ杖を悔しそうにギュッと握りしめる…


 バキィッ!と顔面に拳が突き刺さる、すかさず峰で吹っ飛ばす。先に体制を整えた正一が隙を晒したザナップに追撃し、一気にカタをつけようする…


 パシィッ!


 !?


 追撃した剣の峰を左手で抑える…


「カタァ付けんぞ…」


 バアッと大きな音を立て空を切り、今日最大威力のパンチを正一に振るう…


 パッと剣を離すと紙一重で拳を躱す…頬を掠め、血が吹き出すがお構い無しに懐に飛び込む……。


(コイツ…!剣を囮にしやがったなァ!?)


 ガラ空きになった胴に右掌をバシッと押し付ける…


下域の唱(レベルト)唸衝(インボルド)!!」


「ガッ…ゴハァッ!!!!」


 ドオッ!


 凄まじい衝撃がザナップの身体中を巡り激しく吹っ飛び土煙が上がる。


「匠術かッ!アハネが教えよったか!」


 ガッハッハッ!とセンリウが派手に笑う


「はァ…はァ…はァ……」


 肩で大きく息をして呼吸を整える…転がった解振心器を拾おうと手を伸ばす………


 ドオッ!と土煙がかき消される…拳を地面に叩きつけたザナップが片膝をついて現れた……


(アイツまだ動けんのかよ………!?)


「ハ…ハハハ…ア゛ッハハハハハハッ!さすがにやべェと思ったがァ…ギリ崖っぷちで踏みとどまれたかァ………?」


 フラッフラになりながら左手を前に出し挑発する…


「さァ、ケリつけ…………」


 …プツッ━━━━━━━━━━━━━━━


 ザナップの左手首にあったオレンジのミサンガがちぎれ、ヒラヒラと落ちる………


 ッ!?


 ?


 ザナップが驚いた表情を一瞬見せ正一は疑問符を浮かべる…


「チッ…撤退だ……」


 ミサンガを拾い上げ踵を返す…


「…は?」


 正一は怒りの表情を見せ吠える…


「…オイ…まだだろ……?オメェがぶっ壊したモンの話が解決して……ぐっ!」


 突如として解けた緊張の糸から開放されたのか、身体のあちこちがミシミシと痛む。あまりの痛みに剣を地面に突き、悶える…


「…ア〜?そういやァ、悪かったナァ…」


 ポリポリと頭を搔き面倒くさそうに振り向く。


「後でちゃ〜んと直しに来てやるからそこで寝とけや」


「…いや、後でじゃなくて今やれよ!お前が」


「だァ〜かァ〜らァ〜〜、出来ねェンだよ…」


 ヒラヒラと切れたミサンガを見せる


「心配性のお節介焼きのおまじないのせいでなァ…」


 突如青白い光がザナップの頭上から覆い被さるように現れる…


「お迎え早いんじゃねェの」


 そのままふっと体が浮きだす…


「逃げんなよ!ザナップ!」


「逃げてねェよ、そういう約束(・・)なんだよ」


 正一の言葉に気だるそうに返すと光を強めどんどん高く上がってゆく….


「名前は覚えたぜェ…不可三正一ィ……次会う時までに俺をもっと楽しませてくれるよう(チカラ)ァつけとけよ?……俺も一から鍛え直すかァ………」


 そう言い残すとビュッと引っ張られるかのように空の彼方に消えていってしまった━━━━━━━━━━━━━━━




1ヶ月で更新出来ればいいなぁと思ったら1週間ぐらいオーバーしちゃった自分の筆の遅さに驚いたんですよね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ