豹(ヒョウ)の流儀〜今日も木の上、狩は寝て待て〜
俺、豹。そう、サバンナのハンター。他の猛獣に比べりゃ地味なもんだ。でも、それでいい。
チーターみたいに脚が速いわけでもないし、ライオンみたいに群れで相手を捻じ伏せるわけでもない。俺は俺のやり方で狩をするだけ。
無駄に走り回ったって余計な体力をつかっちまう。俺の狩は、忍耐と瞬発力。だから、今日もこうして木の上でのんびり待ち伏せ。
実はこの木、大きな花が咲いている。俺には花なんてどうでもいいんだが、インパラたちは違う。甘い花の香りに誘われて、警戒しながら集まってくる。自ら御馳走になりにくるようなもんだな、俺にしてみりゃ。
ほら来た。
一頭のインパラが花を食べるのに夢中で、上への警戒が疎かだ。周りを見ながら俺の真下へやってくる。俺は静かに間合いを図る。
俺の筋肉がしなる。
次の瞬間、俺は飛び降りた。
インパラの身体に爪を突き立て、牙を喉元に喰い込ませる。
地面に叩きつけられてもインパラは暴れるが、無駄だ。牙に力を入れて待つことしばし、その身体はぴくりとも動かなくなる。
「……よし」
狩は成功だ。
他のインパラたちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出したがどうでもいい。ハイエナやライオンたちに嗅ぎ付かれる前に退散だ。
特にハイエナの連中は厄介だ。奴らは他の奴らの獲物を横取りするほうが得意だからな。俺がのんびりしてたらあっという間に囲まれて横取りされるだけならマシ、下手すりゃこっちが大怪我だ。
だから俺にはやるべきことがある。獲物を木の上に運ぶってわけだ。
インパラの身体は思ったより重い。いいもん喰ってやがったな。だが、これくらいは問題ない。インパラの首を咥えたまま、爪を幹に喰い込ませて一歩ずつ、ゆっくり登ってゆく。
途中で、ハイエナの吠える声が聞こえてきた。連中、もう嗅ぎ付けたようだ。だが、残念だったな。俺はもう木の上だ。
インパラの身体を枝の上に落ちないように下すと、落ち着いて周囲を見渡した。
そして静寂が戻ってきた。
ハイエナ共も、悪態つくように俺に一頻り吠えてから去っていった。
さっき散ったインパラでも狙っているのか、遠くではライオンの咆哮が聞こえる。
サバンナの草を揺らす風からはやばそうな連中の気配は感じられない。
これで誰にも邪魔されずに食事ができるってもんだ。
俺はゆっくりとインパラに牙を立てる。新鮮な血の味が口の中に広がる。
「……うまい」
食事の後は、枝の上でしばらく昼寝でもするか。この場所なら直射日光を避けられるし、風も心地いい。
しっかり食べたし、これで明日ものんびりできるってもんだ。
風が吹いた。
俺は目蓋を閉じる。これが、俺の時間だ。