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1話 夜に会う

新連載です

のんびり、不定期更新です



「わたしに、敗国の王子に嫁げだと……!?」


 終戦を迎え、数日たったある日の夜、リースリンデは侍女から冷たく言われた言葉に絶句した。




 アンドラハンとイニスリアとの戦いは、アンドラハンが勝利を収めた。1人の少女が一騎当千の活躍を見せ、長引くと思われた戦いを3週間で終わらせたのだ。

 終戦後ほどなくして、賠償や責任についての話し合いが始まる。そこで、アンドラハン王はイニスリアへある要求をした。

 ━━今は亡き先王の1人娘、リースリンデを引き取れ(めとれ)というものであった。


 人づてに聞かされた王の決定に、リースリンデは目を見開いて呆然と呟く。


「王が……叔父上がそんなことを……」


 リースリンデは、アンドラハンの第1王女として誕生した。

 彼女の両親━━先代の国王夫妻は彼女の誕生の際に亡くなり、空いた玉座に王弟夫妻が収まったと同時に、リースリンデへ冷遇は始まった。


 疎ましく思われながらも王家の1人として育てられ、金色の長髪と吊り目がちの赤い瞳の、女神の如き輝きを持った美しい王女へと成長する。

 それからリースリンデは剣の道を選び、瞬く間に腕をあげ、此度の戦いでは勝利の立役者となった。


 そんな、熟練の騎士すら霞む1番の活躍を見せたというのに、リースリンデを待っていたのは褒美ではなく追放であった。……追放では体裁が悪いので、嫁入りという形を取って。

 リースリンデは右頬の傷にそっと触れた。長さ3、4センチ程度の些細なかすり傷なのだが、白く(やわ)い肌、王女の身分と考えるとそれなりに目につくものである。

 戦いの最中、敵兵の大将首を討ち取ったときにつけられたものであった。


「何よりも、わたしを追い出すのが最優先だったということか……」


 賠償金や戦犯の処分の要求よりも、それを上回る思い……疎ましい姫を追放することが1番の望みらしい。


 リースリンデの寂しい呟きは、誰にも届くこともなく消える。侍女は、言うだけ言ってすでに部屋を出ていた。

 この部屋だけではない。この城のどこにも、リースリンデの心情を汲み取り寄り添ってくれる人は皆無であった。



 そうして、顔のかすり傷が薄まったころ、リースリンデは故郷アンドラハンを出た。


 侍女は同行を拒否し、見送りも誰1人として来なかった。持ち物はトランク1つ。中には服と、化粧品などの日用品。そして宝石や金貨である。

 そして、腰には愛用の長剣をさげている。

 勝国からの姫……向こうからすれば思惑が見えない提案をのまされたのだから、どのような扱いを受けるか分からない。

 兵にでも騎士にでも……いざとなれば逃亡もしてやる、という思いで、イニスリアへの歩みを進めていた。


 まずは、一応迎えが来るという国境の門を目指す。

 夜が明けきらぬうちに移動を始め、ちょうどよく乗り合い馬車を見かけたときは馬車へと乗り込む。

 食事や休憩を挟みながら、1人ひたすら隣国を目指す。

 そして、高かった陽が徐々に落ち、国境を守る関所に着いたときにはすっかり夜になってしまった。


「はぁ、はぁ……」


 朝からずっと動きっぱなしであり、さすがに疲れが出てきたリースリンデはどんとトランクを地面に置いた。

 大した荷物は入っていないはずなのに、すこぶる重く感じる……。しかし、あとは国境を越えるだけ。リースリンデは最後の力を振り絞るように、トランクを再度持ちあげた。


 関所を守る騎士は夜間でもしっかり対応してくれ、リースリンデは無事にイニスリアの土を踏むことが出来た。

 背後で扉がバタンと閉められたのを最後に、リースリンデは1人になった。

 門や周囲を照らす光はあるものの、所々チカチカと瞬いていて心許ない。


 そして、イニスリアについたはいいものの、肝心の迎えの姿が見えなかった。移動の日時は伝えたはず、そして迎えに行くと返事が来たのも確かなのに……。

 遅れているのか、最初から来る気がなかったのか。

 暗闇と孤独、そして疲労。耐えきれず、リースリンデはトランクを傍らに置いてしゃがみこんだ。


「━━━━……」


 膝を抱えて顔を埋める。1度座ってしまうと、再び動けそうもなく……このままトランクを枕にした野宿も覚悟していると、ふと、前方から明るい光が飛び込んできた。


 顔をあげると、ランタンを持った1人の男性が立っていた。

 ランタンの光でも分かる、灰色の髪と青い瞳。長身ですらりとした体格だが、貧相という印象は抱かない。

 ふわりと現れた青年に、リースリンデは訝しげに問う。


「あなたが、イニスリアの王子……?」


 灰毛の男は答えない。代わりに、手を差し出された。


「遅くなった。根回しやごまかしに、少々手こずった」


 少々ぶっきらぼうだが、彼なりの謝罪なのか、そんな言葉を口にする。

 リースリンデは彼の手を取って立ち上がる。よろよろと覚束ない様子を見た青年は再び冷たく口を開いた。


「疲れているだろう。体を休める場所は用意してある。行くぞ」


 行くぞ、と言うものの、男の周囲には馬車などの移動手段が何もない。リースリンデは不思議に思っていると、青年は手に持っていたランタンを地面へ落とした。


 ガシャンという音と共に、光源の1つが消える。それと同時に、激しい風が巻き起こった。

 烈風は青年とリースリンデを囲むように砂塵を巻き上げ、リースリンデの視界を奪う。


 やがて風が収まり目が開けられるようになった頃、次に現れた煌々とした光にリースリンデは目を見張る━━目の前には大きく、青く輝く城があった。


「これは異境門レンバル。城の形をしているが、居住地としての機能はない。あくまで入り口として存在する」


 驚愕に言葉を失うリースリンデをよそに、城を見上げながら淡々と語る青年。

 青年が城へ手をかざすと入り口の扉がゆっくりと開く。そして、そのまま城に向かって歩きだした。


「ま、待て!」


 何の説明もなしに城へ入ろうとする青年に、リースリンデは待ったをかけた。


「どういうことだ。わたしの嫁ぎ先は……。あなたはイニスリアの王子、ではないの……?」


 自分の命令は王子との結婚のはず、そして目的地のイニスリア城はまだ先のはず。リースリンデの問いに、青年は頷いた。


「そうだ。オレはイニスリアという国の王子ではない。すべてはお前を手に入れるための虚言、奸計である。そもそもオレは人間ではない」


 そして、青年は開かれた入り口の奥を見る。


「この先は役目を終えたり、人間を見限った精霊が帰還する異界。名を精霊郷という」

「精霊郷……」


 リースリンデは聞いたことがあった。

 小さい頃の、絵本のなかの夢物語。理想と空想で紡がれた「濁りを知らぬ精霊郷」の物語を。


 青年は再びリースリンデへ手を伸ばす。


「ようこそ我が妃。精霊郷の王、クランセイ・ルーサー・アヴァトルが貴様を歓迎しよう」


 リースリンデは直感した。これは決して幸せな導きではないと。

 しかし、引き返せる場所もない。リースリンデはおそるおそる、けれどもしっかりと伸ばされた手を取った。


「妃という器ではないかもしれないが……よろしく頼む」


 精霊郷へと踏み出すリースリンデに、クランセイは冷ややかに微笑んだ。



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