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黒城に叫ぶ 17

 二斗五升の回答書を百姓たちに通達した。18日の日没頃である。

 先ほどまでの騒ぎが嘘のように蓑の固まりが散っていった。


 その直後、江戸の神田川沿いにある松本藩邸への急使として、目付の岡島権兵と清水甚左衛門、翌日には郡奉行の吉田甚五兵衛が松本城を出立した。


 城代家老の鈴木主馬も、直々に藩主に報告に出向こうと決めていたが、その前にやるべきことがあった。

 

「二斗五升挽きの証文の返却と三斗挽きの請願を各村の庄屋に提出させよ」


 鈴木主馬は、家老のひとり鈴木蔵人に指図する。


「そう簡単に言うことを聞くでしょうか」

 

 鈴木蔵人は怪訝そうに眉をひそめる。


「いち早く提出した者には褒美を与えるのじゃ。それと、三斗挽きの請願はこちらで書いてやれ。署名させるだけにしておくのだ」


 そう言うと鈴木主馬は口早に三斗挽きの請願の内容を指示した。


 此度の訴訟、お聞き届け下さり感謝しています。ところが、悪党人どもが後に居残り、二斗五升挽きをなおも訴えこれもまた聞き届けてくださりましたが、戸田康永様の時から三斗挽きでありますから、そのように仰せつけください。ついては二斗五升挽きの御証文はお返しいたします。庄屋一同。


 だいたいこのような内容であった。

 まずは16日以降居残らなかった村に手始めに提出させること、早くに提出した村の庄屋への褒美など、細かなことを指示すると、鈴木主馬もまた19日の夜に江戸へと馬を駆った。

 江戸の松本藩邸に着いたのは二十二日の昼過ぎになった。


「このような次第にございまする」

 

 鈴木主馬は、三十四歳になる藩主、水野忠直にこれまでの騒動について報告した。

 昨日、先に到着した岡島權平らに聞いていたであろうにも関わらず、水野忠直は幕府への聞こえが心配なようで、もともと白みがかった顔であるがさらに血の気がなくなった顔を引きつらせていた。


「そちの到着を待っていたのだ。して、わしは如何にすればよいのじゃ」


(もとはと言えば、このお方が藩の政治に興味をしめさず、贅沢をするから出費がかさんだのだ)


 鈴木主馬は腹の中で罵りつつ、答える。(水野家の説明、先代までのこと)


「幕府御家老中に次第をお伝えしたのち、問題なく対処している旨をお話し申し上げればよろしいかと」


 水野忠直は、大久保忠朝の屋敷へと急いで向かった。


「首尾よろしく」


 藩邸に帰ってきた忠直は、上機嫌に鈴木主馬に言った。


「百姓どもの申し分不届きなり、との仰せであった。訴訟に出なかった者どもには褒美を取らせ、頭取には厳重な仕置きをするようにとも仰せであった」


 無事に藩の御取りつぶしは免れたのである。

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