黒城に叫ぶ 11
鳥のさえずりと眩しいばかりの朝日を受け目を覚ました加助は、あまりの寒さに身を震わせながら体を起こした。隣を見ると、火を絶やさぬように番を託していた彦之丞がしわぶきをひとつすると、鼻をすすりながらうつらうつらしていた。
加助たちと同じように、土手で一晩を過ごした者は数十人ばかりである。そのほかの者は、昨日藩から町方への宿泊を許されたことで城下の旅籠屋や茶屋に泊まっていた。どの宿屋も、むさくるしいばかりの百姓たちでいっぱいになっていた。部屋が足りず、加助たち五十人ばかりは、昨夜同様に総堀の土手で煌びやかな星を眺めながら、十数か所に焚かれた焚火の回りで夜を明かした。
ふと、大手門のほうに目をやると、袴を来た役人らしき人物が門から出てくるのが見えた。
何か大きな声で叫びながらこちらへ近づいてきたのである。
「城門を空ける故、城内の郡奉行所へ訴訟の代表は来るように」
同じことを繰り返し言いながら、その男は百姓らのいる堀沿いに歩いてくるのである。
「よし、行こう」
加助は独り言ちながら、まだ震えている体をもちあげようとした。
「待ってくれ兄者」
いつの間にか目を覚ましていた彦之丞が、立ち上がろうとする加助の肩をぐいと掴んだ。
「騙されるな」
彦之承は、このまま加助たち代表者が城内に入ってしまえば、越訴の罪で捕らわれてしまうのではないか、と言った。
「しかし、行かねば話が出来ぬ」
加助は彦之丞の手を振りほどくと、大手門の方角へ歩き出した。
しかし、二歩も歩まぬうちに足を引っ掴まれ、前のめりにつんのめった。
「何をするか」
彦之丞と思い、己の足を掴んだ者を加助が睨むと、それは同じ焚火を囲っていた善兵衛であった。
「彦之丞の言う通りじゃ。話がしたいのであれば、あちらからこさせればよい」
善兵衛はそう言うと、こちらへやってくる役人に向かってこう叫んだ。
「仰せ渡したいことがあるのであれば、この場所にて承りたい」
この声に続いて、ほかの百姓たちも
「そうじゃ。もうわしらは訴状を提出したのじゃ。次はそちらから来ていただきたい」
「皆、役人様の言うことに騙されるな」
「それができぬなら江戸へ申し出ますぞ」
と声が上がった。
役人は、むっとした顔つきをし、しばらく茫然と立っていたが、踵を返すと大手門の方へ歩み去っていった。
その役人が再び門から出てきたのは、日が頂点に達したころであった。
「今度の願い事、家老中に申し上げたところ、お聞き届けくださった。明日十七日には、村の役人に回答書を届けるゆえ、これにて早々に帰村せよ」
しかし、加助たちはその場から動かなかった。
それどころか、
「この場で回答をいただきたい」
とあくまでこの場にとどまる意思を明確にし、誰も動こうとはしなかった。
さらに時は過ぎ、ようやく回答書が加助たち、百姓の手に渡されたのは、日が沈み始め寒さが一段と深まった時刻であった。